【毎週更新】月替わり翻訳者エッセイ

本屋めぐりはママチャリで(執筆者・青木純子)

第3回 師匠のDNA 『忘れられた花園』はおかげさまで八刷を達成、想定読者数三千人、初版止まりが当たり前の地味な文芸翻訳者にとって、こんなにうれしいことはありません。 フトコロがぬくもるだけでなく、誤字・脱字・誤訳(!)をちょこっと直せるのも…

本屋めぐりはママチャリで(執筆者・青木純子)

第2回 映像の力 皆様、池袋に自転車で行くときには注意が必要です。 豊島区の違法駐輪の罰金五千円。 これ結構イタイ。 しかも撤去されたブツの引き取り場所が交通不便地帯にある(わざとか?)。 池袋駅周辺に駐輪場は少ないし混んでるしで路上駐輪をやりが…

本屋めぐりはママチャリで(執筆者・青木純子)

第1回 五万円の至福と憂鬱 はじめまして、何の因果かこれから一か月間、この欄を担当することになった青木純子です。 因果はいちおうございます。 今年四月、同業の皆々様が投じてくださった清き一票のお蔭で、拙訳『忘れられた花園』が栄えある第三回翻訳…

在外翻訳者の憂鬱(執筆者・栗原百代)

4 世界に、天にヘルプ! こんにちは。在港ぎりぎり訳者(←先週記事参照)のクリハラです。 香港ID所持者なのに、今ごろ香港のボルヘスこと董啓章『地図集』(藤井省三、中島京子訳、河出書房新社)を読んでます。英語と漢字の多義性を活かした絢爛たる与…

在外翻訳者の憂鬱(執筆者・栗原百代)

3 不完全ペーパーレス化運動、とぼとぼ展開中 在港ぐだぐだ訳者クリハラの連載も、ついに3回目。で、ふと思ったのですが、香港を舞台にした翻訳ミステリーってどんなのがありましたっけ? 中国の玄関口として国際陰謀ものと相性がいいのかしら。ル・カレ『…

在外翻訳者の憂鬱(執筆者・栗原百代)

2 モノとしての本(後)からモノ以上としての本へ どうも。今日も湿気ずぶずぶの香港より、在外翻訳者の栗原百代です。 こちらに来てがっかりしたのは、市街地では業務用を除いて自転車走行が不可なこと。まあ、四輪車はやたら多いし警笛ガンガン鳴らすし、…

在外翻訳者の憂鬱(執筆者・栗原百代)

1 モノとしての本(前) 2009年10月、香港に転居しました。 英語の本を日本語の本に翻訳する仕事をしている栗原百代と申します。 初めての訳書を出してもらったのが1999年なので、11年目の転機でした。 ちなみに香港は、日本とは時差1時間(東京が朝9時な…

翻訳書生気質(執筆者・西崎憲)

4 マイナーポエット礼讃 自分のやるべきこと、仕事の方向性をさまざまに勘案するのはもちろん有益であるだろうが、結局は好きなものを好きにやるだけだから考えても無駄だという意見にも一面の真理はあるだろう。 ここ数年ばかり文学史的に重要な作家を主に…

翻訳書生気質(執筆者・西崎憲)

3 誤訳 人における死のように翻訳者における誤訳は必然である。翻訳をやる者たちのただの一人も誤訳から逃れることはできない。 たぶんそう言い切ってもいいと思う。もちろん複数で臨むという場合にはだいぶその割合を小さくできるかもしれないが。 第三回…

翻訳書生気質(執筆者・西崎憲)

2 名訳 さて、二回目は「名訳」について思うところを述べさせていただこう。しばしお付きあいを。 翻訳に関するエッセイのテーマとしてはお馴染みのものということになるが、切り口には意外にヴァリエイションがあり、かつ書き手の「底」が明らかになる面も…

翻訳書生気質(執筆者・西崎憲)

1 翻訳という仕事 もしかしたら年齢を重ねることにも多少は良いところもあるのかもしれない。 そう思うのは若い頃より「自分」というものに慣れ、仕様書のようなものを手に入れた気もするからである。 自意識あるいは自尊心は大変厄介な代物で、手に負えな…

今何訳してる? (執筆者・日暮雅通)

第4回 訳文は腐るか? 今回が担当分の最終回ですが、なんだか某誌の「我が社の隠し玉」みたいになってきました(笑)。いや、“現在進行形”の仕事が多いのは当然自慢になりませんし、むしろ同時進行により質が落ちているんじゃないかというお叱りを受けそうで…

今何訳してる? (執筆者・日暮雅通)

第3回 3人の巨匠たちと 今週はちょっと趣向を変えて、「すでに訳し終わっているけれどもまだ訳している」本のことを書きます。どういうことかというと、原稿をいったんは渡したものの、刊行までにまだまだ時間がありそうなので改訂を続けている、というケー…

今何訳してる? (執筆者・日暮雅通)

第2回 ホックとホームズ ヴァン・ダインの、というかファイロ・ヴァンスものの“新訳”に絡んでは、語りたいことがまだまだあるのですが、そういうものを書くは自分のホームページ(サイト)を作ってからにしたいと思っています。今さらHPでもないだろう、ブロ…

今何訳してる? (執筆者・日暮雅通)

第1回 永遠のヴァン・ダイン 今月の本欄を担当する、日暮です。4回のお付き合い、よろしくお願い……したいのですが、去年の1月に連載されたピエール・アンリ・カミ・高野優さんの『初心者のためのカミ入門』第2回を待たれている方には、「ごめんなさい」です…

言葉のまわりで(執筆者・古屋美登里)

第4回 誘拐 二十年ほど前になりますが、幼い子供を連れてアメリカに二週間ほど滞在することになりました。子供連れで行くのは初めてだったので、長年アメリカで暮らしている友人にアドバイスを求め、子連れで行けるレストランなどの情報を聞こうと思ったの…

言葉のまわりで(執筆者・古屋美登里)

第3回 めくばせ 作品のなかで作家が過去の文学作品を彷彿とさせる表現を使ったり、文学作品に登場する言葉を効果的に取り入れたりして、読み手に先人の作品を喚起させることがあります。それをめくばせ(ウィンク)と呼んでいますが、めくばせというのはた…

言葉のまわりで(執筆者・古屋美登里)

第2回 倉橋由美子と翻訳の文体 本に携わっている方は多かれ少なかれ文学的出会いというものを経験していると思います。わたしの場合、最大の「文学的出会い」は、高校二年生のときに倉橋由美子という作家を知ったことでした。 六歳上の従姉に勧められて『暗…

言葉のまわりで(執筆者・古屋美登里)

第1回 烏鷺(うろ)の争い 今日(2月5日)放送されたEテレのNHK杯囲碁トーナメントの準々決勝は、趙治勳二十五世本因坊と張栩(ちょうう)棋聖の対局でした。このふたりはとんでもなくすごい棋士なんです。囲碁のタイトルには棋聖、名人、本因坊、天元、…

懐かしきもの(執筆者・田中一江)

第3回 小説の翻訳に大切な要素はいろいろあるが、会話をうまく訳せることもそのひとつだと思う。 地の文がどんなに魅力的だろうと、ぎこちない会話文が出てきて違和感をおぼえ、興ざめしてしまったことはないだろうか。もちろん得手不得手はあるし、まった…

懐かしきもの(執筆者・田中一江)

第2回 先日、本棚に並べた自分の訳書を整理していたら、懐かしい一冊が出てきた。 パコ・イグナシオ・タイボ二世という、いかにもラテン系っぽい長い名前の作家による『影のドミノゲーム』という小説。出版されたのは1995年なので、それこそ懐かしいに…

懐かしきもの(執筆者・田中一江)

第1回 明けましておめでとうございます。 みなさま新しい年をお健やかにおむかえのことと思います。 わたしは故あって長年住み慣れた東京を離れ、神奈川県の一隅にて2012年を迎えることとなりました。 だらしなく物をごちゃごちゃため込む性質の人間に…

ドイツミステリへの招待状(執筆者・酒寄進一)

ドイツミステリへの招待状 その4 『ミステリが読みたい!2012年版』の「早川書房2012年の話題作」のコーナーでフィツェックの翻訳出版がアナウンスされていました。邦題は不明ですが、『眼球コレクター』といった意味のDer Augensammlerがタイトル。「満を持…

ドイツミステリへの招待状(執筆者・酒寄進一)

ドイツミステリへの招待状 その3 今年はおかげさまで、フェルディナント・フォン・シーラッハ『犯罪』がいろいろなところで評価され、ありがたいことだと思っています。第2短篇集『罪悪』は来年2月の出版を目指して作業を進めています。 『犯罪』と『罪悪』…

ドイツミステリへの招待状(執筆者・酒寄進一)

ドイツミステリへの招待状 その2 先回少し触れたドイツ警察小説の著者をまず紹介しておきましょう。女性作家のほうはネレ・ノイハウス(1967年生)、男性作家のほうはフォルカー・クッチャー(1962年生)。共に中堅というか、これからドイツミステリを背負…

ドイツミステリへの招待状(執筆者・酒寄進一)

ドイツミステリへの招待状 その1 お初でございます。ドイツ文学の翻訳をしている酒寄です。以後お見知りおきを。 じつをいうと、ぼくの専門は児童文学のファンタジーや歴史小説で、これまでほとんどミステリを翻訳してきたわけではありません。これから4回…

さよならを言うたびに(執筆者・大久保寛)

第4回 ここ2、3年、イクメンという言葉をよく聞く。 最初聞いたときは、イクメンてなんだ、イってしまう男? ソウロウ男のことか、などとよからぬ連想をしてしまったものである。 加齢臭をカレーのにおいと思い込んでしまうのといっしょだ。 正解はいうま…

さよならを言うたびに(執筆者・大久保寛)

第3回 チャンドラーの『長いお別れ』ほど何回も読んだ小説はない。 翻訳でも原文でも読んでいて、本はもうボロボロである。この本が好きだから翻訳家になったと自信をもって言い切れる。 もちろん、それは清水俊二さんのカッコいい翻訳に負うところが大きい…

さよならを言うたびに(執筆者・大久保寛)

第2回 7年ほど前に腎臓がんになった。 腎臓がんというとマイナーなので、肺がんや胃がんと違って、あまり話題になることもないが、意外にこの病気で亡くなっている有名人も多いのである。 作家の中上健次氏、作詞家の阿久悠さん、元大関北天佑、哲学者の池…

さよならを言うたびに(執筆者・大久保寛)

第1回 9月に父が84歳で亡くなった。 この父は警視庁の元警察官で、主に公安畑を歩んだコチコチの刑事だった。 口癖のように言っていたのが、「テレビや小説のミステリはでたらめだ。警察がこんな馬鹿なやり方をするはずがない」という言葉だった。 せっ…