第43回 まさに王道のバディもの!―『紳士と猟犬』(執筆者・♪akira)

 
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 突然ですが、東インド会社についてどのぐらいご存知ですか? たしか小学校の教科書にも出てきたような…と私のようにおぼろげな記憶しかない方、逆に歴史に詳しい方、どちらにも大変楽しめる冒険ミステリ、M・J・カーター『紳士と猟犬』(高山真由美訳/ハヤカワミステリ文庫)をご紹介します。

紳士と猟犬(ハヤカワ・ミステリ文庫)

紳士と猟犬(ハヤカワ・ミステリ文庫)


 1837年、カルカッタ。1600年に設立された東インド会社は、インドの大半を支配していました。そこで軍人として働く読書好きな青年ウィリアム・エイヴリーは、若者らしく戦で手柄をたて、故郷のイギリスに錦を飾ることを夢見ていたものの、実際は9ヶ月も放置され、友人の同国人フランクに愚痴るだけの毎日を送っていたのです。言葉もできず、天候にも慣れず、現地人の召使い達にも見くびられ放題だったエイヴリーは、そのいらだちを酒と博打で紛らしていました。そんなある日、ジェレマイア・ブレイクという英国人に届けるよう、会社から信書を託されます。決して治安がいいとはいえない場所にある屋敷を訪ねたエイヴリーを、ブレイクは開口一番罵倒しました。


 だらしなく薄汚れた格好で自分を追い出したブレイク。当然エイヴリーは悪感情しか持たなかったのですが、待ちこがれていたはずの任務は、なんとブレイクとともに危険な奥地に向かい、著名な詩人ゼイヴィア・マウントスチュアート――エイヴリーにインドへの憧れを抱かせた数々の本の作者――を探し出してくることでした。


 ブレイクへの不信感を抱きつつも、博打の借金や将来の不安のため、そして敬愛する作家に会えると思い、エイヴリーはしぶしぶ任務を引き受けます。しかしブレイクはブレイクで、やりたくない仕事の上に、エイヴリーの驕った態度が我慢なりません。彼に限らず、インドに駐在している英国人の多くは、現地人を理解するどころか未開の有象無象と見下し、文化や宗教も自国の価値観を押し付けるのが当然だと思っていました。かたやブレイクは、いくつもの言語を習得し、現地の慣習を尊重しています。そんな2人が、聡明で英語も話せるミル・アジズら3人の現地人のお供を連れて、先の見えない旅に出ます。


 ここから始まりますは、アクションあり、陰謀あり、ロマンス(?)ありの、血湧き肉躍る大冒険活劇! 中でも、インド中に名をとどろかす強盗殺人集団サグは、恐ろしいながらもなにか人の心を惹きつけずにはいられないような、そんな特殊な存在感を放っており、読み手の心をつかんで放しません。本書はエイヴリーの一人称で描かれており、総じてやる気のなかった若者が、いかにして危険な旅を仲間とともに生き延びるのか、自分の偏狭な考えにどうやって気づくのか、という成長物語として読むこともできます。もちろん、CWAの新人賞とMWAの最優秀長編賞の候補となったように、ミステリとしての面白さも保証付です。


 ではどう腐っているのか…ここまで読んだ方ならもうおわかりですね! 最悪の出会い(<はい、ここ大事!)をしたものの、旅立ちの際、こざっぱりして衣服もきちんとしたブレイクを見て、「思ってたよりも若いし結構ハンサムかも(すごくってわけじゃないけど)」なんてドキッとした(?)エイヴリーが、危機また危機を一緒に乗り越えていくうちに、いつしか彼に尊敬と好意を抱いていくわけですね。そしてツンデレというよりはツンだけなブレイクが少しずつエイヴリーを認めていくあたりもご注目。ぶっきらぼう中年と単細胞男子、まさに王道のバディものをご堪能ください!



 かように奥地や秘境には危険がつきもの。しかもそれが前人未到の謎の孤島だったら…3月25日公開のキングコング:髑髏島の巨神は、コンマ一秒も見逃せないほど、驚異の世界と危険とスペクタクルと巨大生物大暴れと爆発と作り手の怪獣愛がぎっしり詰まった大興奮の超大作です!!! 日本仕様の特別ポスターをご覧になった方も多いと思いますが、何がすごいって、あのグッとくるポスターが全然誇張じゃない!! むしろその100倍ぐらいパワーアップした本編が楽しめます。



 1973年、ベトナムでは米軍兵士の撤退が始まっていた。パッカード大佐(サミュエル・L・ジャクソン)率いる部隊は、帰国直前、太平洋の孤島“スカル・アイランド”を民間人と調査せよという特別任務を帯びる。本国からは、凄腕のイギリス人傭兵(トム・ヒドルストン)、ジャーナリスト(ブリー・ラーソン)に学者らを含むチームが集まった。そんな彼らを待ち受けていたのは、想像を絶する巨大な守護神と、続々と現れる凶暴なモンスター軍団との死闘だったのだ!




 虫虫大行進の猛襲がすごかったピーター・ジャクソンの『キング・コング』(2005)は、巨大動物の孤独と悲哀が胸に迫る、涙無くしては観られない名作でしたが、今度のコングは島の守護神。勝手に自分の家に入ってくる不法侵入者は一撃で排除! という清々しい信念のもとに、向かってくるものは全て倒さんと大暴れします。ビルよりもデカいコングの雄々しい姿にはただただ驚嘆ですが、他にもオリジナリティ溢れるクリーチャーがわらわらと出てきて、怪獣好きならドーパミン大量放出間違いなしです!



 あらゆる意味で向かうところ敵なしの本作、嬉しいことにキングコング:髑髏島の巨神 メイキングブック』(サイモン・ウォード著/玄光社)が、あの矢口・“よろしく哀愁”・誠さんの翻訳で出ます! 一足先にちょっと見せてもらったのですが、映画で「あ〜、あれもうちょっと見たかったなー」と思った生き物とか、出せなかったクリーチャーとか、コングの食事シーン(超楽しい!)とか、眺めてたら日が暮れそうなお宝資料が満載です。映画と併せてこちらもぜひ!


●映画『キングコング:髑髏島の巨神』予告編



 

    
akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。
本の雑誌405号2017年3月号

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アントニー・ブラント伝

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キングコング:髑髏島の巨神 メイキングブック

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キング・コング入門 (映画秘宝セレクション)

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