【翻訳者リレー・エッセイ】会心の訳文【隔週更新】

会心の訳文・第二十五回(執筆者・鈴木恵)

最終回のテキストは、ケン・ブルーエンの『ロンドン・ブールヴァード』。とぼけた会話や、そこはかとないおかしみのある独白が随所にちりばめられ、ブルーエン(ブルーウン)の魅力がもっともストレートに表われた軽妙なクライム・ノベルだ。ブルーエンをま…

会心の訳文・第二十四回(執筆者・上條ひろみ)

ああ、ついに来てしまった。「会心の訳文」の原稿依頼。 といっても、もちろん、来るぞ、来るぞと思いながらじりじりしていたわけではない。まさか来るとは思ってなかったの。まさに青天の霹靂。会心の訳文なんて、そんな恐れ多い、と思いつつも、敬愛する同…

会心の訳文・第二十三回(執筆者・藤田佳澄)

「会心の訳文」というお題を頂戴しましたが、わざわざ顧みなくともそんな恐れ多いものがないのは百も承知で、バトンを受けとったことをお断りしておかなければなりません。 匝瑳玲子さんが潔い女っぷりなどと持ちあげてくださったけれど、まずは言い訳じみた…

会心の訳文・第二十二回(執筆者・匝瑳玲子)

「が、父さんが鋭い視線を投げかけてきたので、あわてて口をつぐんだ」 ――『ダークライン』(ジョー・R・ランズデール/早川書房) わたしはいわゆる死語をわりとよく使います。ピーカンとかナウいとか合点承知の助とか(歳がばればれ?)、言ったり書いた…

会心の訳文・第二十一回(執筆者・青木悦子)

読者の皆様、こんにちは。 今回、「会心の訳文」という恐ろしいリレー・エッセイのバトンを渡されてしまった青木です。しかし、日ごろから、過去の偉大な翻訳家二人の言葉、「誤訳は水の中に水素が在るように在る(※)」(小林秀雄)と、「英語というのは絶…

会心の訳文・第二十回(執筆者・森沢くみ子)

清水の舞台から飛びおりたつもりで、恐怖の、いえ、栄誉のバトンを受けとりましたが、やっぱり自分でゼロから書くのは難しい! それに、会心の訳文? うーん、会心って……。広辞苑を引いてみると、「心にかなうこと。気に入ること」。なるほど。気に入った訳…

会心の訳文・第十九回(執筆者・白須清美)

三浦玲子さんから執筆のお話があったときにも申し上げたのですが、恥はかいてもエッセイなんてとても書けないこの私……しかし、来るものは拒まずがフリー翻訳者の性ということで、しばしお付き合いを願います。 こういうお仕事をしていると「これ使いたい!」…

会心の訳文・第十八回(執筆者・三浦玲子)

どこをどう間違ったのか、文章の達人たちの目に触れるこのコラムに何か書け、などという恐ろしい指令が回ってきた。いくら怪奇ものが好きな私といえども、これは相当ホラーな出来事だ。訳書がほとんどない万年かけだしの身が、諸先輩方に紛れ込んでこんなと…

会心の訳文・第十七回(執筆者・駒月雅子)

会心のつもりだった訳文がどこを掘っても見つかりません。幻だったか、でなければ土に還ったのでしょう。そんな事情ですので、会心の訳文の代わりに訳者がじたばたした箇所をいくつかご覧いただこうと思います。 その前に少しだけ現場の事情を。異なる言語の…

会心の訳文・第十六回(執筆者・武藤崇恵)

会心の訳文を書けというお達しが…… いや、リレーエッセイなんですけどね。強制されたわけではなく、みずから謹んでお受けしたのですが、心情的にはお上からのお達しです。 そう言われた瞬間いくつかの文章が頭に浮かび、どれにしようかと頭を悩ませる――とい…

会心の訳文・第十五回(執筆者・森嶋マリ)

「会心の訳文ね、はい、はい、では三つほど……」なーんてすらすら挙げられる翻訳家になってみたい! パソコンのまえで一日じゅうしかめ面で、うなり、頭を抱え、ついにはじっとしていられなくて、ほんの数畳の部屋を意味もなくうろついて、ときどき叫んじゃっ…

会心の訳文・第十四回(執筆者・日暮雅通)

う〜む。これは推理作家協会のリレーコラムで加藤さんを指名したリベンジだろうか(笑)……一番書きたくないコラムに連れて来られちゃったなぁ……。 ホームズもので「会心の訳文」? それは畏れ多いというか、うるさい人が多いからねぇ……。ついでながら、ひと…

会心の訳文・第十三回(執筆者・加藤洋子)

だいぶ昔、大橋巨泉が司会を務める『クイズダービー』(最盛期の1979年から81年にかけて平均視聴率30パーセント!)という番組があったのを、憶えておられる方も多いだろう。いまでも忘れられない一問がある。南極観測隊の越冬隊員に新婚の妻が打っ…

会心の訳文・第十二回(執筆者・栗原百代)

「会心の訳文」ですって? しがない市井の一訳者のわたしに、そんな晴れがましい……いや、でも会心の「訳語」なら、ぜひ紹介したいものがございます。 The sickness of long thinking 長考癖のあるチェス棋士? ……すみません、この語句をはじめて見たときに浮…

会心の訳文・第十一回(執筆者・熊谷千寿)

『ホワイト・シャドウ』 エース・アトキンス/熊谷千寿訳 ランダムハウス講談社 ホワイト・シャドウ (ランダムハウス講談社文庫 ア 4-1)作者: エースアトキンス,熊谷千寿出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン発売日: 2008/08/08メディア: 文庫 クリ…

会心の訳文・第十回(執筆者・島村浩子)

『恋するA・I探偵』 ドナ・アンドリューズ/島村浩子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫恋するA・I探偵 (ハヤカワ・ミステリ文庫)作者: ドナ・アンドリューズ,島村浩子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/08/09メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 14回この商品…

会心の訳文・第九回(執筆者・田口俊樹)

デビューした当時は会心の訳文ばかり書いていた。おれほど翻訳のうまいやつはいないんじゃないかと思っていた。そう、な〜んもわかっていなかったんである。 自分程度の翻訳者なんて世の中にごろごろしていることを知るのに、さして時間はかからなかった。そ…

会心の訳文・第八回(執筆者・中村有希)

かけことばやダブルミーニングを使った文を訳す時に、いつも「今回はどうしようかな〜」と思います。 ルビだけで意味が通じるだろうか、とか。 (訳者註;〜の意味あり)と、カッコやら註やらをつけた方がいいだろうか、とか。 どうしても解説をつけなければ…

会心の訳文・第七回(執筆者・平岡敦)

Et, si quelqu’un avait pu les surprendre à cet instant, c’eût été un spectacle émouvant que la première rencontre de ces deux hommes si puissamment armés, touts deux vraiment supérieurs et destinés fatalememt par leurs aptitudes spéciales …

会心の訳文・第六回(執筆者・東江一紀)

会心というより、腐心、専心、執心、乱心の末のぎりぎり(無理やり)得心もしくは放心、というような例を。 "Disiz a cute lihul place yoo got heah. Gawd, izit faw ehough away from evryting, or what. Oi mean, we drove an drove an drove an drove an…

会心の訳文・第五回(執筆者・芹澤恵)

『クリスマスのフロスト』 R・D・ウィングフィールド 創元推理文庫 He thrust forward a carefully aimed, stubby finger. “How’s that for center?” フロストは慎重に狙いを定めると、太くて短い指を標的に突き立てた。「浣腸は好きかい?」 担当編集者か…

会心の訳文・第四回(執筆者・伏見威蕃)

乙娘が機を織っている。となりの部屋から聞こえる。母親は寝てしまった。機織の音がうるさいと毎晩文句をいう。乙娘は夜っぴてやらなければならず、ときには夜明けまでやることもある巴巴*1(わたし)は乙娘が湯浴みするまで起きている。 What shall I give …

会心の訳文・第三回(執筆者・横山啓明)

『著者略歴』ジョゼフ・コラビント(ハヤカワ・ミステリ文庫)著者略歴 (ハヤカワ・ミステリ文庫)作者: ジョンコラピント,John Colapinto,横山啓明出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2005/11/01メディア: 文庫この商品を含むブログ (12件) を見る 翻訳をして…

会心の訳文・第二回(執筆者・加賀山卓朗)

『運命の日』デニス・ルヘイン(早川書房)運命の日 上 (ハヤカワ・ノヴェルズ)作者: デニス・ルヘイン,加賀山卓朗出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/08/22メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 37回この商品を含むブログ (25件) を見る運命の日 下 (ハ…

会心の訳文・第一回(執筆者・越前敏弥)

『氷の闇を越えて』 スティーヴ・ハミルトン ハヤカワ・ミステリ文庫 警察官のアレックス・マクナイトは、相棒とともにパトロールをしていたとき、異常者に銃で乱射される。相棒は命を落とし、アレックスも瀕死の重傷を負って退職する。それから14年たったい…