第七十七回はメイソン・クロスの巻(執筆者・寶村信二)

 今回は、新人作家のメイソン・クロスのデビュー作である The Killing Season(Orion、2014年)とその続編、The Samaritan(同、2015年)を取り上げます。
 

 
 The Killing Season の冒頭では〈シカゴの狙撃兵〉とメディアに名付けられた元海兵隊員の連続殺人犯、ケイレブ・ウォーデルともう一人の囚人、ミッチェルを乗せた護送車両が襲撃を受ける。
 それは司法取引に応じて証言する予定のミッチェルを抹殺するため、犯罪組織が仕組んだものだったが、ウォーデルは三人の襲撃者、そしてミッチェルまでも殺害して逃走する。
 FBIのシカゴ支局は直ちに捜査チームを編成して会議を開くが、そこにはカーター・ブレイクと名乗る男も同席していた。その存在をいぶかる捜査官たちに対し、支局長のドナルドソンは「捜査を支援するため」としか説明しなかった。
 会議の途中で一人目の犠牲者が出たとの連絡が入り、チームは直ちに現場である小さなショッピングモールへと向かう。FBIが収集した膨大な資料を繙いたブレイクは、次に狙われるのは幼い頃にウォーデルを捨てた父親、エドワード・ノーランだと判断し、単独でネブラスカ州へ向かう。
 そして人里離れた山小屋にいるノーランを発見したものの、そこにウォーデルが現れ……
  
 第二作 The Samaritan は、ロサンジェルスで三人の女性の遺体が発見される場面から幕を開ける。
 すべての遺体には特徴的な傷跡が残されており、捜査を始めた市警察は被害者たちが失踪した状況から、犯人は車が故障した女性を助けるふりをして拉致しているのでは、と推測する。
 しかし何者かが捜査情報をメディアに流し、犯人はその手口から〈サマリア人〉と呼ばれるようになる。たまたまニュースを耳にしたブレイクは、傷跡の情報から犯人がかつて自分と同じ組織に属していた男だと思い至り、急遽ロサンジェルスに向かう。
サマリア人〉とのつながりを伏せたまま援助を申し出、なんとか市警察の刑事たちには受け入れてもらったもののその犯行は続いており、一見すると同一犯とは思えない手口の事件も発生していた。
 また〈サマリア人〉はロサンジェルスのみならず、全米各地で犯行を繰り返していたことも明らかになり、FBIが捜査に加わることとなる。
 そして現場でブレイクを目撃した〈サマリア人〉は、罠を仕掛けてくる。
 
 ブログによれば著者は1979年のグラスゴー生まれ、とのこと。シリーズの舞台である米国がしっかりと描写されていたため、英国出身であることを知った時には驚きました。
 主人公は逃亡犯の追跡を専門とするコンサルタントという肩書を標榜しながら、その過去は不明。二つの作品を通して、ブレイクがある組織に属していたこと、そこでは一般には公にはできない任務に従事していたことが、少しずつ明らかにされていきます。
 ブレイクは胡散臭い人物として捜査関係者から相手にされなくとも気にせず、それまで見落とされていた細かな情報を拾い上げ、導かれた結論が捜査方針と衝突しても自分の推理を信じ、独断専行で単身危険な状況に飛び込む人物として描写されます。
 また、やたらと自分の能力をひけらかすことのない、控え目な性格として描かれているのも読者にとっては好印象でしょう。
 そんな活躍ぶりがテンポの良い語り口とともに展開され、犯人や捜査官たちの視点もめまぐるしいほどに入れ替わって繰り広げられる緊迫感満載の物語は息つく暇もないほどです。その目まぐるしさは結末に至るまで続き、二作とも実にサービス精神旺盛なものに仕上がっています。
 
 第三作 The Time to Kill(Orion、2016年)は残念ながら未読ですが、予告ではブレイクがかつて所属していた組織に狙われる物語らしいので、今から楽しみにしています。
 

寳村信二(たからむら しんじ)

プロフィール:
20世紀生半ばの生まれ。5月に『ガルム・ウォーズ』(監督:押井守)を鑑賞出来て幸せです。