会心の訳文・第三回(執筆者・横山啓明)
『著者略歴』ジョゼフ・コラビント(ハヤカワ・ミステリ文庫)
- 作者: ジョンコラピント,John Colapinto,横山啓明
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 文庫
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前置きが長くなりました。そこで「会心の訳文」です。「会心」というところを少し読み替えて自分のなかで「特に印象に残っている訳文」ということで、デビュー二作目の長篇(デビュー作に取り組んでいるときは、もう必死であまり覚えていないのです。担当編集者さん、ごめんなさい)を紹介させていただきます。
わたしの長篇二作目は『著者略歴』という作品です。その書き出しは次のようになっています。
For reasons that will become obvious, I find it difficult to write about Stewart.
中学生でもわかる平易な文章ですが、これは苦労しました。この小説は一人称で語れれていくのですが、その「語られていく」ところにある仕掛けがあります。これはネタバレではないので未読の方は、ご安心を。だから、それをなんとなく予感させる文章にしたかったのです。出だしの For reasons をどうするか。「理由」という日本語を置くと、小説の出だしとして、うまく流れない。ごつごつした感触になってしまいました。そこで以下のような訳文に落ち着きました。
おいおい明らかになるけれども、スチュワートについて書こうと思うとペンの動きが滞る。
ここから物語は始まるのですが、その先は訳しながら楽しませてもらいました。ほんとうに面白い本でした。思い出に残る一冊です。
その後、ジョージ・ペレケーノス『変わらぬ哀しみは』、マット・ラフ『バッド・モンキーズ』といった作品との幸せな出会いがあり、それぞれに「会心の訳文」がありますが、それはまた別の機会に。
文章を紡ぎ出す快感。翻訳を職業にしてよかった、と書きたいところですが、職業の後ろに?が入ってしまう現状は辛いですね。
〈作品についての情報〉
『著者略歴』
作家になることを夢見る青年キャルは、ある日ルームメートが書いた原稿を盗み読んでショックを受けた。自分をモデルに書かれたその小説が、紛れもない傑作だったからだ。ところが、ルームメイトが事故で死んでしまい、キャルはそれを自分の作品と偽り発表してしまう。一躍ベストセラー作家となって夢をかなえたキャル。ところが、盗作の事実を知る脅迫者が現われたとき、彼の生活は足下から崩れはじめる・・・・・・
- 作者: ジョージ・P.ペレケーノス,George P. Pelecanos,横山啓明
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/03/01
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- 作者: マットラフ,Matt Ruff,横山啓明
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/10/12
- メディア: 単行本
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