翻訳昔話(その2)(執筆者・山本やよい)
翻訳昔話(その2)――食欲魔人
翻訳作業のときにいつも思うのだが、好きな分野のことを訳すのはとても楽しい。逆に苦手な分野が出てくると、すっ飛ばしたくなる。わたしの場合、好きな分野は料理と犬。苦手な分野は数知れず。とくに理数系の分野が苦手。
ヒヨッコのころ、レックス・スタウトの短篇を訳していて、ネロ・ウルフさんの豪華な昼食シーンに狂喜乱舞したのを覚えている。その場面がずっと続いてくれればいいのにと思ったほどだ。以後、どの作品でも食事や料理の場面が出てくると、舞いあがってしまう。コージー系のグルメミステリが訳せればどんなに幸せなことだろう。そこに犬が登場すれば、もう最高。ポムフリットが大活躍して、美味なるフランス料理とワインがふんだんに出てくるパンプルムース氏のシリーズが、わたしの理想である。
ま、こんな人間なので、「類は友を呼ぶ」の格言どおり、食いしん坊が自然と集まることになる。十年ほど前から、編集者&翻訳者仲間数名で女子会をやってきた。いや、女子会なんて可愛いネーミングは似合わない。恐るべき食欲魔人の集まりといったところ。年に一度、先輩翻訳家のお宅に集まって、昼過ぎから深夜まで延々と飲みつづけ、食べつづける。お酒は先輩が用意してくれるので、あとのメンバーは手製の料理を持参する。
ガーリックのかわりにシナモンで風味付けをした餃子、砂肝を使った和え物、健康に悪そうな串カツ、などなど。
集まるのは、たいてい、隅田川の花火大会の日で、テレビで花火中継を見ながらビールとワインと日本酒を飲んでいたものだが、一度、珍しくも桜の季節に集まったことがあった。夕方近くに食事を中断して、みんなで近所へ花見に出かけた。ついでに公園でストレッチをして、帰り道はランニングをやって、胃袋に空きスペースを作ってから、後半戦の食事に挑んだ。
あのころは楽しかったなあ。考えてみたら、みんな同業者なのに、仕事の話はぜんぜんしなかった。ま、いいか。
◇山本やよい(やまもと やよい)1949年岐阜県生まれ。同志社大学文学部英文学科卒。主な訳書/サラ・パレツキーのV・I・ウォーショースキー・シリーズ。ピーター・ラヴゼイのダイヤモンド警視シリーズ。最近はメアリ・バログのロマンス物に挑戦。 |
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