2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

書評七福神の6月度ベスト発表!

書評七福神とは翻訳ミステリが好きでたまらない書評家七人のことなんである。 ついに夏本番。私の住んでいる自治体では節電のため午後の図書館休館を決めました。ひー、そんな。どこで本を読めというのか。しかし暑さに負けず六月度の七福神のお薦めをお届け…

第六の刺客:リタ・メイ・ブラウン&スニーキー・パイ・ブラウン(その2)

今回は前回に引き続きトラ猫・ミセス・マーフィー・シリーズで『雪のなかを走る猫』リタ・メイ・ブラウン(ハヤカワ文庫HM)でございます。 ところで既読の方に素朴な疑問。前回「猫はいいよなぁ……」なんて言っておきながら何ですが、この猫……というかこのミ…

すごいよ! シーラッハさん――『犯罪』をめぐる冒険(東京創元社編集部・S木)

ところで、先月末にタイトルもそのものずばり『犯罪』 Verbrechen という作品を読みまして、脳天をガツンとやられたところです。 2010年の5月なかば。ドイツ文学翻訳家の酒寄進一先生からこんなメールが送られてきました。このころ、私はひょんなことから酒…

東京創元社 6月の新刊 

『犯罪』/Verbrechen フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)/酒寄進一・訳 東京創元社(単行本)/ 定価1890円(税込)/6月11日/ISBN: 978-4-488-01336-3 一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙…

折々のむだ話(その4)(執筆者・黒原敏行)

折々のむだ話(その4)――理想の翻訳法 最終回は、翻訳者エッセイらしく、理想の翻訳法について思うところを書いてみたい。 理想の翻訳文とは、抽象的にいえば、原文の意味、さまざまなニュアンス、リズム、響き、色合い、陰影、香り、感触などを忠実に再現…

講談社文庫6月の新刊

闇の記憶/Mercy Falls (2005) ウィリアム・K・クルーガー (William Kent Krueger)/野口百合子訳 定価(税込):1,140円/発行年月日:2011/06/15 ISBN:978-4-06-276953-2闇の記憶 (講談社文庫)作者: ウィリアム・K.クルーガー,野口百合子出版社/メーカ…

翻訳ミステリー長屋かわら版・第15号

田口俊樹 若いときには歩くのが大嫌いだったのに、なんか三年ほどまえから急に好きになりましてね。毎日4、50分、犬の散歩をしてるんですが、その散歩中でのこと。 「イヌ、イヌ、イヌ!」という幼い声が聞こえてきたかと思うと、そのあとすぐに母親らし…

第十六回『危険のP』

69歳の老医師、ダウワン・パーゼルは、ある晩忽然といなくなった。管理者として務めている養護老人施設を出たきり9週間も行方知れずだという。彼の前妻・フィオナに捜索を依頼されたキンジーは調査を開始する。現在のダウワンの妻・パーゼルとフィオナの確…

アガサ・クリスティー攻略作戦 第五十五回(執筆者・霜月蒼)

第十八回はR・J・エロリーの巻(執筆者・高橋知子)

今回ご紹介するのは、二〇〇九年に『静かなる天使の叫び』で日本に初めて紹介されたR・J・エロリーの Saints of New York です。タイトルからおわかりのように、舞台はニューヨーク。著者のエロリーはバーミンガム生まれのイギリス人ですが、二〇〇三年に…

扶桑社ミステリー文庫6月の新刊

硝子の暗殺者/ Glass Tiger (2006) ジョー ・ゴアズ (Joe Gores)/坂本憲一訳 定価1000円(税込)/発売日:2011/06/02 ISBN:9784594064105 硝子の暗殺者 (扶桑社ミステリー)作者: ジョー・ゴアズ,坂本憲一出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2011/06/01メディア:…

折々のむだ話(その3)(執筆者・黒原敏行)

折々のむだ話(その3)――Rien ne va plus. 「そこまで(リヤン・ヌ・ヴァ・プリュ)!」 これはドン・ウィンズロウ『サトリ』のカジノ・シーンに出てくるフランス語の言葉。ルーレットが回りだしてまもなく、クルピエが賭けの打ち切りを宣言するときの決ま…

【好評につき再掲載】「死刑囚」売上100冊できるかなっ(執筆者・猫谷書店)

店内では幼児が駆け回り、母親達は本棚の前で世間話に花を咲かせ、その後ろで作業着の男性が汚れた指先でページをめくり、モーター誌を立ち読みしている。すぐ脇の国道でトラックのタイヤが砂埃を巻き上げ、駐車場では拗ねた少年達がたむろしている。 一番売…

武田ランダムハウスジャパン6月の新刊

憎鬼(ぞうき)/Hater (2006) デイヴィッド・ムーディ(David Moody)/風間賢二訳 定価903円(税込)/2011年5月10日発売 ISBN:9784270103876 憎鬼 (RHブックス・プラス)作者: デイヴィッドムーディ,風間賢二出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン…

扶桑社発のひとりごと 20110617(執筆者・扶桑社T)

第14回 前回は、ブックフェアで行なわれる著作権ビジネスについてご説明しました。 翻訳出版をしている出版社には、さまざまな形で新作が届くわけですが、では、編集部ではそのマテリアルをどのように検討しているのでしょうか。 読者のみなさんのなかには、…

第十五回:『空白の時』

87分署攻略作戦第十五回は、シリーズ初の短編集『空白の時』です。87分署シリーズは長編五十三に対して短編が十強と極端に長編寄りのシリーズですが、マクベインの短編作家としての実力はどうなのか。お手並み拝見といきたいと思います。 安アパートの一室で…

アガサ・クリスティー攻略作戦 第五十四回(執筆者・霜月蒼)

TVを消して本を読め!第二十回(執筆者・堺三保/挿絵・水玉螢之丞)

第20回 二枚目詐欺師にご用心『WHITE COLLAR 天才詐欺師は捜査官』 以前、元凄腕保険調査員が一流犯罪者たちを集めて詐欺師チームを結成するという「レバレッジ 〜詐欺師たちの流儀」(連載第6回)をご紹介しましたが、今回はあれと正反対、天才詐欺師がF…

新潮文庫6月の新刊

オベリスク/ Gideon's War (2011) ハワード・ゴードン (Howard Gordon)/横山啓明訳 定価:900円/発売日:2011/06/01 ISBN:9784102178713 オベリスク (新潮文庫)作者: ハワードゴードン,Howard Gordon,横山啓明出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2011/05/28メ…

 【再掲】第4回東京読書会のお知らせ

第4回東京翻訳ミステリー読書会(翻訳ミステリー大賞シンジケート主催)を開催します。 ●日時:6月24日(金) 18:30開場、19:00開始、21:00終了予定 ●会場:渋谷駅近辺 (駅から徒歩5分程度。詳細は参加申込者に直接連絡します) ●課題作品:『ベルファス…

折々のむだ話(その2)(執筆者・黒原敏行)

折々のむだ話(その2)――六本木の不思議ビル 先週の話は、五月十八日に青山ブックセンター六本木店で行なわれた「〈サトリ〉トーク」で話したことなのだが(使い回しをしてすみません!)、私、六本木に行くと、必ず眺めるものがある。 それは六本木交差点…

『盗まれっ子』刊行記念ミニトーク&サイン会のお知らせ

当サイトの編集人にして書評家の杉江松恋がナビゲーターに立ち、毎回ミステリ界を中心に多彩なゲストでお送りする、青山ブックセンター六本木店オリジナル・イベント「杉江松恋の○○トーク」。 その7回め「杉江松恋の○○トーク(まるまる・とーく)Vol.7 盗…

最新海外ミステリーニュース20110611(執筆者・木村二郎)

2011 Nero Wolfe Award Nominees The Wolfe Pack has announced the nominees for the 2011 Nero Wolfe Award as follows:Ice Cold, by Tess Gerritsen (Ballantine) The Book of Spies, by Gayle Lynds (St. Martin's) Bury Your Dead, by Louise Penny (Mi…

【特別寄稿】「死刑囚」売上100冊できるかなっ【後編】(執筆者・猫谷書店)

【前編はこちら】 そして一ヶ月と少し経った4月5日、ついに50冊目を販売しました。冗談交じりに「このまま三桁いってしまえ!」と盛り上がっていたこの時、私は当店を担当している本部社員にメールを送りました。実は初動一週間の段階で反応がいい旨を伝…

【特別寄稿】「死刑囚」売上100冊できるかなっ【前編】(執筆者・猫谷書店)

店内では幼児が駆け回り、母親達は本棚の前で世間話に花を咲かせ、その後ろで作業着の男性が汚れた指先でページをめくり、モーター誌を立ち読みしている。すぐ脇の国道でトラックのタイヤが砂埃を巻き上げ、駐車場では拗ねた少年達がたむろしている。 一番売…

 第十五回『アウトローのO』

使用料金を滞納し、競売にかけられていたあるコンテナから、キンジーの私物が発見された。それは14年前、キンジーが最初の夫であるミッキー・マグルーダーと離婚した際、彼の元に残してきたものであった。 ミッキーは離婚の直前、ベニーという男とバーで諍…

第六の刺客:リタ・メイ・ブラウン&スニーキー・パイ・ブラウン(その1)

猫……そうか。猫か。 ペットに猫を飼っている主人公はいたけど題名に「猫」ってピックアップされた小説はこのコーナーじゃ初めてでないかしらん? というわけで今回のお題は『町でいちばん賢い猫―トラ猫ミセス・マーフィ』 (ハヤカワ・ミステリ文庫)リタ・メ…

初心者のためのジャネット・イヴァノヴィッチ(執筆者・細美遙子)

「初心者のための」ってあるけど「初心者」って何? と思わないでもないのですが、ここではとりあえず「本は読むけどイヴァノヴィッチなんて名前、聞いたことない」という人に、訳者としてイヴァノヴィッチ入門編を書いてみます。 まずはジャネット・イヴァ…

折々のむだ話(その1)(執筆者・黒原敏行)

折々のむだ話(その1)――スプーフ感覚でいこう 評論家・翻訳家の山形浩生さんが、「朝日新聞書評しなかった本」の一つに、私が訳したドン・ウィンズロウの『サトリ』を挙げていらっしゃる。トレヴェニアンの『シブミ』なんてどうせ変な日本誤解小説だろうと…

第2回福岡読書会レポート・後編(執筆者・横山啓明&駒月雅子)

(前編はこちら) 福岡に翻訳ミステリーの未来を見た! 雨のあがった夕暮れどき、ビルの建ち並ぶ繁華街にひっそりとたたずむ洋館にたどりついた。築百年、国の重要文化財に指定された由緒ある建物、福岡市文学館。ここで第二回福岡読書会が開かれるのだ。 木…