第13回 これって音楽大好きだよね?(執筆者・佐竹裕)
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- 出版社/メーカー: 新潮社
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- 作者: ビルフラナガン,Bill Flanagan,矢口誠
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- 作者: ビルフラナガン,Bill Flanagan,矢口誠
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/01
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- 作者: カールハイアセン,Carl Hiaasen,田村義進
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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ま、音楽業界ものというよりは、セレブとそれを追うパパラッチとをテーマにしたスラプスティック・ミステリーということなのだが、とりあえず、物語の中心となるのがお騒がせセレブ・シンガーだということもあって、一部『A&R』の世界をさらにデフォルメしたような場面も楽しめる、広い意味での業界小説となっているので。
件のポップスターというのが、生まれついての絶望的歌唱力で音楽的才能のかけらもない女の子、チェリー・パイ。ティーン・アイドル出身ながら口パクでのライヴ、ドラッグとセックスには奔放すぎる、典型的なお騒がせセレブである。薬でラリっているときなどのために、姿かたちの似た女優の卵アンを替え玉として雇っている。そこに、チェリー・パイを最優先につけ狙うメタボ体型パパラッチのアボット、チェリー・パイのボディガードとして新たに雇われる、片手に芝刈り機の義手をつけた非情な大男ケモ、といった、まさに一癖も二癖もある登場人物のオンパレードで、彼らが互いに化学反応を起こし合い物語は転びに転がっていくのだ。
具体的には、パパラッチのアボットがチェリー・パイと取り違えて替え玉のアンを誘拐してしまったことから、事件はねじれにねじれていくのだが、そこにさらに、チェリー・パイの親類縁者、プロデューサー、ボディガード、彼女のセックス・フレンド、別のパパラッチといった有象無象の思惑が絡まりに絡まって大ごとになっていく様を、独特のハイアセン節を炸裂させて語り下ろす、独壇場のユーモア傑作なのである。
1953年生まれということなので御歳61ということになるハイアセンが、本作では現代のポップシーンや映画業界に関して、(背伸びしてなのか)じつに豊富な情報をちりばめて業界小説に仕立てているところがおみごと。具体的に言及されるセレビリティのエピソード(大半は嘘八百だろうが)たるや、実在するだけに思わず吹き出してしまうほど。相も変わらず、たいしたものである。もちろん、お楽しみはそれだけではない。本作には、ハイアセン作品のファンにはおなじみの人物が登場するのだ。
怪人スキンク。フットボールの花形選手からヴェトナム戦争の英雄となりフロリダ州元知事にまで登りつめた人物で、60歳をゆうに越えていて、ショットガンを携え、褐色に日焼けして皺だらけ、片目は義眼で、無毛の頭頂部の横から三つ編みにした灰色の髪を垂らした大男。ふだんは原生林に暮らしていて、自然を破壊しようという輩には天誅を下すという快(怪?)人物である。第2作『大魚の一撃(Double Whammy)』(1987年)で初登場し、そのあまりに特異なキャラクターで鮮烈な印象を読者に植え付けて以来、ほぼ2作に1回の割合でハイアセン作品に登場する。
読者の中には、前述の用心棒ケモにもピンときた方がいらっしゃると思う。そう、『顔を返せ(Skin Tight)』(1989年)に登場した殺し屋である。再登場と相成ったわけだが、これまたスキンクに負けず劣らずの存在感。両雄相まみえる場面が本作の読みどころのひとつだろう。
で、怪人スキンクはというと、どうやら1970年代前半の音楽がお好みのようなのだ。本作でもとりわけ印象的なのは、不正に宅地開発許可を受けた悪徳不動産デベロッパーを懲らしめるためにバスジャックするスキンクが、オールマン・ブラザーズ・バンドの代表曲「ウィッピング・ポスト(Whipping Post)」を口ずさんでいたという乗客の証言があるところ。ウィッピング・ポストは「磔柱」とでも言ったらいいのだろうか、バンドのデビュー・アルバム『オールマン・ブラザーズ・バンド(The Allman Brothers Band)』(1970年)に収録されたナンバーで、ハイアセンもよほど気に入っているのか、アンのホテルの部屋に刑事が訪れる後半シーンでも、再度、この曲をスキンクに鼻歌でうたわせている。
さらには、ヴェトナム戦争を題材にしたクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「ラン・スルー・ザ・ジャングル(Run Through The Jungle)」を歌いながら、ローラーブレード少女にちょっかいを出すエピソードも挟まれていた。ヴェトナム戦争下でCCRを心の支えにしていたというのだ。
また、チェリー・パイの両親、プロデューサー、広報担当者らのチームに対し、アン&スキンクが迎え撃つクライマックス間近での会談。席上でスキンクがこの話し合いを、ミック・ジャガーの「メモ・フロム・ターナー(Memo From Turner)」みたいだ、というシーンがある。ミックが映画「パフォーマンス」(1970年)に出演したときにシングルとして発表し、後にローリング・ストーンズの未発表曲等を集めたアルバム『Metamorphosis』(1975年)で再演版が収録されているナンバー。
かように音楽好きと思われるハイアセンが、2003年に惜しくも逝去したシンガー・ソングライター、ウォーレン・ジヴォンと旧友同士だったことはつとに有名だ。なにしろ、2002年の『ロックンロール・ウィドー(Basket Case)』のラストには、前年にジヴォンが発表したアルバム『マイ・ライデス・ヒア(My Ride’s Here)』に収録されたハイアセン作詞による「バスケット・ケース(Basket Case)」の歌詞が出てくるのだから。ハイアセンの作詞提供は、じつはこれが最初ではない。ジヴォンのアルバム『Mutineer』(1995年)には、それに先んじてハイアセンが作詞を担当した「Seminole Bingo」と「Rottweiler Blues」という2曲が収録されているのだ。
シカゴ出身のジヴォンは1960年代にデビューしたが不遇をかこち、ジャクソン・ブラウンのバックアップによって1976年に『さすらい(Warren Zevon)』で再デビューをはたした。リンダ・ロンシュタットがアルバム『風にさらわれた恋(Hasten Down The Wind)』(1976年)でとりあげたタイトル曲は高く評価され、また、グレイトフル・デッドがジヴォンのヒット曲「ロンドンの狼男(Werewolves of London)」をライヴで好んで取り上げるというのも事実。ソングライターとしての存在感にも磨きがかかっていった。
ハイアセンとジヴォン。前回の歌の共作で意気投合したこの二人が、今度は両者の作品でコラボレーションを企んだのかと思うと、なんだか微笑ましい。しかも、「basket case=精神異常、八方ふさがり」で、とはっ!
ほかにも、気紛れなチェリー・パイが首筋に彫ってもらおうとするタトゥーが、ガンズン・ローゼスのヴォーカリストであるアクセルとシマウマとの半人半馬の絵柄だとか、細かい部分で読み手の洋楽マインドにまた火をつけてくる。なんだか、ハイアセンが大好きな曲を片っ端から集めて、てんこ盛りの編集テープを作っているような、そんな親近感を感じさせてくれる作品だったのでした。
ちなみに、ここまで業界ネタを盛り込み多分に視覚的な要素の濃いハイアセン作品だけれど、意外と映像化はされていない。『ストリップ・ティーズ(Strip Tease)』(1993年)が、「素顔のままで」(1996年)の題名で、アンドリュー・バーグマン監督&脚本、デミ・ムーア主演で映画化されたくらいではないだろうか。
◆youTube音源
"Whipping Post" by The Allman Brothers Band
*これは最近のライヴ・パフォーマンスから。
"Memo From Turner" by Mick Jagger
*ミック・ジャガー主演映画の映像から。
"Run Through The Jungle" by Creedence Clearwater Revival
*クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル最近のライヴより。
◆CDアルバム
『The Allman Brothers Band』The Allman Brothers Band
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『Hasten Down the Wind』Linda Ronstadt
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佐竹 裕(さたけ ゆう) |
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1962年生まれ。海外文芸編集を経て、コラムニスト、書評子に。過去に、幻冬舎「ポンツーン」、集英社インターナショナル「PLAYBOY日本版」、集英社「小説すばる」等で、書評コラム連載。「エスクァイア日本版」にて翻訳・海外文化関係コラム執筆等。別名で音楽コラムなども。 直近の文庫解説は『リミックス』藤田宜永(徳間文庫)。 昨年末、千代田区生涯学習教養講座にて小説創作講座の講師を務めました。 好きな色は断然、黒(ノワール)。洗濯物も、ほぼ黒色。 |
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