【毎月更新】初心者のための作家入門講座
■シートノック 「瀬戸川(猛資)君が言っていたけども、君が好きなレナードは西部小説の枠を使ってクライムノヴェルを書いているんだよ」 石上三登志さんは生前、まだ駆け出し編集者の頃の僕にそう語った。一九九九年の正月過ぎあたりだったと思う。アクショ…
【↑:執筆者近影?】 こんにちは、ピエール・アンリ・カミ・高野こと、高野優です。このコーナーではフランス文学界が生んだ奇才、あのチャップリンが「世界最高のユーモア作家」と呼んだピエール=アンリ・カミについて、お気楽に紹介したいと思っています。…
ダン・ブラウンのラングドン・シリーズ第4弾『インフェルノ』が11月28日に刊行されるので、今月の月曜枠ではそれに向けての記事を3回書かせていただきます。題して〈インフェルノへの道〉。まだごく少数ながら、見本ができ、きのうの夜に紀伊國屋書店新宿…
いきなり引用からはじめます。牧眞司氏によるクリストファー・プリースト『夢幻諸島から』の書評―― 飛びきりイキの良い海外SFを届けてくれる《新☆ハヤカワ・SF・シリーズ》第一期(全11冊)の最終巻。いちばん最後にいちばん最高の作品がきた。文句なし…
【前編はこちら】 この記事は、エラリー・クイーン著『Yの悲劇』を読了した方を対象に書かれています。読了した方は、伏せ字の部分をカーソルで反転させてお読みください。未読のかたは、なるべく読了後にお読みください。 4 誰が犯人なの? ○○でしょ! さ…
最新作『キング・オブ・クール』が発売されたドン・ウィンズロウ。今日はそのウィンズロウをこれから読もうと思う皆さんのために、訳者の東江一紀さんが以前に書いてくださった記事を再掲載します。キング・オブ・クール (角川文庫)作者: ドン・ウィンズロウ…
1 いつ読むの? 今でしょ! 今、エラリー ・クイーンがブームです。 アメリカでは、2012年にマンフレッド・リーとフレデリック・ダネイの書簡集が、2013年にはF・M ・ネヴィンズの『エラリイ ・クイーンの世界』の増補改訂版が刊行。2014年にはクイーンの…
「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」 「ギムレットには早すぎる」 「さよならをいうのは少し死ぬことだ」 チャンドラーを読んだことのない方でも、フィリップ・マーロウという探偵の名前と、上の…
「初心者のためのジム・トンプスン入門」というお題をあたえられ、考えてみるに、なるほど世界中で高い評価を受ける特異な作家にもかかわらず、日本での売れ行きを考えると「初心者」のかたが多いのはまちがいなさそう。 そこで、最初に考えたアプローチは『…
意地悪く眺める男、あるいは初心者のためのブライアン・フリーマントル入門 ブライアン・フリーマントルはひどい作家である。 小説家としての資質はひどくない。むしろ優れている。丁寧な人物描写に支えられた、登場人物たちの織りなす錯綜した利害関係。そ…
「読んで、読んで、とにかく読んで! ラヴゼイを読まないのは人生の損失ですよ」と、声を大にして言いたい。ラヴゼイをひとことで言うなら、〝極上の読書の楽しみが味わえる作家〟。イングランドの作家だから、香りのいい紅茶をいれて、ショートブレッドをお…
この原稿依頼が来たとき、きっとこれは私が編者を務めている『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』のPRを兼ねてに違いない!と、二つ返事で快諾したところ「おお、それは良いタイミングでしたね」といったお返事が……。偶然だったようです。とはいえ、や…
町の静かな片隅で暮らすおばさん。庭の緑をくぐってベルを鳴らすと、彼女は少し眉間に皺を寄せながらも戸を開いてくれる。部屋にはぎっちりと本が詰まった本棚が並び、鳥籠では小鳥がふわふわの羽に顔を埋めて眠っている。おばさんはコーヒーを飲みながら、…
映画『裏切りのサーカス』公開(これは傑作。くわしくは三橋曉さんのミステリ試写室flim6を)に加えて、第3回名古屋読書会は課題図書を『寒い国から帰ってきたスパイ』にして速攻満席。これは時ならぬル・カレ・ブームか? というわけで、ジョン・ル・カレ…
出会いから翻訳者としての関わりまですべて省くが、私にとってウィリアム・アイリッシュという作家はまるで遠い親戚のような存在、意識せずとも心の隅にいつも引っかかっているのだが、おおかたにとっては過去の作家、このコーナーで取り上げられるのがいか…
初心者のための「カー問答」 「ディクスン・カー(カーター・ディクスン)作品のガイドといえば、江戸川乱歩『カー問答』、松田道弘『新カー問答』が有名ですよね」 「ふむふむ、つまり、その偉大な先達者たちに倣ってみようというわけだな」 「さすが、叔父…
こたつミカンに、エヴァン・ディレイニー・シリーズ! どうもどうも、皆さんご無沙汰しております。前回こちらにお邪魔した時には、冒険小説のことなんざべらべらと語りまして、今回いきなりメグ・ガーディナーを語っちゃう、というのもなんだか節操があるよ…
今年、新作『アンダーワールドUSA』(文藝春秋/上下2巻)が刊行されたジェイムズ・エルロイですが、思えば前の長篇『アメリカン・デス・トリップ』(文春文庫/上下2巻)が邦訳刊行されたのは2001年の9.11の直前のこと。いまの学生さんたちが小学…
甘いものはお好きですか? ではつぎのうち、いちばん好きなのはどれ? チョコチップ・クッキー ストロベリー・ショートケーキ ブルーベリー・マフィン レモンメレンゲ・パイ ファッジ・カップケーキ シュガークッキー ピーチコブラー チェリー・チーズケーキ…
フェイ・ケラーマン? だれだっけ? このコーナーは超メジャーな作家が登場するところじゃないの? ああ、あのジョナサン・ケラーマンの奥さんか、えーと、たしかユダヤ教だか(イスラム教だっけ?)が出てくるシリーズを書いてるんじゃなかった? ずいぶん…
ひところマーガレット・ミラーを紹介する場合、必ずといっていいほど「夫のロス・マクドナルドの名声に隠れてはいるが」という前置きがついたものですが、いまやそのロス・マクの作品ですら数冊を除いて品切れ状態、マーガレット・ミラーにいたってはすべて…
先日久しぶりに映画〈ザ・クライアント 依頼人〉を(途中から)見て、いまは亡きブラッド・レンフロ演じる少年マークの活躍に(途中からだけど)手に汗を握りました。 原作はいわずと知れたジョン・グリシャム。1991年の第二長篇『法律事務所』で一躍世界的…
「ああ、ジーヴス。ちょっといいかな?」 「はい、ご主人様」 「いま書いてるこの小論なんだが、できたら助言をもらえないかなあ」 ペンを置き、ひたいを押さえながら、僕は言った。おそらくひどく途方に暮れた顔をしていたにちがいない。僕の顔を見て二ミリ…
ケン・フォレットは一九七八年、二十九歳のときに『針の眼』でデビューして以来、三十三年のあいだに、フィクションを十八作、ノンフィクションを一作上梓しています。それ以前にも、別名義でフィクションを十作、ノンフィクションを一作書いていますが、ケ…
「初心者のための」ってあるけど「初心者」って何? と思わないでもないのですが、ここではとりあえず「本は読むけどイヴァノヴィッチなんて名前、聞いたことない」という人に、訳者としてイヴァノヴィッチ入門編を書いてみます。 まずはジャネット・イヴァ…
ジャック・ケッチャムというと、残虐非道な話を書く鬼畜系ホラー作家という評判のみをご存じなかたも多いだろう。この小文では、ケッチャムのそうではない面を紹介したい。 ケッチャムの作品の多くは実際の事件を元にしている(『隣の家の少女』はバニシェフ…
洒落っけのない眼鏡に、もっさりと生やした顎ひげ、愛用感のあるジャケットとチノパン。著者近影で見るゴダード氏は、気さくな史学教授みたいな風貌をしています。実際、ご本人はケンブリッジ大学で歴史を学んだわけですが、彼の書く作品には、知性の香りこ…
数年前、私は自分が審査員を務めていたとあるライトノベル新人賞のパーティの二次会で、となりに座った受賞者の若い作家に、「これから読んでおくといいお薦めの本はありますか」と訊かれた。私はすぐに答えた。 「ああ、それならディック・フランシスがお薦…
ディーン・R・クーンツではありません。彼はもはやバート・レイノルズ似の口髭に禿頭でもありません。クロスジャンル・エンターテインメントの文法を20世紀に創造したこの作家は、ときに劇的な変貌を遂げて、作風を知悉したはずの熱心な読者さえあっといわ…
ポール・アルテの特徴をひと言で言いあらわすなら、《クセになる作家》とでもなるだろうか。「読者の魂を揺さぶる名作」だとか「10年に一度の大傑作」とはちょっと違うけれど(そもそもアルテは、毎年ほぼ一作のペースで新作を書いていますしね)、一冊読…