【連載エッセイ】ミステリー好きは夜明けに鍵盤を叩く【毎月更新】
私事で恐縮ながら、現在の海外の小説への偏愛を形づくるのに自分が多大な影響を受けたと思われるふたりの人物がいる。 ひとりは、中学時代の担任だった教師のT氏。強烈な個性の持ち主で、ホームルーム中に感極まって涙を流したり、じつはクラシックの音楽家…
音楽好きでなくとも、フィドルという楽器の名前を聴いたことがある方は少なくないと思う。言ってみればヴァイオリンの別称。すぐさま浮かぶイメージというと、ミュージカル『屋根の上のバイオリン弾き(Fiddler on the Roof)』(1964年)や、ユダヤ系俳優ト…
先日、なんと55周年を迎えたという銀座の老舗バーでユニークなイベントが催された。数多のCM曲やドラマの主題歌、もしくは往年の人気TVドラマ「寺内貫太郎一家」(向田邦子原作)の頑固親父役でおなじみの作曲家・小林亜星さんが、手回しの蓄音機で昔懐…
巷を席捲している村上春樹の長篇小説『騎士団長殺し』の内容をごく大雑把に説明してしまうと、肖像画家である主人公が離婚問題を機に長い放浪の旅を経て移り住んだ友人の父親(高名な日本画家)宅で、タイトルと同名の「騎士団長殺し」なる絵画を見つけたこ…
もはやいい歳を迎えている身ながら、最近になって突如フリューゲル・ホーンというトランペットに似た楽器を吹きはじめた。いい大人なんだからそろそろきちんとジャズも学ぼうよ、という目的で先輩が結成したバンドからのお声掛けがきっかけ。サックスやトラ…
自分がバンドなんか組んでフロントに立って拙い歌を披露するようになってからというもの、声という“楽器”が、力強さだけでなく繊細さも柔軟さも求められる、どれだけ難しいものであるかを知るようになった。しかも、声量や音程は当然のこととして、その声質…
今日から地球人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)作者: マットヘイグ,Matt Haig,鈴木恵出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/11/21メディア: 新書この商品を含むブログ (12件) を見る ビーチ・ボーイズをカリフォルニアのたんなるサーフ・ミュージックの人気コー…
ザ・カルテル (上) (角川文庫)作者: ドン・ウィンズロウ,峯村利哉出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2016/04/23メディア: 文庫この商品を含むブログ (27件) を見るザ・カルテル (下) (角川文庫)作者: ドン・ウィンズロウ,峯村利哉出版社/メーカー: …
その先は想像しろ (集英社文庫)作者: エルヴェ・コメール,田中未来出版社/メーカー: 集英社発売日: 2016/07/20メディア: 文庫この商品を含むブログ (5件) を見る 海岸線の波打ち際に停められたメタリックブルーの高級車マセラティ・インディ。徐々に満ちてい…
愛しき女に最後の一杯を (ハヤカワ・ミステリ文庫)作者: ジョン・サンドロリーニ,高橋知子出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2016/04/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (4件) を見る いったい全体、どうしてフランク・シナトラって人があんなにもビッグ…
こういう連載原稿を書かせていただいてると、妙な符牒というのがある。 ごく稀にCDを整理したりして懐かしい音楽を引っぱり出してきたりするけれど、ここ最近は、古いディキシーランド・ジャズやクレオールのジャズなんかをかけながら本を読んだりするのが…
本年度のアカデミー賞で6部門(主演女優・助演女優・作曲・脚色・撮影・衣装デザイン)にノミネートされて話題となったのが、トッド・ヘインズ監督(「エデンより彼方へ(Far From Heaven)」〔2002年〕など)による映画『キャロル』。結果的には6部門とも惜…
デイヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、モーリス・ホワイトと、立て続けにつたえられた音楽界重鎮たちの訃報に、思わず「次はいったい誰が……」と音楽ファンがつい考えてしまうのもいたし方ないことではないだろうか。近い世代での酒席ともなると、このとこ…
Blackstarアーティスト: David Bowie出版社/メーカー: Sony発売日: 2016/01/08メディア: CDこの商品を含むブログ (12件) を見る デイヴィッド・ボウイは、けっして死なないものだと思い込んでいた。ある日忽然とこの地球上に現れ、ある日忽然とこの地球から…
シャルレリー・クチュールなる人物をご存じだろうか? フランスはナンシー生まれのミュージシャンとして40年近いキャリアを持ち、数多くの映画のサウンドトラックを手掛けている才人である。その一方で、絵画や写真も発表している。日本では馴染みが薄いかも…
1981年の来日公演以来34年ぶりだという英国のシンガー&ソングライター、レオ・セイヤーのライヴに、すっかりノックダウンされてしまった。 代表曲である「星影のバラード(More Than I Can Say)」(ボビー・ヴィー1959年ヒット曲のカヴァー)からスタートして…
今年になってもっともショックだったことのひとつが、英国ミステリー界の女王ルース・レンデルの訃報だ。享年85。もっとも好きな作家の一人だと迷わず断言できる存在だっただけに、残念でならない。 デビュー作『薔薇の殺意(From Doon with Death)』(1964…
何度かあからさまなくらいはっきり白状しているけれど、小生、音楽オタクを自認していながら、クラシックやら現代音楽やらにはめっぽう弱い。根っからのポップス人間なのだ。音楽とミステリーとの接点をテーマに書かせていただいているけれども、なんとかそ…
スリム・ゲイラードという人物をご存じだろうか? 1930年代から1970年代にかけて活躍したキューバ出身のシンガーで、ヴィブラフォン奏者であり、ギタリストであり、ピアニストでもあるという、マルチの才能に恵まれた黒人のジャズ・アーティスト。しかもタッ…
冒険小説界の巨匠ジャック・ヒギンズが世紀の名作『鷲は舞い降りた(The Eagle Has Landed)』(1975年)の続篇として『鷲は飛び立った(The Eagle Has Flown)』(1991年)を発表したときには、さすがに多くの冒険小説ファンが、それこそあんぐりと口を開け…
大好きな作家の話をしよう。 覆面作家として長くその素性が明らかにされなかった作家トレヴェニアンのことだ。残念ながら2005年に逝去。享年74。ミステリー読者の心をとろかすような名作ばかりを残したが、その傑作群の持つ色合いがあまりに多彩だったために…
そもそも、どんなきっかけで自分がミステリー好きになったのか、どうも思い出せずにいる。とにもかくにも事実なのは、まだ小学生だった頃のことだ。探偵小説という恐るべき娯楽と出会ってしまった。それから舐めるように“読みまわした”本というのが、創元推…
酒飲み仲間でもある、某(午後の紅茶のひとときが似合う)女性作家Eさんがとあるクリスマス・ソングを大好きだというので、そればかりを入れたiPodシャッフルを誕生日祝いに贈ったことがある。同じ曲をいろいろなシンガーが歌っているカヴァー・ヴァージョ…
以前にどこかで書いたことがあったかもしれないけれど、中学生時代に席が隣り同士だった同級生で、髪を二つ編みにしている女の子がいた。そう、三つ編みでなく。いまから思うと、ぽっちゃりはしていつつも、かなりの美女の部類だったように思う。仮にHとし…
短編集『密猟者たち(Poachers: stories)』(1999年)の表題作でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)最優秀短編賞を受賞した作家トム・フランクリンは、その後も、ミシシッピ州の片田舎を舞台に白人と黒人の“元”親友2人組を主人公に据えた3作目の長編『ねじ…
じつは星一徹、『巨人の星』全篇を通して一度しか卓袱台を引っくり返していない、という話を聴いたことがある。いくら腹が立つ世の中だとはいっても人間そうそう爆発しないものだ。ところが、その限度の判断が難しい青い世代は、ときおり恐ろしい悲劇を引き…
昨年夏、音楽評論家の友人に誘われて、南青山にあるライヴ・レストランへ年若い女性ヴァイオリニストの演奏を観に行った。 リンジー・スターリング。アメリカのオーディション番組「America’s Got Talent」で注目され、激しいダンスとともにヴァイオリンを弾…
ハイ・フィデリティ (新潮文庫)作者: ニックホーンビィ,Nick Hornby,森田義信出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1999/06メディア: 文庫 クリック: 12回この商品を含むブログ (51件) を見る 英国の人気作家ニック・ホーンビィのデビュー作『ハイ・フィデリティ…
先だって、お名前に心当たりのない女性からツイッターでリプライをいただいた。ひょっとして○○年に××自動車教習所に通っていた佐竹さんでしょうか? といった内容。「?」マークに包まれながらも何とも形状しがたい既視感に襲われ、それでも先方の素性を思い…
昼時になると、仕事場の近くに移動車輌パン店が焼きたてパンを販売しにくる。昔なつかしいメロディーの出だしを延々とループさせて流し続けるので、否が応でも耳を向けてしまい、途端に作業も中断。言い知れぬ空腹感がもたげてきて、それに敢えなく屈してし…