第19回札幌読書会開催!

 
 いや〜ドラマ「貴族探偵」、面白かったですねぇ! ドラマ効果で原作を楽しむ方も多かったようです。本格ミステリ界に一大ムーブメントが起こっている今(大袈裟?)、札幌読書会としても遅れをとるわけにはまいりませぬ。ここはひとつ、ガチの、鉄板の、王道中の王道の課題書でいってみよう! というわけで、今回の課題書はエラリー・クイーン『Yの悲劇』です。


Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)


 去る6/17は弘前『中途の家』の読書会がありました。7/8は仙台で『スペイン岬の秘密』、8/27は福島でも『Yの悲劇』の読書会が開かれる予定です。特に相談もしていないのになぜか成立した「北日本クイーン祭」。初読の方も既読の方も、ぜひ「E(いい)クイーンの夏」をお過ごし下さいませ。


 課題書につきましては、訳者や出版社の限定はいたしません。新旧いろいろなカバーが揃うとそれもまた楽しい話題になろうかと思います。
たくさんのご参加、お待ちしております。


 詳細及び申込方法は下記の通りです。


【日時】8月5日(土)15:30〜受付 16:00〜スタート(予定)
※第二部終了後は同じ会場で簡単な懇親会を行います。参加自由、別途料金ナシ。
【場所】ご参加の方に別途ご案内いたします(最寄は地下鉄大通駅です)
【参加条件】課題本を読了していることのみ
【参加費】2,000円
【定員】30名程度
【お申込み方法】
札幌読書会専用アカウント sapporo.readingparty@gmail.com にメールでお申し込み下さい。
件名を「札幌読書会 8/5」とし、メール本文に下記2点をお書き下さい。
・お名前(ハンドルネーム不可)
・ご連絡先電話番号
【お問い合わせ】
その他ご不明な点があれば sapporo.readingparty@gmail.com までお気軽にお問い合わせ下さい。

これまでの読書会ニュースはこちら


Yの悲劇 (創元推理文庫 104-2)

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Yの悲劇 (1950年) (ぶらっく選書〈第10〉)

Yの悲劇 (1950年) (ぶらっく選書〈第10〉)

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

Yの悲劇 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

Yの悲劇 (新潮文庫)

Yの悲劇 (新潮文庫)

Yの悲劇 (1957年) (世界探偵小説全集)

Yの悲劇 (1957年) (世界探偵小説全集)

Yの悲劇 (角川文庫 赤 507-1)

Yの悲劇 (角川文庫 赤 507-1)


Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

Zの悲劇 (角川文庫)

Zの悲劇 (角川文庫)

レーン最後の事件 (角川文庫)

レーン最後の事件 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)

スペイン岬の秘密 (角川文庫)

スペイン岬の秘密 (角川文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

第30回:なんかもう、ディズニーのノリ(執筆者・上條ひろみ)

 みなさま、こんにちは。いかがお過ごしですか?
 気づけばもう七月。今年も半分が終わってしまいました。早い。早すぎる。でも、七月は新ドラマのクールがはじまる月でもあります。
 そう! すでにご存知の方もいると思いますが、わたしは大のテレビドラマ好き。七月スタートのドラマで楽しみなのが「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命 シーズン3」です。九年まえのシーズン1から見ているので、待ってましたという感じ。いやー、ほんとに待ったわ。シーズン2だって七年まえだし。医療ものや警察ものなど、お仕事系のドラマが好きで、わたしのなかで「コード・ブルー」と「医龍」は双璧です。でも、ここ数年でいちばんはまったのは「逃げるは恥だが役に立つ」と「カルテット」かな。ちなみに、前クールのベストは「緊急取調室 シーズン2」でした。こうしてみると、日本のドラマも海外ドラマ化してきましたね。当たると〝シーズン○○〟でつづけていくのがやたらと多い。そういうの昔は「金八先生」ぐらいしかなかったのに。
 それでは、六月の読書日記です。



■6月×日

 イギリスのお嬢さま学校が舞台の少女探偵ものといえば、記憶に新しいところでは、この連載でも紹介したジュリー・ベリーの『聖エセルドレダ女学院の殺人』があるけど、『エセ女』が年齢のちがう個性的な少女たちが知恵を持ち寄る『若草物語』系だったのに対し、ロビン・スティーヴンス『お嬢さま学校にはふさわしくない死体』は、同級生の少女ふたりが学校内で起きた殺人事件を調査する、少女版ホームズ&ワトソンもの。といっても、なんちゃってホームズ&ワトソンだけどね。というわけで、『エセ女』とは作品の雰囲気がだいぶちがいます。英国少女探偵の事件簿シリーズ一作目です。


お嬢さま学校にはふさわしくない死体 (コージーブックス)

お嬢さま学校にはふさわしくない死体 (コージーブックス)


 ホームズは、青い目のすらりとした金髪美人で、変人だけど最高に頭がキレ、なんでも知っていないと気がすまない、貴族の令嬢デイジー・ウェルズ。
 ワトソンは、小柄でちょっぴり太めの女の子、黒い髪と黒い目を持つ香港出身のヘイゼル・ウォン。
 舞台は一九三〇年代英国。ディープディーン女子寄宿学校の三年生(十三歳)であるふたりは、〈ウェルズ&ウォン探偵倶楽部〉を結成。ふたりしかいない倶楽部の会長はもちろんデイジー、秘書のヘイゼルは事件簿をつける係で、この物語の語り手です。


 ある日、ヘイゼルは室内運動場で女性教諭の死体を発見します。ところが、人を連れて戻ってみると、なぜか死体は消えていました。みんなはヘイゼルの虚言だと取り合わなかったけど、もちろんデイジーは全面的にヘイゼルの話を信じて、さっそくふたりで調査を開始。生徒たちに聞き込みをして容疑者さがしをするうちに、先生たちをめぐるあやしいエピソードがどんどん出てきて……
 さまざまなエピソードを効果的に使い、伏線をきっちり回収しているのはお見事。強引な展開がほとんどなく、でも適度にハチャメチャで(どっちだよ!)、コージーミステリとしてはちょうどいい塩梅。かなりわたし好みです。クールなデイジーが、自分の大好きな先生は絶対に疑おうとしないのもかわいい。


 とくに好きなのは、夜、女の子たちがおやつを持ち寄っておしゃべりする、真夜中のお楽しみ会の場面。いつの世も女子会って楽しいよね。ヘイゼルちゃんは香港の子だから、お母さんがレンコンの餡入りの手作りの月餅をいっぱい送ってくるの。いいなあ。でも〝異教徒のパイ〟と言われてしまうのね。おやつは牛タン(!)という子もいてびっくり。ジャーキーみたいな感じなのかな。しかも「牛タンはチョコレートケーキに合うわね」って……そうなの?


 性別逆転ホームズものといえば、テレビドラマ「シャーロック」ばりに現代を舞台にした、高殿円『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』もおもしろくて印象に残っています。ほかにもたくさんありそうだけど。



■6月×日

ダッハウの仕立て師』は、イギリス人の歴史学者メアリー・チェンバレンによる初めてのフィクション作品。第二次世界大戦時、ナチス占領地で戦争捕虜となったイギリス人の若い娘の波乱の人生を描く。エンタテインメント的な作品ではないが、いくつかの謎が物語を牽引し、引きこまれずにはいられない。歴史家にしか書けないリアルな物語で、読み終えたあとは、かなりずっしりとしたものが残る。


ダッハウの仕立て師

ダッハウの仕立て師


 一九三九年、ロンドンで仕立て師見習いをしていた十八歳のエイダ・ヴォーンは、スタニスラウス・フォン・リーベンと名乗るハンガリー貴族の男性と出会い、恋に落ちる。ところが、彼とパリに旅行中、第二次世界大戦が勃発。イギリスに帰れなくなったエイダは過酷な運命の波に飲み込まれる。生きるための戦争で彼女に残された武器は、ドレスメーカーとしての才能だった。


 ダッハウといえば、強制収容所があった場所として名前を知っていたので、収容所がらみの話なのだろうとは思ったが、こういう形でからんでくるとは意外だった。戦争捕虜としてダッハウに連れてこられたエイダは、皮肉にもその地でドレスメーカーとしての才能を発揮することになる。敵国の女が美しくなる手伝いをする……それは一見売国奴の行動のように思えるが、エイダにとっては人間でいるための術だった。毎日が生きるための戦争。エイダにとってダッハウは戦場だったのだ。


 ひと口に戦争捕虜といっても、いろいろな事情や背景があり、同じ経験をした人でないとほんとうに理解してあげられることはできないのかもしれない。だが、エイダのような特殊な経験をした人間が、理解してもらえないというのはほんとうにかわいそうだ。男と世間を知らないというだけで(当時の若い娘の大半がそうだっただろうに)、戦時中も戦後も辛酸をなめつづけ、家族にも理解されず、過酷な運命を生きたエイダ。そんな彼女の生きる原動力となったのは、仕立て師としての仕事に対する誇りだろう。生地を手に入れ、デザインを考え、服を仕立てるシーンを読んでいると、エイダのワクワク感が伝わってきて、当時が戦争中であることも、戦後の配給生活であることも忘れてしまう。奴隷のような扱いを受け、屈辱のなかにいても、仕立て師としての誇りを捨てないエイダはかっこいい。失敗の許されない過酷な条件で服を作ろうとするたびに、頭のなかで師匠のアドバイスが聞こえてくるのもじーんとくる。


 垢抜けないドイツの婦人たちでさえ見栄えがよくなり、おしゃれなイギリスの婦人には「あなたの作った服を着るとなんとなしに足取りが弾むのよね」と言われるエイダの服。彼女ならココ・シャネルのようになれたかもしれない。
「ジャージーは欲深で身の程知らずにあちこちに広がろうとする」とか、「(モワレは)波紋模様が謎めいた優雅な光を振りまきながらアラベスクを踊っている」とか、「麻はつむじ曲りで寄り道する」とか、布地を擬人化した表現がとてもすてき。


 この時代の現実を理解する上で、ヒストリカルノートはとても役立った。実在の人物が自然に物語にとけこんでいるのも興味深い。読まれなければいけない話だと思う(大意)、と語られていた訳者の川副さんのことばにも胸を打たれた。



■6月×日

 なんでもないようなことが微妙な引っかかりを生み、しだいに、あるいは一気に事態が変化する様子を描いた作品集『不機嫌な女たち』を読んだ。著者キャサリンマンスフィールドは、一八八八年ニュージーランド生まれの女流作家で、二十世紀を代表する短編作家だ。



 キャサリンマンスフィールド……どこかで聞いたことのある名前だなあ……でも読んだことはないはず、と思いながら、先日実家で古い本の整理をしていたら、新潮文庫マンスフィールド短編集』が見つかった。ということは、おそらく大昔に読んだんだろうけど、例によってまったく覚えがない。でも、こういう〝派手さはないが、じわじわくる〟系の作品は、人生経験を積んでから読むほうがおもしろいのだ。しかもこちらは新たに原稿が発見された未発表の「ささやかな過去」を含む日本オリジナル短編集で、芹澤恵さんによる新訳。果たして、予想どおりのおもしろさだった。


 なんといっても驚くのは、百年以上まえに書かれたものなのに、いま読んでもまったく古さを感じさせないこと。短編だから連続ドラマは無理にしても、オムニバスドラマにしたらおもしろいかも。輝くばかりの好天の日、公園で楽しく人間ウォッチングをしていたら、自分がおばさん呼ばわりされているのに気づいてしまい、一気に不機嫌になる「ミス・ブリル」のエピソードなんて、朝ドラとかにありそうだし。人妻のよろめき系「燃え立つ炎」はお昼の帯ドラマ枠でぜひ。これに「ささやかな過去」のエピソードをからませて、群像劇風昼メロもいいかも。「小さな家庭教師」はあまりにもかわいそうで、読んでいてつらくなるほど。今だとこういう子は強要AVに気をつけないと。大人って、ヒドイ。


 訳者あとがきで、作品中の彼女たちの行動の裏にある心理として、〝マウンティング〟ということばを使っているのも言い得て妙。そう、それそれ!と思いましたよ。さすが芹澤さん。「幸福」や「一杯のお茶」などはまさにマウンティングがテーマで、不機嫌になるまえから水面下で女の静かな戦いが、本人すら気づかないうちにおこなわれていて、ドラマ「カルテット」風に言うと〝ミゾミゾ〟します。


 著者の波乱万丈の人生は〝何も起こらない〟どころか起こりすぎだけど、それをこういう静かな作風に結晶させているのがかっこいい。〝じわじわくる〟秘密はそこにあるのかも。実はいろんな要素が詰めこまれていて、どの作品も深読みすればするほどおもしろいです。



■6月×日

 まだ暑さに慣れない体に、梅雨時の蒸し暑さは応えます。じめじめ、蒸し蒸しといえば、マサラなインド(ちと強引かな)!
 M・J・カーターの『紳士と猟犬』は、めずらしい十九世紀イギリス統治時代のインドが舞台の歴史冒険ミステリ。お話の途中でヴィクトリア女王が即位しています。試験に出ますと言われて覚えたこの時代のインドのキーワードといえば、東インド会社セポイの反乱とアヘン戦争と……ぐらいが限界というわたしでも、おもしろくて手に汗握っちゃいました。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞新人賞の両方にノミネートされた期待の新人M・J・カーターは、ロンドン在住の元ジャーナリスト(女性)で、本書が初のミステリ作品。


紳士と猟犬(ハヤカワ・ミステリ文庫)

紳士と猟犬(ハヤカワ・ミステリ文庫)


 東インド会社の軍人としてカルカッタで九カ月の訓練を終えたものの、配属も決まらず鬱々としていたウィリアム・エイヴリー少尉は、インド奥地で消息を絶ったイギリス人の詩人ゼイヴィア・マウントスチュアート任務を探すという任務を与えられる。同行するのは東インド会社所属の自称探偵・ジェレマイア・ブレイク。エイヴリーは、変わり者だがかなりの切れ者のブレイクの動向にも目を配るよう、上司から命じられていた。


 東インド会社って、軍隊を持ってたのね。実在する人物をからませながらのストーリーにもかかわらず、こんなに荒唐無稽でいいのかしら、というぶっとんだ展開。でも読んでいるうちにマヒしてきて、インドならまあありなのかなあと思ってしまいます。なんかもう、ディズニーのノリ(わかるかな?)です。いつ虎や象がしゃべりだすのかと身構えましたよ。


 いやあ、それにしてもすごい冒険です。山賊はどこにでもいるし、たまに虎も出るし、だれとだれが通じているのかも、だれが敵か味方かもわからない! 大ケガをして血を流し、飢えと渇きに苦しみながら、何千キロも歩くなんて、体力はもちろんとてつもない精神力がないと無理です。ディズニーのノリと言いつつ、残酷なシーンはけっこう多いし。でも、最初はダメダメだったあまちゃんの若造エイヴリーが、過酷な運命をぼやきながらもどんどん成長していく様子はたのもしく、ちょっと見直しました。やればできる子だったんですね。
 わたし、たまに翻訳者仲間と山にハイキングに行ったりするんですけど、このインドのジャングル逃避行の過酷さを目の当たりにしたら、楽しく山歩きしちゃってすいません、と申し訳なくなりました。こっちはただのストレス解消、エイヴリーたちは命がけですから当然なんですけど。


 ブレイクがホームズ、エイヴリーがワトソン役のバディものとしても楽しみどころは満載で、ブレイクのエイヴリーに対するツンデレ具合とか、エイヴリーがブレイクになついていく様子とかは、腐女子でなくても萌えます!


 実はこのシリーズ、すでに三作目まで出ていて、二作目では一八四一年のロンドンを舞台に、再会したブレイクとエイヴリーがまた組んで探偵仕事をすることになるとか。楽しみすぎる! ぜひぜひ日本でも紹介してもらいたいものです。



 上記以外では、大真面目なバカミスという感じの本格ミステリコリン・ワトスン『浴室には誰もいない』、第二次大戦中の盲目のフランス人少女とドイツの少年兵の出会いをドラマチックに描く、あまりにも切なく忘れがたい、アンソニー・ドーア『すべての見えない光』、魔性の女に引っかき回される田舎町や、性的な衝動により自分を失っていく若者たちのとまどいなど、ダークさかげんがほどよいローリー・ロイ『地中の記憶』、シンプルながら直球勝負で読者の心をつかむ、一気読み必至のオーストラリアン・ミステリ、ジェイン・ハーパー『渇きと偽り』もオススメ。





上條ひろみ(かみじょう ひろみ)

英米文学翻訳者。おもな訳書にフルーク〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ、サンズ〈新ハイランド〉シリーズなど。趣味は読書と宝塚観劇。最新訳書はバックレイの〈秘密のお料理代行〉シリーズ第二弾『真冬のマカロニチーズは大問題!』、サンズの〈新ハイランド〉シリーズ第四弾。〈お菓子探偵ハンナ〉シリーズ十八巻は、現在鋭意翻訳中です!

■お気楽読書日記・バックナンバーはこちら

聖エセルドレダ女学院の殺人 (創元推理文庫)

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マンスフィールド短編集 (新潮文庫)

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浴室には誰もいない (創元推理文庫)

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すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

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地中の記憶 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ)

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真冬のマカロニチーズは大問題! (コージーブックス)

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恋は宵闇にまぎれて (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション(ロマンス・コレクション))

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ノア・ホーリー『晩夏の墜落』(執筆者・川副智子)

 

晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

晩夏の墜落 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 デビューの一作のみのおつきあい、という作家は数あれど、ダントツに記憶に残っているのは、2000年8月刊行のデビュー作『大いなる陰謀』で、ちょっと、いやかなり、ヘンな、ほかのだれにも似ていない魅力を発散していたノア・ホーリーです。同作がこのミステリーがすごい!2001年版』の栄えある「バカミス・ベスト10」の銀賞(金賞じゃなく、銅賞でもなく、銀賞4作のうちのひとつ)に輝いたといえば、当時のホーリーの渋い立ち位置をなんとなく理解していただけるでしょうか。気になる人だったので、その後の動向を横目で追っていましたが、主たる活動の場をじょじょにテレビの世界にシフトしているように見え、もう彼の作品が邦訳されることはないのだろうとなかば諦めかけていたところ、第5作 Before The Fall がいきなり《NYタイムズ》のベストセラー2位にランクイン。邦訳の機会を得ました。しかも、訳者としてはもう一度ノア・ホーリーとおつきあいできる幸せだけで充分だったのに、なんと、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)のエドガー賞・最優秀長篇賞を受賞という超弩級のおまけがついてきたのです。「バカミス」から17年(しつこい)、驚いたのなんの、喜びもひとしお、超ウレシイ。
 
晩夏の墜落 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

晩夏の墜落 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 2015年夏の終わりのある夜、歴代大統領や富豪の避暑地として知られる島から飛び立ったプライベート・ジェットが、離陸後18分で大西洋上に墜落。乗員・乗客合わせて11人。死者9人、生き残ったのはふたり。墜落の謎を解くための国家機関の調査と並行して、ジェット機が海に「墜ちるまえ」と「墜ちたあと」の人間たちのドラマが展開します。
 
『晩夏の墜落』において著者は「エンターテインメント文学の資質を大きく進化させている」。これは三橋曉が解説(文庫版、ポケミス版とも)に書いてくださった、ぐっと心をつかまれる一文です。今や押しも押されぬ「脚本家」「プロデューサー」となったホーリーは、2014年にシリーズ1が開始した『FARGO/ファーゴ』コーエン兄弟の同タイトルの犯罪映画を基にした連続ドラマ)で、全脚本と製作を担当し、同番組はエミー賞ゴールデングローブ賞を総なめにしました。こちらがその紹介ページ。
https://www.star-ch.jp/fargo/season1/
https://www.star-ch.jp/fargo/
 
 テレビドラマの製作に携わってきたこの十数年は、本作でホーリーがつくりあげた独自の小説世界とけっして無縁ではないでしょう。脚本家の倉本聰氏はドラマを1本書くときに登場人物の履歴を作成するといいます。『晩夏の墜落』では、登場人物の履歴がまるで連続ドラマの一話のように組みこまれ、そのサイドストーリーをしっかりと見せてくれます。生まれ育った土地、親の職業、家庭環境、経済状況、子どものころのエピソード……。ひとりひとりの履歴を追ううちに、アメリカの履歴」を眺めているような気にさえなるかもしれません。
 
 現在のアメリカをもっとも強烈に感じさせるのが、怒れる白人を演じて視聴者を煽るケーブルニュース専門局の看板司会者。アメリカの読者がこの人物から思い浮かべたのは、右派メディア「FOXニュース」のビル・オライリー(この4月にセクハラ疑惑で降板)のようですが、「わざとらしい髪型の背の高い男」(原文は a tall man with dramatic hair )なんていう描写があったせいか、第45代アメリカ合衆国大統領に就任したあの人の顔が頭から離れなくなってしまいました。ちなみに、墜落で命を落としたニュース専門局代表の履歴は、トランプの参謀、スティーブ・バノンを彷彿とさせます。だれがモデルであるにせよ、この両者からは、トランプ大統領を生み出すまえのアメリカの空気がビンビン伝わってくることを請け合っておきましょう。
 生き残ったふたりは、一度人生から落伍しかけた47歳の画家と富豪の息子である4歳の男の子。この子がほんとうに可愛い! money をいじりすぎて身動きが取れなくなった人や、自分をこじらせるだけこじらせてしまった人のなかで、運命の偶然によって結ばれた47歳と4歳のふたりの絆は、この小説に流れるすがすがしさとなっています。
 17年を経て進化した「ノア・ホーリーの世界」を、この作家をご存じだった方もご存じではなかった方も、どうか愉しんでいただけますように。
 
川副智子(かわぞえ ともこ)

 最近の訳書はメアリー・チェンバレン『ダッハウの仕立て師』早川書房)、マーク・カーランスキー『紙の世界史』徳間書店)。ミステリーの翻訳は久しぶり、と思っていたら、引きつづきリンジー・フェイの「ジェーン・エアもの」ミステリーを訳すことになりました。
 


■担当編集者よりひとこと■

 
「実際に空の上で読むと臨場感が違うよ」とマニアの友人が貸してくれた名作『超音速漂流』を飛行機の中で読んでガタガタ震えたことのある担当編集者です。
 このたびご紹介いたしますのはポケミスと文庫同時発売となるエドガー賞長篇賞受賞作『晩夏の墜落』。飛行機の墜落をめぐる傑作サスペンス小説です。これから世間は晩夏どころか盛夏の候、バカンス中の読書に大部の本に挑戦しようという方もいらっしゃるかと思いますが、本書を機内で読むのだけはおすすめいたしかねます(それだけ描写が真に迫っているということです!)。 著者のノア・ホーリーBONES―骨は語る』や、今話題沸騰のクライムドラマ『FARGO/ファーゴ』で八面六臂の活躍を魅せているマルチクリエイターだけあって、本書もまた一筋縄ではいかない凝りに凝った物語に仕上がっています。
 
 霧が立ち込める夜の大西洋に落下したプライベートジェット。乗客の子供を救い、奇跡的にこの惨事を生き延びた画家のもとへNTSB(国家運輸安全委員会)主導の調査チームが現れ……というのが本書序盤の「つかみ」。ここから『エアフレーム―機体―』『クラッシャーズ 墜落事故調査班』のように、プロフェッショナルたちの調査を主軸としたストーリーが展開される……と思いきや、“死者のリスト”なる犠牲者一覧が本文に唐突に挿入され、以降本書は「墜落にいたるまでの犠牲者たちの過去」「墜落後の生存者とそれを取り巻く人々」が様々な視点から語られる群像劇へと変貌します。
 作中で主人公の描く“災害”を題材とした絵画の鑑賞者が様々な解釈を抱くように、『晩夏の墜落』の読者もまた、百出する疑惑と怪しげな陰謀論的エピソードの数々から「墜落の真相は○○なのでは?」「それとも■■?」と翻弄されること請け合いです。なぜ、その飛行機は落ちたのか? いったい何が起きたのか? 急転直下、怒濤のクライマックスまで一気読みまちがいなしの本作。是非お手にとってお愉しみください。
 

早川書房N) 

 

大いなる陰謀 (角川文庫)

大いなる陰謀 (角川文庫)

このミステリーがすごい! 2001年版

このミステリーがすごい! 2001年版

Before the Fall

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超音速漂流 (文春文庫)

超音速漂流 (文春文庫)

クラッシャーズ 上 墜落事故調査班 (文春文庫)

クラッシャーズ 上 墜落事故調査班 (文春文庫)

クラッシャーズ 下 墜落事故調査班 (文春文庫)

クラッシャーズ 下 墜落事故調査班 (文春文庫)

エアフレーム―機体〈上〉 (Hayakawa Novels)

エアフレーム―機体〈上〉 (Hayakawa Novels)

エアフレーム―機体〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

エアフレーム―機体〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

    
ダッハウの仕立て師

ダッハウの仕立て師

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

紙の世界史: PAPER 歴史に突き動かされた技術

月夜のかかしと宝探し (コージーブックス)

月夜のかかしと宝探し (コージーブックス)

アキレウスの歌

アキレウスの歌

第32回 『イトヴィル村の狂女』『七分間』(執筆者・瀬名秀明)

 




【写真1】

 
Georges Simenon et Germaine Krull, La folle d'Itteville, Jaques Haumont, 1931(1931/8か)(1931/5執筆)[原題:イットゥヴィル村の狂女] G.7【写真1】
「イトヴィル村の狂女」長島良三訳、《ハヤカワミステリマガジン》2000/2(No.527、45巻2号)pp.192-228*
Tout Simenon T18, 2003
Les sept minutes, Gallimard, 1938[原題:七分間] G.7
Tout Simenon T20, 2003 Nouvelles secrètes et policières T1 1929-1938, 2014
▼収録作

    1. Le Grand Langoustier[グラン・ラングスチェ邸]1930/6, 1931/5-6か 執筆)«Marianne» 1933/10/4号 - 10/11号(nOS 50 - 51)(全2回)
    2. La nuit des sept minutes[七分間の夜](1930/6, 1931/4執筆)«Marianne» 1933/3/29号 - 4/12号(nOS 23 - 25)(全3回)
    3. L'énigme de la Marie-Galante[《マリー・ガラント号》の謎](1930/6, 1931春執筆)

 


【写真2】

 
(原題)La croisière invraisemblable, «Marianne» 1933/8/16号 - 9/6号(nOS 43 - 46)(全4回)[信じがたき航海]
▼邦訳
「あり得べからざる航海」岡田眞吉訳、《スタア》1934/11下旬(2巻22号, 37号)pp.24-26, 1934/12上旬(2巻23号, 38号)pp.24-26, 1935/新年増大号(3巻1号, 39号, 奥付ページ内には新年特別号とあり)pp.56-57(全3回)[3]*【写真2】(37, 38号は国立国会図書館デジタルコレクションにあり)
「マリイ・ガラント号の謎」松村喜雄訳、《探偵倶楽部》1955/11(6巻11号)pp.313-350[3]* 雑誌表紙と目次欄は「マリー・ガラント」表記。扉、柱、本文は「マリイ・ガラント」表記。雑誌奥付の「第九巻第十一号」は誤り
「将軍暁に死す」松村喜雄訳、《探偵倶楽部》1955/12(6巻12号)pp.150-182[2]*
「消失三人女」松村喜雄訳、《探偵倶楽部》1956/1(7巻1号)pp.314-350[1]*
 
 シムノンはメグレシリーズの正編を書き始めると、それまで書いていたペンネーム時代のヒーローをほぼ忘れてしまった。本名の仕事にシフトしてメグレのみに注力したわけだが、そのなかでたったひとり、ペンネーム時代から本名時代を跨いで書き続けられた探偵役がいる。『13の謎』連載第29回)に登場した行動派刑事G.7だ。
『13の謎』はもともとジョルジュ・シム名義で1929年に《探偵》誌に掲載された連作で、シムノンがメグレものの書き下ろしで成功してから、他の13シリーズとあわせて本名名義で出版されている。だからいまでも仏語圏で読めるのだが、実はその後、シムノンの本名名義で刊行されたG.7ものの本がさらに2冊ある。それが今回取り上げる『La folle d'Itteville[イトヴィル村の狂女](1931)と『Les sept minutes[七分間](1938)だ。ペンネーム時代から本名時代への変遷を見る上で無視できない貴重な作品群だ。
 大衆小説研究家のフランシス・ラカサン氏がシムノン以前のシムノン:ソンセット刑事の功績』巻末解説で事情を説明している。他の情報と照合しつつ、私なりに整理・再構築してみる。もしも間違った部分があったらごめんなさい。
 まだシムノンが正編のメグレシリーズに本格的に取り組み始める前、ファイヤール社がシリーズ作品4作の概要提出を要請した。そこで船旅から戻りながらもまだモルサン=シュル=セーヌで《オストロゴート号》船上の生活をしていたシムノンは、メグレ第1作『怪盗レトン』やさらなる続編の執筆と類似の時期に、後の『七分間』収録作となるG.7ものの中編3作の下書きを書いたようだ。1930年6月ころだったらしい。
 だが結局G.7ものの企画は Jaques Haumont 社[発音はジャッコーモンか?]に行くことになった。女性写真家ジェルメーヌ・クルルGermaine Krull(1897-1985)がストーリーに沿った写真を撮り下ろして犯罪実録読みもの風の冊子に仕立てる企画である。そこでシムノンは1931年初夏に中編『イトヴィル村の狂女』を書く。すでにメグレシリーズの刊行は始まって、成功への階段を駆け上がっていた時期だ。G.7ものはメグレと違って気軽で書きやすかったのではないかとラカサン氏は推測している。
 シムノンはすでにジェルメーヌ・クルルを知っていたようだ。ファイヤール社のメグレシリーズの表紙はどれも犯罪実録写真風だが、そのうちの1冊『メグレと深夜の十字路』の写真はクルルのものだ。彼女はポーランド/ドイツ出身のフォトジャーナリストで、エッフェル塔などのモダンな都市建築風景や、街路の事物・人物写真を得意とした。以前に紹介したヴィジュアル誌《Vu見た》でも活躍した。20世紀末から再評価が進み、いまは写真集が手に入る。日本語では今橋映子『〈パリ写真〉の世紀』白水社)に紹介がある。
 シムノンは本名名義で『イトヴィル村の狂女』を刊行した1931年8月4日(火)、サン=ルイ島につけた自船《オストロゴート号》にクルルを始め著名人20人以上を招いて、やはりメグレシリーズ刊行時と同じように馬鹿騒ぎのパーティをやったという。バグパイプの楽隊が場を盛り上げた。1冊で企画が終わってしまったのは、クルルが政治的活動に時間を取られるようになったからではないかとラカサン氏は書いている。
 シムノンは残りの3作を箪笥の肥やしにしていたが、後の1933年に改稿の上《Marianneマリアンヌ》という娯楽紙に本名名義で掲載された。そのときクルルの写真が紙面を飾っており、『イトヴィル村の狂女』と同様にシーンを忠実に再現する写真が使われている。フランスの電子図書館ガリカで閲覧できるので、ぜひご覧いただきたい。各話の第1回掲載紙面を示しておこう。
http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/cb328116004/date
http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k7644937b/f9.item
http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k7644910p/f9.item
http://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k7644930f/f5.item
 これら中編3作が『七分間』のタイトルで1冊の本に纏まったのは、かなり後の1938年のことである。
 

『イトヴィル村の狂女』1931

 小説家の「わたし」は、パリ司法警察局の有能な刑事G.7の活躍をこれまで何度か書いてきた。彼は30歳。育ちのよい少し内気な青年のような外観で、グレーの地味なスーツにベージュのレインコートを着ている。G.7という通称は、髪の色がタクシー会社《G7》の車のように赤いことからきている。
 台風で荒れる4月の深夜、私たちはおんぼろ車で、パリから南へ50キロのイトヴィル村近くへと出向いた。《死んだ馬》の十字路で奇妙な事件が発生したのだ。
 午後9時半に郵便局長が辻を通りかかったところ、辻の旧家に住む若いブロンド娘が「彼が殺された!」と助けを求めてきた。近くに病院を構えるカニュ医師が倒れているではないか。息がない。だが慌てて憲兵隊を呼んで戻ってきたところカニュ医師の姿はなく、なんと別の見知らぬ男が心臓にナイフを刺されて死んでいた。
 驚いて憲兵隊がカニュ医師に電話すると、彼は生きて病院におり、しかも目撃のあった時間は別の村に出産の立ち会いに行っていたという。ともかく死体はカニュ医師の病院に運ばれた。ブロンド娘の名はマルト・タンプリエ。証言は要領を得ず、精神の発達に障害があるという。
 わたしとG.7はカニュ医師の病院に赴き、死体を確認しようとした。だが安置所から死体は消え失せていた。
 翌日、わたしたちは《死んだ馬》の十字路の旧家に住むマルト嬢を訪ねる。わたしは豊かなブロンドと少女のような声の彼女に魅了される。家の窓から広大な麦畑と、いくつもの案山子が見える。G.7はわたしに拳銃を手渡すといった、「地平線から目を離さずに見張ってくれ、もし午後5時になっても何もなければ、右から3番目の案山子を撃て」と。
 マルト嬢が背後のベッドに座ってわたしを見続けている。途中、不意にわたしに襲いかかってきて、彼女の拳銃を取り上げる。だがわたしはすぐさま気を取り直して窓辺へと戻る。そしてじりじり時間が過ぎ、5時になって、わたしは案山子を撃った。そして外へ出て案山子のもとへと辿り着いたとき、驚くべき事態を目の当たりにした。G.7が「こっちだ!」と叫ぶ声が聞こえる。事件の痛ましい真相とは? 
 
 話者である「わたし」の淡い恋心が描かれるのが特徴だが、実は最後になって、G.7もブロンド娘に好感情を抱いていたのだとわかる。
 イトヴィルという村は実在するが、本当にこのような十字路があるかどうかは不明。十字路で事件が展開し、その辻に謎めいた美女が住んでいるというシチュエーションは、『メグレと深夜の十字路』(1931/4執筆)を容易に想起させる。本作はその直後(1931/5)に書かれたと思われる。このようにG.7ものの中編はたいてい原型作品がある。
 とはいえ、冒頭のヘンなシチュエーションはこれまで『不安の家』連載第23回)や「マリー橋の夜」連載第30回)でも見てきたようにシムノンならではのもので惹きつけられるし、いっときの娯楽ミステリーとしてなら充分に楽しめるものだと思う。
 本作はもともとコラボレーション企画だったためか、後の全集にテキストのみ収録されたことを除いて仏語圏で復刊の機会がなかった。シムノンだけでなく相手の写真家ジェルメーヌ・クルルも著名なので、かなり古書価が高い。実際、私の所持している最も高額なシムノン本だ。
 


【←写真3】【写真4→】

  
 クルルの写真はほぼ全ページにわたって掲載されており、ストーリーを忠実に再現していて、ほとんど絵物語や実録紙芝居のようだ。とくにマルト嬢役の生々しい表情を捉えたシーンは惹きつけられる。【写真3】の右ページに見えるのが《G.7》で、《ハヤカワミステリマガジン》訳出時の205ページ上段に当たる。【写真4】は同211ページ下段、「涙で洗われたような澄んだ瞳で、われわれを虚ろに見つめている。/わたしは魅了されはじめていた!」(長島良三訳)の部分。
 書籍の裏表紙には、同じくシムノンとクルルのコラボによる企画第2弾『L'affair des sept minutes[七分間事件]のタイトルが大きく予告されていた。これは未刊に終わったが、後述の「将軍暁に死す」だったのだろう。ミシェル・ルモアヌ氏の著書『Simenon: Écrire l'hommeシムノン:人間を書く](Gallimard, 2003)はカラー写真がたくさん掲載されたコンパクトかつ密度の濃いお薦めの作家ガイド本で、見ているだけで楽しいが、その38ページに幻の『七分間事件』の表紙レイアウトが載っている。
 ひょっとすると、クルルはこの時点ですでに次回用の写真も撮っていたのかもしれない。書籍が1冊で終わってしまったのは惜しまれるが、後の新聞掲載版でクルルとのコラボは復活したのである。
 
 

「消失三人女」1933

 わたしと司法警察局のG.7は南仏ポルクロール島を訪れた。この砂浜で相次いで3人の女性が行方不明になっており、「グラン・ラングスチェ邸を調べろ」という奇妙な噂話が広まって、パリまで届いていたのである。
 6月のポルクロール島は太陽が燦々と輝く楽園のような場所で、ミモザなど百花が咲き乱れ、ユーカリやバナナの樹も見える。グラン・ラングスチェ邸に住むのは40歳前後のアンリという男で、普段から数人の情婦を家に引っ張り込んで暮らしており、消えた3人の女も彼のもとにいたのだった。邸宅には他にアミラルという白髪の老人も同居している。
 けだるい島の生活。G.7やわたしはハンモックで過ごし、情婦のリリーと話したりする。あるとき叫び声が聞こえ、アンリを始めわたしたちは森へ分け入ったが、わたしは何者かから発砲を受けて軽傷を負ってしまった。
 夜にはツーロンの艦隊が海上で実砲射撃演習をする。その夜、わたしたちはアンリらと夕食後、邸宅の2階に上がったが、具合が悪くなった。ふたりとも睡眠薬を盛られたのだ。アンリも眠ってしまっている。射撃演習の音が響く夜、わたしたちは懸命に睡魔と闘っていたが、そのとき森の狐罠に何者かが掛かり、それを知らせる激しい電鈴が邸内に響いた。わたしたちは現場へと駆けつける。誰が何の目的で3人の女を消したのか。犯人はアンリだろうか? 事件の背景となった過去の出来事とは? 

 ポルクロール島の情景描写がなかなか眩しくて印象的だ。異郷小説の趣がある。ミステリーとしての結構よりも、けだるい島の情景が読みどころだろう。
 これまでも紹介してきたようにイエール沖ポルクロール島はシムノンが1926年夏にバカンスを過ごし、異郷の雰囲気を満喫した場所だ。『13の謎』収載のG.7ものの短編「ハン・ペテル」でも舞台になっている。
 
【註1】 ラストのG.7の述懐が、通俗ミステリー作品らしからぬ妙に深遠な内容で、かえって浮き立っていて興味深い。まるで後年のシムノンの特徴をそのまま自己分析しているかのようだ。
 

「事件は、君の立派な推理によって、ものの見事に解決したわけだ」
(中略)「君までが、そう信じているのか……小説家なら、ボクと同じようにかならず解決するよ……推理とか、それに似かよったものなんて、じつは、なんにもなかったんだ……しかたがしないので[ママ]、私は、人間を見つめていただけだ……私は、あそこの人間どもの体臭をかいだんだ……そして、ほかの事件を、あれこれと思い出した……とくに、過去の犯罪事件をひとつひとつ吟味した……」(松村喜雄訳)

 
 

「将軍暁に死す」1933

 オルフェーヴル河岸の司法警察局のオフィスで、G.7がわたしに匿名の投書を見せる。そこには「イヴァン・ニコライヴィッチ・モトロゾフがセーヌ河岸の自宅で6月19日に殺害されるだろう」と書かれてあった。
 冷たい雨の夜、わたしはG.7とセーヌの対岸からくだんの家を見張った。他にもオビエ刑事が監視に立っている。モトロゾフはもとロシア帝国将軍で、55歳ほど。老人はレストランから戻り、自宅に入った。その後もわたしたちは見張ったが、わたしは午前2時の時報の後、ついうっかりとその場で寝入ってしまい、はっと目を覚ますと2時7分過ぎだった。G.7はすぐそばにいる。
 何事もなかったかのようだったが、明け方5時にわたしたちが鍵の掛かった家に乗り込むと、なんと将軍は2階の寝室のベッドで心臓を撃たれて死んでいたのだ! 凶器のピストルも見当たらない。
 まだ犯人は家のどこかに隠れているのではないか。だがG.7は自分の拳銃を構えて周囲を警戒する様子もない。寝室のストーブのダクトは下階の食堂まで延びている。ダクトを通してわたしたちの会話を犯人は聞いているのではないか。だが急いで食堂へ降りてみたが、ダクトは天井を這っているだけで、怪しい人影はどこにもない。
 現場検証に立ち会い、オルフェーヴル河岸のオフィスに戻ったわたしは、G.7の机上の写真に気づいた。モトロゾフともうひとり、こんなに美しい娘は見たことがないというほどのロシア女性の写真だ。モトロゾフの娘ソニアだった。
 その後しばらくして、不可解なことにG.7は辞職願を司法警察局の部長に提出し、わたしの前からいなくなってしまった。
 ひょっとして、わたしが眠ってしまった7分間にG.7は将軍を撃ち、また戻って何食わぬ顔をしていたのではないか。わたしは友人に対し疑念に駆られる。元保安部刑事の探偵に依頼し、わたしはG.7の動向を探った。すると彼が最近、ソニアらしきロシア女性とたびたび食事を共にしていることがわかった。彼はソニアと恋に落ちたのか? なぜ彼は辞職したのだろう?
 わたしは司法警察局の部長の名を騙ってG.7に連絡し、彼と会うことに成功した。あの事件から1ヵ月半が経っていた。彼は驚くべき経緯を語り、わたしを将軍の家へと連れて行く。密室事件の真相は? そしてG.7の決断とは?
 
 原題は「七分間の夜」で、語り手であるわたしがつい眠ってしまった空白の時間を示している。本作はシムノンペンネーム時代の探偵役L.53が活躍する短編「“ムッシュー五十三番”と呼ばれる刑事」(連載第23回)の焼き直しだ。トリック自体も実在の事件をもとにした有名なもので、このトリックはさらに変奏され、後にメグレシリーズの一編『死んだギャレ氏』になっている。
 つまりトリック自体にオリジナリティがあるわけではないが、その後の処理にシムノン独自のアイデアがあるのだと思う。トリックを早々に見抜いた探偵役が、その真相を知ったことで事件の当事者らに対してどのような態度を見せるのか、というところに面白みがある。その部分での応用が、『13の秘密』連載第28回)所収でやはり同じく密室ものであるジョゼフ・ルボルニュものの短編「クロワ=ルウスの一軒家」ということになる。
 今回のヴァージョンは、モトロゾフ将軍の過去の物語が終盤に大幅に書き加えられていることが特徴だ。語り手がG.7と再会した後、その痛ましい経緯がG.7の口から語られる。ここはたぶんシムノンが後で加筆したところで、まるで映画砂の器で終盤にいきなりピアノ協奏曲「宿命」に乗って過去の物語が延々と語られるかのように、突然モトロゾフの悲しきこれまでの宿命が、ちょっと見違えるほどの筆致で紡がれてゆくのである。ここは読み応えがある。
 
 

「マリイ・ガラント号の謎」1933

 9月はじめ、わたしとG.7は港町フェカンに赴いた。この時期のフェカンは雨模様ではなく、珍しく健康的な陽射しが注ぐ。
 G.7はパリ司法警察局を辞職し、ベリー通りの小さな事務所で私立探偵業を開業したばかり。来月にはロシア女性ソニアと結婚する。そんな彼にフェカンの裕福な商人モリノー氏から調査依頼があったのだ。モリノー氏の古い持船《マリイ・ガラント号》が、夜中に誰の姿もないのにひとりでドックから沖合へと出て行った。翌日英仏海峡で発見されたが無人で、ウィスキーの空瓶が転がっていただけだ。しかも曳船されて戻ってきたので調べると、タンク内から身元不明の女の死体が見つかったのである。絞殺だという。曳船先から多額の金を要求されたモリノー氏は、船を出航させた者を見つけたいと考えていた。
《マリイ・ガラント号》は巨大な船で、すでに現地ではリュカ警視le commissaire Lucas が捜査に当たっている。腕利きで、幅広い肩を二度揺するのが癖だ。
 モリノー氏の妻はノルマンディの典型的美人だったが、10年ほど前に若い男と逃げて行方知れずになり、しかも3年前にブレーメンで亡くなったという。娘は父に似て器量が悪く、夜に自宅で弾くピアノの音がやるせなくもの悲しい。息子は神経質なところがあり、モリノー家の家庭環境は幸福とはいえない。
 もしかすると死体の女はモリノー氏の妻で、モリノー氏が殺したのではないか。わたしはそう考えたが、どうやら死体は別人のようだ。わたしたちは《マリイ・ガラント号》やモリノー氏の自宅が見えるホテルに宿泊したが、G.7は窓を開けて寝入ったのが祟ったのか風邪気味となり、ホテルから動かない。わたしがかわって外へ出て、曳船の船長などを連れて来てG.7に引き合わせたりする。モリノー氏の息子もやって来たが、父親から死体の女と面会するなと釘を刺されたという。彼は母の面影をずっと探して生きてきたのだ。G.7はきみの母親をきっと見つけると請け合う。
 モリノー氏が調査の進捗状況を心配し、G.7を訪ねてくる。だがG.7はわたしたちを置いて、パジャマ姿のまま退席してしまった。10分経っても彼は戻ってこない。わたしがそっとドアノブを確かめると、外から鍵が掛かっている。G.7はモリノー氏を閉じ込めるのが目的だったのだ。しかし、なぜ? そこへG.7から電話があり、ようやく女中に解錠してもらい、わたしたちは外へ出た。モリノー氏の事務所へ行くと、そこに着替えを済ませたG.7が待ち構えていた。事件の真相は? 
 
 おお、リュカ警視(!)が登場。ちょっとメグレに似ている。またモリノー氏とG.7の関係は、後の『霧の港のメグレ』を連想させる。
 G.7がパリ司法警察局を辞して私立探偵になったばかりという設定がミソで、これが事件の解決に大きな意味を持つ。まるでエラリー・クイーンのようだ! これは面白い趣向で、連作の構成の妙が楽しめる。先の「将軍暁に死す」ではG・K・チェスタートンそっくりの逆説も出てくるので、本連作は本格ミステリーファンの心をつかむ要素が多いかもしれない。
《マリイ・ガラント号》という名前は前回ちょっと触れたように、西インド諸島マリー・ガラント島から採っているのかもしれない。無人船が漂流しているという設定は、1872年の伝説「マリー・セレスト号事件」がヒントなのだろう。既読ペンネーム作品では「ソンセット刑事の事件簿」連載第24回)第14話「三人の波止場の溝鼠」が近い。もっと近似したペンネーム時代の先行作があるのではないかと直感するが、見つけられていない。
 実は本作は日本におけるシムノン受容史で意外と重要な位置づけにある。私の知る限り、初めて本名名義で邦訳紹介された作品なのだ。これ以前のシムノンの邦訳は、既出の通り《猟奇》掲載のペンネーム作品のコント4編(1931)が見つかっているだけだ(連載第20回連載第21回)。
 本作は戦前の映画雑誌《スタア》で1934/11下旬号(2巻22号, 37号)、1934/12上旬号(2巻23号, 38号)、1935/新年増大号(3巻1号, 39号)の計3回にわたり、岡田眞吉訳「あり得べからざる航海」として掲載された(1934/12下旬号は年末で休号のため存在しない)。後の本国書籍版(1938)の題名「L'énigme de la Marie-Galante」ではないから、《マリアンヌ》掲載版(1933)の「La croisière invraisemblable」から直接翻訳されたことになる。【写真2】で示したように、「シメノン」ではなくはっきり「ジョルジュ・シムノン」と書かれている。「シメノン」表記で出た初の邦訳書籍『モンパルナスの夜 ─男の頭─』(永戸俊雄訳、西東書房、1935/11/16発行)より早く、書籍の背表紙に初めて「シムノン」と書かれた『黄色い犬』(別府三郎訳、黒白書房、1936/1/25発行)よりも、もちろん早い。日本のシムノン受容史は「シメノン」表記ではなく「シムノン」表記から始まっていたのだと、ここで声を大にして指摘したい。これは新発見のはずである。
 実はこれ、国立国会図書館デジタルコレクションに最初の2号分しか登録がなくて、2回で完結だと思っていたら、途中で切れているのだよ。次号に続くとも何も書かれておらず、ページの最後でぷっつり終わってしまう。《探偵倶楽部》版「マリイ・ガラント号の謎」でいえば344ページ上段のところ。読んでみて初めて次号にも続きが載っているのではないかと気づいた次第。
 ようやく同志社大学に次号があるとわかって取り寄せて読んだのである。いやあ、見つかってよかった。無事に物語は完結していて、そんなに翻訳も悪くない。
 
 シムノンは一度作品を発表すると後は頓着しないタイプの作家だったようだ。後年に筆を加えた作品というのをほとんど聞いたことがない。雑誌掲載作品を単行本化するときも、たぶんまったく手を加えていなかった。
 そうしたなかで、『七分間』収載の中編3作は、いったんペンネーム時代に書いてから本名時代に改稿した非常に珍しい例だと思う。このような作例は私の知る限りだと他に長編『北氷洋逃避行』(1932)しかない。
 どの部分をどのように改稿したのかわからないが、邦訳を読むと文章の質感がまだらであるという印象は受ける。「将軍暁に死す」終盤の映画砂の器っぽい部分は後の加筆のような気がするし、「マリイ・ガラント号の謎」では台詞に「……」が多くなっていて、この台詞の溜め具合は第一期メグレの特徴に近いようにも思える。
 ストーリーは全般的に通俗的な探偵小説の枠組みに留まっているのだが、文章はところどころで私たちの知るシムノンらしさが効いているように思える。未熟な時期のアイデアを、いくらか筆力がついた時期に書き改めて、それなりに読める作品に仕立てている、という印象を受ける。まあたんに印象なので本当のところはどうかわからないが、ペンネーム時代と本名時代の合作のように読める興味深い連作だ。
 
   
 
 今回メグレものの『死んだギャレ氏』に通じる作品「将軍暁に死す」を取り上げたので、それに関連して日本人作家の小説にも言及したい。
 角田喜久雄(つのだきくお)の先駆的本格長編推理小説『高木家の惨劇』(1947)はシムノン『ロアール館』[死んだギャレ氏](春秋社、1937)の影響を受けているのではないか、との指摘をときおり目にする。戦後日本の本格ミステリーとシムノンの交差である。角田喜久雄メグレ警視ものが好きだったそうだ。
 そこで『高木家の惨劇』を読んでみた。中島河太郎監修『日本探偵小説全集3 大下宇陀児角田喜久雄集』創元推理文庫、1985)に収録されている。
 前半の物理トリックと心理トリックのせめぎ合いはなるほど『死んだギャレ氏』っぽいが、それだけでなく中盤はダンケルクの悲劇』[13の謎](春秋社、1937)所収の「引越の神様」のようで、しかも後半の一部は『モンパルナスの夜 ─男の頭─』[男の首](西東書房、1935)っぽい。だが最後にはそのどれでもない独自の世界観になっていると感じた。戦後日本の情景描写がとてもいい。
 山前譲氏は「必読本格推理三十編」に『高木家の惨劇』を選んでいる[この評論は鮎川哲也編『硝子の家 本格推理マガジン』(光文社文庫、1997)所収]
 他の加賀美敬介捜査一課長シリーズ作品は『奇蹟のボレロ国書刊行会、1994)にまとめられており、新保博久氏が心の籠もった巻末解説記事を寄せている。こちらも読んだ。中編「緑亭の首吊男」(1946)は、シムノン『聖フォリアン寺院の首吊男』[サン・フォリアン寺院の首吊人](春秋社、1937)とタイトルがよく似ている。だが短編「怪奇を抱く壁」(1946)はもうそれ以上にはっきりと、トランクすり替えというシチュエーションが『サン・フォリアン寺院』そのものだ。
 他にも先達の海外傑作ミステリーに敬意を払った短編が散見され、当時の作者の意気込みが伝わってくるが、なかでも興味深かったのは短編「五人の子供」(1947)だ。この物語の決着は、まさにシムノン「“ムッシュー五十三番”と呼ばれる刑事」「将軍暁に死す」「クロワ=ルウスの一軒家」『死んだギャレ氏』で示した方向性とよく似ている。物理トリックではなく、そのトリックを見破っていた探偵役がどのような決断をしたか、という心理面での決着だ。シムノン『死んだギャレ氏』からの影響ということなら、ひょっとするとこの「五人の子供」がいちばんかもしれないし、そして作品自体も出来がいい。シムノンからの影響が浮いておらず、こなれている。
 長編『奇蹟のボレロ(1947-1948)も奇術団のなかで起こった凶行を扱って一見シムノンとは無関係に見えるが、途中で登場人物のひとりが「自分がやった」と告白して、それをきっかけに次々と容疑者の目星が変わってゆくスリリングなシークエンスは、ちょっとばかり後年のシムノンメグレ罠を張る(1955)にも似ている。もちろん当時の角田が読んでいたはずはないが、いかにもシムノンが書きそうな展開なのだ。角田は意外にずばりとシムノンの本質を見抜いて、無意識のうちにそのスタイルと作法を会得していたのではないか。ついそんな空想を広げたくなる。
 全般的になかなか面白く、これを機会に角田喜久雄を読めたのは嬉しかった。題材が自分の趣味と近そうな『折鶴七変化』『風雲将棋谷』もいつか読んでみたい。
 
【註1】
 ベルギーに事務局を置く「Les Amis de Georges Simenon ジョルジュ・シムノン友の会」から、シムノン研究家であるピエール・ドリニーPierre Deligny、クロード・マンギー両氏の共著で『Simenon de Porquerolles: Cinq séjours dans « une île idéale »』[ポルクロール島のシムノン:「完璧な島」への5回の滞在](2003)という研究同人誌が出ている。
 これに拠るとポルクロール島には実際に《Le cabanon du Langoustier ラングスチェ別荘宅》という家があって、シムノンは1926年のときそこに滞在していたそうだ。
 シムノンはポルクロール島を愛し、その後も1934年、1936年、1937年、1938年と計5回滞在した。最後に訪れたのは戦後の1955年だったそうだ。
 

瀬名 秀明(せな ひであき)

 1968年静岡県生まれ。1995年に『パラサイト・イヴ』で日本ホラー小説大賞受賞。著書に『月と太陽』『新生』等多数。
 

Tout Simenon 18: Maigret/L'Homme De Londres/L'Ane Rouge etc

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Tout Simenon 20: L'assassin/Faubourg/Chemin sans issue

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Nouvelles secrètes et policières 1

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Germaine Krull: Photographer of Modernity (MIT Press)

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瀬名秀明氏推薦!■
アガサ・クリスティーと14の毒薬

アガサ・クリスティーと14の毒薬

 

NY Timesベストセラー速報20170709(執筆者・国弘喜美代)

アメリカのベストセラー・ランキング
7月9日付 The New York Times紙(ハードカバー・フィクション部門)


1. CAMINO ISLAND    Stay
John Grisham ジョン・グリシャム

Camino Island

Camino Island

プリンストン大学の図書館で厳重に保管されていた古い原稿が盗まれた。若い女性作家のマーサーは謎めいた女性から依頼を受け、フロリダの島で人気書店を営みながら裏では稀覯本の闇取引で儲けているというブルースを、秘密裏に調査することになる。


2. THE SILENT CORNER    New!
Dean Koontz ディーン・クーンツ

The Silent Corner

The Silent Corner

FBI捜査官ジェイン・ホークは夫の自死を不審に思い、理由を突き止めようとする。大きな力を持つ何者かが秘密を守るべく迫りくるなか、ジェインはひそかに真相へと近づく。強さとやさしさを備えた魅力的なヒロインの活躍する新シリーズの第1作。


3. THE IDENTICALS    Down
Elin Hilderbrand エリン・ヒルダーブランド

The Identicals: A Novel (English Edition)

The Identicals: A Novel (English Edition)

恋も仕事も長つづきしない気まぐれなハーパー。完璧主義でやかまし屋のタビサ。両親の離婚後、長年のあいだナンタケット島とマーサズ・ヴィニヤード島に別れて暮らしてきた双子の姉妹は、行きづまった人生を立て直そうと、互いの家を交換することに決める。“サマー・ノベルの女王”と呼ばれる人気作家の最新作。


4. INTO THE WATER    Stay
Paula Hawkins ポーラ・ホーキンズ

Into the Water: The Sunday Times Bestseller

Into the Water: The Sunday Times Bestseller

イギリスの小さな町を流れる川の底から、ネルという名のシングルマザーの死体が発見される。そのあたりは地元では“溺死の淵”と呼ばれ、かつての魔女狩りで魔女とされた女たちが命を絶った場所として知られていた。ネルは魔女に強い興味を持ち、淵の歴史を書き綴った手稿を遺していた。


5. DANGEROUS MINDS    New!
Janet Evanovich ジャネット・イヴァノヴィッチ

Dangerous Minds

Dangerous Minds

ハーバード卒のテキサス娘、ライリー・ムーンと大富豪エマーソン・ナイトのシリーズ第2作。島が消えた――僧侶の不可解な訴えを受け、謎解き好きのエマーソンは、ライリーといとこのヴァーノンとともに調査に乗りだす。やがて国立公園局の関与が明らかになる。


6. TOM CLANCY: POINT OF CONTACT     Down
Mike Maden マイク・メイデン

Tom Clancy Point of Contact (A Jack Ryan Jr. Novel Book 3) (English Edition)

Tom Clancy Point of Contact (A Jack Ryan Jr. Novel Book 3) (English Edition)

ジャック・ライアン・ジュニアを主人公としたスリラー第3作。ジャックの所属する“ザ・キャンパス”ことヘンドリー・アソシエイツ社は、軍需企業社長をつとめる元上院議員から依頼を受ける。表向きは買収を検討中のシンガポール企業の財務調査だったが、ジャックとともに財務アナリストとしてシンガポールへ飛んだ元CIA職員のブラウンは、ある密命を帯びていた。


7. KISS CARLO     New!
Adriana Trigiani アドリアナ・トリジアーニ

Kiss Carlo

Kiss Carlo

1949年フィラデルフィア、ニッキーは幼いころに両親を亡くし、いまはおじのマイクが経営するタクシー会社で運転手として働いている。婚約者もいて暮らしも安定しているが、ニッキーには舞台俳優になりたいという夢があった。反目し合うマイクとドミニク兄弟、劇場を父親から受け継いだカラなど、イタリア系アメリカ人のふたつの家族が描かれる。


8. DRAGON TEETH    Down
Michael Crichton マイクル・クライトン

Dragon Teeth

Dragon Teeth

1876年、未開の西部へと気軽な探検に繰り出したエール大の学生ウィリアムは、2人の古生物学者マーシュとコープによる「骨戦争」こと恐竜化石発掘の熾烈な競争に巻き込まれる。2008年に急死した著者による未発表作品で、綿密に描かれた史実の枠に『ジュラシック・パーク』を彷彿させる豊かな想像力を嵌め込んだ冒険フィクション。


9. COME SUNDOWN    Down
Nora Roberts ノーラ・ロバーツ

Come Sundown: A Novel (English Edition)

Come Sundown: A Novel (English Edition)

ボディーンはモンタナ州で、家族4世代でリゾート施設を備えた牧場を経営している。ある夜、家出したと聞かされていたおばのアリスが、牧場の近くで惨殺死体となって発見される。じつはアリスは家出をしたあと何者かに誘拐されており、その家から逃げ出していたのだった。この事件をきっかけに、ボディーンと彼女の家族の絆が試されることになる。


10. THE FORCE     New!
Don Winslow ドン・ウィンズロウ

The Force

The Force

ニューヨーク市警で精鋭チームを率いるデニー・マローンは、麻薬と暴力がはびこり、人種間の争いが絶えない街を18年守ってきたタフな警察官で、“マンハッタンノースのキング”とも呼ばれている。だが、その道に通じたすえにみずから薬に手を出し、賄賂を受け取るようになり、ついにはヘロイン密輸に絡む大金を手にする。映画化が予定されているクライムノベル。


【まとめ】
グリシャムが3週つづけて1位をキープしています。初登場の作品は4つ。2位のディーン・クーンツの新シリーズは、ホラーや超常現象の要素のないミステリだと著者が語っています。7位のアドリアナ・トリジアーニはイタリア系アメリカ人の人気作家。日本に紹介されている小説は『愛するということ』(ヴィレッジブックス)だけですが、映画の脚本なども手がけ、《ビッグストーン・ギャップ》では監督と脚本を担当しています。10位のウィンズロウ“THE FORCE”は映画化が予定され、現在公開中の《LOGAN/ローガン》を撮ったマンゴールドが監督をつとめるようです。ベストテン外では、12位にメアリー・アリス・モンローのビーチハウス・シリーズ第4作“BEACH HOUSE FOR RENT”がはいっています。


国弘喜美代(くにひろ きみよ)

東京在住の翻訳者、南東京読書会の世話人のひとり。訳書は『スパイの血脈――父子はなぜアメリカを売ったのか?』など。


愛するということ 上 (ヴィレッジブックス)

愛するということ 上 (ヴィレッジブックス)

愛するということ 下 (ヴィレッジブックス)

愛するということ 下 (ヴィレッジブックス)

Beach House for Rent (The Beach House Book 4) (English Edition)

Beach House for Rent (The Beach House Book 4) (English Edition)

スパイの血脈――父子はなぜアメリカを売ったのか?

スパイの血脈――父子はなぜアメリカを売ったのか?

第19回名古屋読書会レポート(執筆者・片桐翔造)

 
 さる3月、名古屋の地で女子ノワール『ガール・セヴン』読書会が行われたのでありました。ゲストとして翻訳者の高山さまと担当編集の永嶋さまをお迎えして、もろもろ盛り上げて頂きました。ありがとうございます。


ガール・セヴン (文春文庫)

ガール・セヴン (文春文庫)


 第19回を数える名古屋読書会。課題本は大抵「あーそういえばあのジャンルやってなかったね」というノリで決まります。このたびも、「そういやノワールやってないね」という鶴ならぬ誰かの一声があったことは告知にもあったとおり。しかし筆者は知っているのです、今回の課題本選定の際に「永嶋さん、名古屋に来るたび甘口スパで有名な喫茶マウンテンに行ってるみたいだけど、いちごスパの食べられる冬・春には呼んでなかったから、今回お呼びして甘口シリーズをコンプしてもらおう!」という深謀遠慮があったことを……。しかしだからといって0次会喫茶マウンテンツアーが大規模企画されたりなどはしなかったことを……! まったくおもてなし精神の欠片もない。


 さて喫茶店といえばコーヒーですが、コーヒーといえば、帝政期フランスの外交官、タレーランがコーヒーについて語ったというフレーズが思い出されます。曰く、

Noir comme le diable, (悪魔のように黒く)
chaud comme l'enfer, (地獄のように熱く)
pur comme un ange, (天使のごとく純粋で)
doux comme l'amour.(愛のように甘い)

ノワール・コム・ル・ディアブル――コーヒーもノワール『ガール・セヴン』ノワールというわけで、喫茶マウンテンと今回の課題本の意外な関係が伺えることですね。


 ともあれ『ガール・セヴン』のあらすじをば。
 ロンドンの会員制クラブで働く日系ハーフ、石田清美には暗い過去があった。外出していた間に両親と妹を惨殺された彼女は、以来犯人の影に怯え、幼いころ暮らしていた日本への望郷の念を抱えながら、夜の街へ逃げ込んだのだ。そんな彼女の前に現れたのが殺し屋マーク。彼が犯人探しを持ちかけてきたことから、清美の運命は少しずつズレ始めていく……。


 まずは、プロローグが印象的という意見。「オープニングシーン最高すぎません? イチャついてた近所の男の子が言葉責めしはじめて、『そういうのいい、冷めた』っつって家に帰るの」「アレで一気に雰囲気がつかめた」「そんで本編中に再会したら、コイツがまた未練タラタラなのな」「身につまされますね」「ふーん」と、ツカミは上々な作品といえましょう。


 肝心のストーリーについては、「主人公が状況に流され過ぎ」「マークにホイホイ流されるのは分かるけど、店に来たロシアン・マフィアの仕事引き受けるのは確かにやりすぎ」「でもロシア人が日本に帰る飛行機のチケットくれるんだよ?」「結局、最善の行動を取っているつもりでどんどんドツボにハマっていくのがノワールの醍醐味」と少々賛否が分かれました。そんな中で、「利用される側だった主人公が、トラブルに巻き込まれつつ自分の身体性を取り戻し自立するまでの話」という感想は、内容を上手くまとめたものといえるでしょう。
 00年代初頭のタルト・ノワール(女性を主人公とするノワール・ムーブメント、ケイティ・マンガー『女探偵の条件』スパークル・ヘイター『トレンチコートに赤い髪』など)を想起したという意見もあり、読み比べてみると面白いかもしれません。


 飛び出すだろうと予感のあった「ノワールってそもそも何なの」という疑問には、永嶋さんによる回答がありました。「ノワールというのは、人間の魂のどろどろした下半分を描いたものなんですよ」「まず都市を舞台にした西部劇がハードボイルドで、ハードボイルドから正義や理想が取り去られたものがノワール」という回答に、わかったような表情を浮かべる参加者あり、わからないような表情を浮かべる参加者あり。定義の話になるとだいたいいつもこうなるんだすな。個人的には西部劇でも「リバティ・パランスを射った男」がハードボイルドで、「荒野のガンマン」がノワールというところで納得しました。


 主人公が日系ハーフで、作中でところどころに日本の描写もありましたが、そこには当然容赦ない感想が振り下ろされます。「主人公が清美、日本在住時代の親友が聖子って、名前がダサい」「聖子の現住所が柏って、なんで柏なの……?」「清美がよく心のなかで唱えるフレーズって、アジアン要素出したかったのかしらね」。これらについてはややツッコミどころが多かったようです。


 忘れてはいけないのが小物――特に靴の描写です。「ピンヒールからゴツいブーツに履き替えるシーンがあることで、アクションに説得力がもたらされている」「ドクターマーチンで蹴られたらそりゃ骨の一本や二本持っていかれるよね」という意見には確かに頷けました。


 そんななかで最も話題が盛り上がったのは、清美の周りを彩る個性豊かな、ともすればアクの強い脇役たち。「クラブ店長のノエルがさ、浮気がちなダメ男なんだけどなぜか憎めない秀逸キャラ」「基本クズしかいないので清美のお得意さんの心理学者が清涼剤」「でもコイツ変態じゃん、女の子呼んでやってもらうことが本の朗読って」「まあマイ・フェア・レディみたいな女の子教育したい欲求だよね、分からなくもない」「マジか」「浮気店長とか変態心理学者とか頼れる殺し屋と見せかけてアッこいつアカン奴や、となるマーク君とか、男性陣が一癖ありすぎてわるい乙女ゲーみたいな小説」などなど。バーテンダー、デイジーの女傑ぶりが魅力的というのは衆目の一致したところであります。


 恒例の「次に読むオススメの一冊」は、ボストン・テラン『音もなく少女は』冲方丁マルドゥック・スクランブル、エメリー・シェップ『Ker 死神の刻印』といったダーク路線の女性主人公もの、また深町秋生アウトバーン』『バッドカンパニー』のような、タフな女性主人公ものが多くを占めた模様です。
 また女殺し屋もの「ニキータ」をはじめ、ロシアン・マフィアもの「イースタン・プロミス」、ノワールサスペンス「ヒストリー・オブ・バイオレンス」など、オススメ映画も多く挙がりました。


 さて次回の名古屋読書会(第20回)の課題本はそして誰もいなくなった。会場はいつもの会議室からガラリと変わり、タコとフグで有名な、三河湾にぷかぷか浮かぶ日間賀島であります。離島にミステリ好きが集まるというかつてない好シチュエーション、何かが起こるに違いないと否応なく期待が高まるのですが――(次回のレポートに続く)


片桐 翔造(かたぎり しょうぞう)


ミステリやSFを読む。サンリオSF文庫総解説』本の雑誌社)、『ハヤカワ文庫SF総解説』早川書房)に執筆参加。《SFマガジン》DVDコーナーレビュー担当。名古屋SFシンポジウムスタッフ。名古屋市在住。
ツイッターアカウント: @gern(ゲルン@読む機械)

これまでの読書会ニュースはこちら


ガール・セヴン (文春文庫)

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女探偵の条件 (新潮文庫―タルト・ノワール)

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時間ぎれ (新潮文庫)

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トレンチコートに赤い髪 新潮文庫―タルト・ノワール

トレンチコートに赤い髪 新潮文庫―タルト・ノワール

死美人 (新潮文庫)

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カレンダー・ガール (新潮文庫―タルト・ノワール)

カレンダー・ガール (新潮文庫―タルト・ノワール)

壁のなかで眠る男 (新潮文庫)

壁のなかで眠る男 (新潮文庫)

ボンデージ! (新潮文庫)

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リバティ・バランスを射った男 [DVD]

リバティ・バランスを射った男 [DVD]

荒野のガンマン HDリマスター版[Blu-ray]

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音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)

Ker 死神の刻印 (集英社文庫)

Ker 死神の刻印 (集英社文庫)

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫)

ニキータ [Blu-ray]

ニキータ [Blu-ray]

イースタン・プロミス [DVD]

イースタン・プロミス [DVD]

ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]

ヒストリー・オブ・バイオレンス [DVD]

そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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サンリオSF文庫総解説

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ハヤカワ文庫SF総解説2000

ハヤカワ文庫SF総解説2000

【再掲】第33回(シンジケート後援第15回)せんだい読書会開催!

 
※受付終了しました。たくさんの参加申込みありがとうございます。(7月1日追記)


 皆様、如何お過ごしでしょうか? 暑い5月から少し肌寒い6月に入り、今年の天気はいったいどうなってしまったんだ、梅雨は来るのかと、心配しつつ、わたくし次回のホスト、クイーンファンは第33回読書会、課題本にふさわしい、陽射しまぶしい7月のことを思い浮かべております。
 クイーンファンを名乗っているのですから、慧眼なる皆様はもうおわかりでしょう。そうです、今年もやってまいりました。クイーンまつりが!
 今回の謎の物語は、夏の終わりが舞台ではありますが、時期はぎりぎり合っているといって良いでしょう。なぜならジュブナイルの題名は「夏別荘の怪事件」。ミステリだけじゃものたりない。夏気分も味わいたい! 本作品は7月の読書会にはぴったりの作品であるはずです!


 どんな話かというと……。
 スペイン岬と呼ばれる花崗岩塊の突端にある別荘の海辺で、海に向かってテラスの椅子に腰掛けていた死体は、黒い帽子を被り、舞台衣裳めいた黒のマントを肩から掛け、ステッキを手にし……あとはまったくの裸だった! 大西洋に突き出した岬に建つ大富豪邸で起きた殺人事件。解決に乗り出したエラリ−を悩ませる謎はただひとつ! なぜ犯人は被害者の服を脱がせたのか? 
 如何です? もう、手に取って読みたくなったでしょう! 今回の課題本は誉れ高き国名シリーズの1冊(国名シリーズ9作目にして掉尾)『スペイン岬の秘密』エラリー・クイーン著、越前敏弥・国弘喜美代・訳、角川文庫)です。


スペイン岬の秘密 (角川文庫)

スペイン岬の秘密 (角川文庫)


 本作品はクイーン作品の中でも犯人を当てやすいと思われる方がいるのではないかと思います。また、クイーンといえば「読者への挑戦」を掲げる作品がいくつかあるのですから、「読者への挑戦」を掲げるほどのものではないと思われる場合もあるかと思います。ですが、本作品はその「読者への挑戦」、そして本格ミステリの最高峰であると、ホストは考えています。おっと、これ以上を語るのは野暮というもの。「犯人を当てる」のでなければ、何のための「読者への挑戦」? そう疑問に思った方は、是非手にとって読んでいただき、本読書会に参加していただき、夏のクイーン祭りを一緒に楽しんでいただければと思います。
 是非、本読書会に参加してミステリの深淵に触れてみませんか。
 奮っての御参加、心よりお待ちしております。



■日程:2017年7月8日 15時30分〜17時30分(途中退室可)
■会場生涯学習支援センター(旧:中央/和室)
宮城野区榴岡4丁目1番8号)
■参加費:一般 500円、学生 無料(会場費、諸経費等)
■持物エラリー・クイーン『スペイン岬の秘密』
※各自で必要に応じて飲み物をご持参ください。(会場内に飲み物準備はございません)
■申し込み:氏名・連絡先を明記のうえ、sendai.mystery@gmail.com までご連絡ください。
※参加申し込み頂きました方へは、主催者側から受付完了のお知らせメールを返信いたします。これまでの読書会でも、様々な年代・性別の方にご参加いただいております。ぜひ気軽にご参加ください。また読書会終了後には懇親会を予定しておりますので、お時間のご都合がつく方は、こちらにもぜひご参加頂ければと思います。