第15回 燃える美老人に萌えよ男性諸君――『もう年はとれない』(執筆者・♪akira)

 
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 今回ご紹介する本の内容には腐要素はありません……あっ、そこのあなた! 早まらないで!!
 

もう年はとれない (創元推理文庫)

もう年はとれない (創元推理文庫)

 いきなり脅かしちゃいましたが、筋金入りのシニア萌えを自認する筆者が責任を持って全身全霊でお勧めしたい本、ダニエル・フリードマン『もう年はとれない』創元推理文庫)がついに出ました!!!(感涙)
 
2ヶ月ほど前、“サー・イアン・マッケランが93歳のシャーロック・ホームズを演じる”というニュースがネット上で話題になったのを覚えてらっしゃる方もいるかと思いますが、実社会のみならず、今やフィクションも高齢化の波。11月公開の映画『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』なんて、撮影時に主役のスタローンが67歳、シュワちゃん66歳、敵役のメル・ギブソンですら57歳、初参加のハリソン・フォードなんて71歳ですよ! しかも皆さんちゃんとアクションしてるんですよこれが!!
 
 しかし! 本書だって負けちゃいません! なんたって主人公は87歳!!!!!

「自分が八十七歳になったときには、バック・シャッツのようでありたい」という帯の推薦文を書いたのは、あのネルソン・デミル――70歳。男ごころに男が惚れる! いくつであろうとも、かっこいい男はかっこいい! というわけで今回は、燃える美老人に男性読者が萌えること必至という、まごうかたなき「腐」本でございます。もちろん女性読者も存分にうっとりしてくださいね!
 
 バルーク(通称バック)・シャッツは――
“ダーティ・ハリーの役作りのためにクリント・イーストウッドが一日じゅうついてきたというのは違う。だが、監督したユダヤ人のドン・シーゲルが電話してきて、いくつか質問をした。(本文より)”
 ――という伝説の元メンフィス警察鬼刑事。S&W357マグナムを愛用し、荒っぽいとはいえ抜群の検挙率を誇った輝かしい経歴を持つが、当然今は引退して妻と二人暮らし。ある日、死の床につく第二次大戦時の戦友ジムに呼び出された。捕虜収容所でユダヤ人のシャッツに残虐非道な行いをし、のちに死んだはずのナチの将校ジーグラーが、実は別人となって生きのびているというのだ。過去の亡霊に関わるつもりはなかったシャッツだが、その戦犯がナチの隠し財産である金塊を持って逃げたことから、ジムの娘婿をはじめ、お宝を狙った連中に追い回されるはめになる。
 
 ドン・シーゲル監督のくだり、著者フリードマンが大胆にもこんな逸話を作り上げちゃうほど、シャッツはまんまハリー・キャラハン(注)なんですよ!!! ハリーは妻と死に別れて以来独身、使う銃は44マグナムという点は違うものの、痛烈な皮肉と反骨精神、その不屈の魂はまさに生き写し! ファンの方ならダーティハリー 87歳編』として読めば、さらに面白さ倍増!
(注)ドン・シーゲル監督ダーティハリー(1971年/米)でクリント・イーストウッドが演じたサンフランシスコ市警の刑事。最初の日本語吹き替えでは、台詞で「お不潔ハリー」と言われていた。
 
 そんなキャラ設定だけでおつりが来るほど期待できちゃいますが、この本でもっとも注目していただきたいのが、超がつくほどカッチョいい台詞の数々です! 抜き出したらきりがないほどたくさんある中、ちょっとだけご紹介しますと――
 

「おれがなにを知らんぷりできるか聞いて驚くなよ、ダーリン。なにしろ筋金入りの礼儀知らずなんだ。」
「地獄があるなら、おまえら二人一緒に落ちろ」

 
 これ、現在84歳のイーストウッドが演じてもまったく違和感がないんですけど!(軽く気絶)
 
 かようにいちいち痺れる台詞満載なのですが、なにせ本体は超後期高齢者。いかに精神がタフでも、身体は追いつかず、記憶さえあやしげ。ましてやネット社会に対応できるわけもなく、そこで相棒として登場するのがNYのロースクールに通う孫のビリー。昔取った杵柄で、刑事のカンを頼りに事件に当たるシャッツと、祖父の身体を気遣いながらも人生初の冒険にやる気まんまんの孫コンビは、バディもの、家族ものファンの方もきっと気に入るはず。
 
 そして本書の特徴で忘れてはならないのが、老いに対する目線です。誰しも逃れられない運命ですが、その厳しい現実も、シャッツのユーモアあふれる一人称で語られることで、いたずらに不安を煽ることなく、より身近なこととして読み手にじんわりと伝わってきます。そろそろ老いを感じ始める年に近づいた人、ビリーのように若くて今まで考えたことがなかった人も、これを読んだあとはまわりのお年寄りを見る目がちょっと変わるのではないでしょうか。
 
 だからといって懐古主義ではないし、下の世代に対する説教話にもならないところがいいんですよ! TV好きのシャッツが、NY大学映画学科の教授が出てくる番組を観るシーンが何度か出てきますが、しったかぶりの意見に対して地の文で皮肉をかますところは最高です!
 
 インドア系でへなちょこ男子のビリーと、第二次大戦での教訓を忘れずに、へんくつと言われようが我が道を行くヘビースモーカーのシャッツのでこぼこコンビの活躍は、多分皆様の予想以上にタフな展開でハラハラドキドキの連続!
 本国ではすでに2作目が刊行されたとのことですが、果たして本書でシャッツは最後まで生き延びられるのか? それとも続編は過去の話なのか? それを確かめるべく、まずはジジかっこいいシャッツの勇姿に萌えまくりましょう!!
 
 ところで先述の映画学科教授は、映画にもっと高齢者が登場しないのはなぜか、という問いに対して――
「高齢者は新たにロマンティックな関係を始めない。国際的な陰謀にもふつうは巻きこまれない。(中略)高齢者が主人公になるとしたら、世代間のつながりや、若い世代への知識の伝達や、死についての物語でしょう」
 ――などとのたまっているので、ぜひこの映画『エクスペンダブルズ3:ワールドミッション』を観て腰を抜かして欲しいと思います。(そして実は腐女子の方々にぜひ観て欲しいあのラスト! まったく意図がわかりませんw)
 

『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』予告編

 
『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』公式サイト
http://expendables-movie.jp/
 
 

akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。
 Twitterアカウントは @suttokobucho
 

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