【毎週更新】月替わり翻訳者エッセイ

ほっこりしない北欧案内(執筆者・ヘレンハルメ美穂)

(5)フィンランド編・後半 前回「フィンランド編・前半」の続きです。 **** ヘレンハルメ(H):ミステリーで描かれているかどうかにかかわらず、目立つ社会問題、よく議論される問題はほかにありますか? セルボ貴子さん(S):やはり、アルコール…

ほっこりしない北欧案内(執筆者・ヘレンハルメ美穂)

(4)フィンランド編・前半 お次はスウェーデンの東の隣国、フィンランドです。とはいえ、前回のノルウェー編でも話に出たとおり、スカンジナビア三国の言葉とフィンランド語はまったく系統のちがう言葉ということもあって、スウェーデンは隣国なのにあまり…

ほっこりしない北欧案内(執筆者・ヘレンハルメ美穂)

(3)ノルウェー編・後半 前回「ノルウェー編・前半」の続きです。 平等意識の強いノルウェー ヘレンハルメ(H):ちょっと話を戻しますね。もうひとつ、スウェーデンの警察ものを読んでいて思うのは、もともとフラットで平等意識の強い社会なので、階級や…

ほっこりしない北欧案内(執筆者・ヘレンハルメ美穂)

(2)ノルウェー編・前半 今回から2度にわたって、スウェーデンの西の隣国、ノルウェーにスポットを当てます。スウェーデンにいると、ノルウェーのミステリーはとてもよく見かけるのですが、日本ではスウェーデンやデンマークの陰に隠れてしまっているよう…

ほっこりしない北欧案内(執筆者・ヘレンハルメ美穂)

(1)デンマーク編 みなさま、いつもとってもお世話になっております。スウェーデン語の翻訳をしておりますヘレンハルメ美穂と申します。翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトは、拝読するたびに翻訳ミステリーの奥深さに身の引き締まる思いをし、紹介さ…

韓国ミステリ事情(執筆者・祖田律男)

その3 新世代の作家たち 2007年に韓国の出版界において「日流」現象が話題となったが、その一方で韓国推理小説の分野において新しい世代の作家が成長しつつあった。主に欧米あるいは日本の翻訳ミステリを読んで育った世代と言えるだろう。まず、2009年1月に…

韓国ミステリ事情(執筆者・祖田律男)

その2 金来成と金聖鍾 今回は韓国ミステリ界の巨匠金来成(キム・ネソン)と金聖鍾(キム・ソンジョン)について話します。 幻の書『思想の薔薇』を論創社が刊行! まず「韓国推理小説の父」と称される金来成ですが、今のところ一部の探偵小説愛好家を別に…

韓国ミステリ事情(執筆者・祖田律男)

その1 植民地時期朝鮮における探偵小説 韓国ミステリ事情について気ままに紹介させていただきます。とはいえ、韓国ミステリの歴史的な流れを語ろうとすると謎めいた部分があまりにも多過ぎるため、いくつか謎を提起して推理小説風に問題の解決に挑むという…

Carpe diem(執筆者・北川和代)

語学の勉強には(もちろん翻訳の仕事にも)辞書は必須。昨今は、電子辞書やらオンライン辞書やら、持ち運びにも便利で効率よく調べることができ、とても重宝している。で、ラテン語となると……私の通う日伊協会のクラスでは、イタリアの高校教科書を使ってい…

Carpe diem(執筆者・北川和代)

前回、ラテン語を10年ほど習っていると自慢げに書いてしまったが、ちょっと後悔している。そんなに長く勉強していたら、ダンテの『神曲』だって原書で読める(これまで学び舎でご一緒したおじさまの学習者は、ラテン語を学ぶ目的の一番に挙げられることが…

Carpe diem(執筆者・北川和代)

先日、夕食のデザートがわりにダノンビオというカップ入りヨーグルトを一ついただいたら、アルミ蓋の裏に“Carpe diem”とラテン語の格言が、ちいさな活字でぽつんと印刷されていた。結構、驚愕した。いつも蓋の裏には、「ダノンビオ・クラブ入会案内」とか、…

スウェーデンより(執筆者・久山葉子)

第二回目のエッセイをツイートしてくださった方々、ありがとうございました! 皆様の一行コメントを見ていると、「ブリッジ」だったり「リンドグレーン」だったり、はたまた「バナナ横のズラタン」だったり、それぞれに着眼点が違っていて興味深かったです。…

スウェーデンより(執筆者・久山葉子)

今年の夏休み 皆さま、お盆休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。今年の日本は猛暑が続いていると聞きますが、スウェーデンは美しくも短い夏が終わってしまい、すっかり秋模様です。 さて、前回は私の行き当たりばったりO型人生をダラダラと語ってしまいま…

スウェーデンより(執筆者・久山葉子)

初めまして、最近スウェーデンミステリを翻訳させていただいております久山葉子と申します。 まず最初に申しあげておきたいのですが、本の仕事をやってみようかなと思ったのが3年前、その後初めての訳本が出たのが2年前ということで、まだ右も左もわからな…

デジタルデジタルごこうのすりきれ(執筆者・中山宥)

えー、昔から「飲む、打つ、買うは男の甲斐性だぜぃ!」などと威勢のいいことを申します。恥ずかしながら、わたしも、そっちのほうは嫌いじゃありませんので、「(胃薬を)飲む、(キーボードを)打つ、(ミステリー本を)買う」と、ひととおり嗜んでおりま…

デジタルデジタルごこうのすりきれ(執筆者・中山宥)

えー、“日本語の文体”とかけましてぇ、“これからの高齢化社会”と解きます。その心は……“ふくし(副詞/福祉)が肝心”。 以前、翻訳した本に、マイケル・ルイス『コーチ』というのがありまして。今は絶版になっておりますが、いずれ復刊されるかもしれません。…

デジタルデジタルごこうのすりきれ(執筆者・中山宥)

えー、世の中には、NO MUSIC, NO LIFEなどいう乙なフレーズがあるそうで。NO MONEY, NO WIFEなわたしのような無粋者にとってさえ、音楽とはまことに結構なものですな。 じつは来月、音楽の起源に迫るという科学系の翻訳書を刊行させていただく予定になってお…

デジタルデジタルごこうのすりきれ(執筆者・中山宥)

えー、今月これから4回ほど、ばかばかしいお話をさせていただくことになりました中山宥と申します。ひとつよろしくお願いいたします。 とは言いましても、わたしが翻訳したミステリーは、ドン・ウィンズロウの“生涯サーファー、ときどき探偵”シリーズ2冊だ…

読書弱者の読書日記(執筆者・二宮磬)

6月某日 自転車で買物へ出かけたついでに本屋を覗く。『永遠の0(ゼロ)』、『海賊とよばれた男』が平台の目立つところにポップつきで並んでいるが、おなじ著者のものでも、ちょっとずらして『「黄金のバンタム」を破った男』を買う。 子供のころからなぜか…

読書弱者の読書日記(執筆者・二宮磬)

4月某日 食料品の買い出しを兼ねて、いつもとは逆に都心方向へ二駅の書店へ。いい天気なので自転車で行くことにする。最近はよほど大量の買物をするのでない限り、車は使わず、徒歩か自転車で用を足すことにしている。ガソリンは高騰したし、限りある油を燃…

読書弱者の読書日記(執筆者・二宮磬)

4月某日(雨) このたび拙訳『無罪』(文藝春秋刊)が翻訳ミステリー大賞に選ばれるという栄誉に浴し、4月13日の授賞式後ほどなくして、副賞の図書券が送られてきた。なんと5万円分も! 日ごろ翻訳ミステリー・シンジケートには寄与も貢献もしていない…

つれづれの話(執筆者・武藤崇恵)

こんにちは、武藤崇恵です。 さて、最終回となりました。お名残惜しいですが、予告しましたとおり、夏の夕方にぴったりのカクテル二種をご紹介いたします。 なにを隠そう、我が家のベランダには鉢植えがひしめきあっておりますが、不思議なことにすべて食べ…

つれづれの話(執筆者・武藤崇恵)

こんにちは、武藤崇恵です。 思い起こせば「ぐりとぐら」の巨大なカステラやクリスマスケーキに始まり、「大どろぼうホッツェンプロッツ」のザワークラウト(目白のピーコックまで車を走らせ、缶詰を買ってもらいましたが、子どもには美味しいものではありま…

つれづれの話(執筆者・武藤崇恵)

はじめまして、武藤崇恵と申します。 この欄ではとても楽しいうえに、ためになるすてきなエッセイが続いておりますので、できればそれに続きたいところですが、残念ながらそんな知識も器量もありませんので、つれづれの話におつきあいいただければと思います…

黒、ただ一面の黒(執筆者・柳原孝敦)

第4回 黒く塗れ 昨年だったか、フランス出張から帰ってきた同僚の西谷修さんが、当地で話題だったとして、「なんとかというキューバ人が書いた、トロツキー暗殺についてのこんな分厚い小説、知ってる?」と話題を振ってこられた。 もちろん、知っております…

黒、ただ一面の黒(執筆者・柳原孝敦)

第3回 存在自体が黒 1975年生まれというから、まだ30代の若い書き手だ。サンティアーゴ・ロンカリオーロと、とりあえずは表記しておこう。Santiago Roncaglioloという綴りなので「ロンカグリオーロ」と「グ」を書く人もいる。オンビキ(「ー」)があったり…

黒、ただ一面の黒(執筆者・柳原孝敦)

第2回: アルゼンチン・ノワール? 困ったことがある。 ロベルト・ボラーニョ『野生の探偵たち』(白水社、2010)という小説を松本健二との共訳で出した。探偵小説だと思われたようだ。実際には詩人小説(?)なのだが。カルロス・バルマセーダ『ブエノスア…

黒、ただ一面の黒(執筆者・柳原孝敦)

第1回 なんだかおかしな黒:エドゥアルド・メンドサ 突然の話。エドゥアルド・メンドサがぼくの勤める大学に来ることになった。大わらわだ。 エドゥアルド・メンドサというのはスペインの作家。1943年生まれというから、ちょうどスペイン語圏ラテンアメリカ…

ワクワクの言葉を探して(執筆者・青木悦子)

その4 手紙 さてこのエッセイも今回が最終回になりました。これまでは小説家や詩人歌人が仕事として紡ぎだしてきた言葉を見てきたわけですが、最後の今回は彼らがプライヴェートで誰かに語りかけた言葉をご紹介しようと思います。そう、「手紙」です。 わた…

ワクワクの言葉を探して(執筆者・青木悦子)

その3 先達の翻訳 職業がらか、昔の翻訳に手がのびるタチです。 現代とまったく違う環境で、先達の方々がひとつひとつ五里霧中で手探りするようにつむぎだしてきた言葉には、一球入魂ならぬ、一語入魂の気迫と、どうしてもこの物語を日本の読者に届けたい!…