第32回 とっても“へたれ”な四人の王子様――『プリンス同盟』(執筆者・♪akira)

 

プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち

プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち

 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 
 今月は連載開始以来初のファンタジー作品の登場です。今や世界的に大人気のTVシリーズゲーム・オブ・スローンズ(原作はジョージ・R・R・マーティン氷と炎の歌』シリーズ。製作総指揮はあのデイヴィッド・ベニオフです!)も萌え要素満載ですが、今回はファンタジーの王道、グリム童話に出てくるキャラクターが満載のキュートでおかしな冒険物語、クリストファー・ヒーリー『プリンス同盟 プリンス・チャーミングと呼ばれた王子たち』(訳・石飛千尋ホーム社)をご紹介します!
 
 おとぎ話に出てくる王子様といえば――
 
 白馬に乗っている、見事な剣の使い手、イケメン、スタイルもいい、勇気がある、なおかつ優しい、一国の王位継承者(つまりお金持ち)
 
 ――と相場が決まっておりますが、よくよく考えたらイケメンにはいろんなタイプがいます。たまたま通りすがりにキスをした人とか、塔から垂らされた髪の毛が気になって勝手に登ってきた人とかが、お姫様の趣味に合うとは限らないわけで。眠りについた時は王子様といえばキャプテン・アメリカだったのに、100年後に起きたら流行りが変わってアイアンマンになってた! なんてこともあったのではないでしょうか。<?
 
 何かニュースがあった場合の当時の情報伝達手段といえば、王室お抱えの宮廷詩人が作った歌。それをたくさんの吟遊詩人たちが口伝てに各地へとふれまわっていたわけですが、伝言ゲームでよくあるように、途中から細部が変わっていっても不思議はありません。宮廷詩人の歌はもともとお姫様が主役。なので王子の名前なんてどうでもよく、「えーっと、ドラゴンを倒した王子って名前なんだっけ? じゃあ総称で、魅力的な王子=プリンス・チャーミングにしとくか」みたいな感じで適当に扱われため、どこの王子が何をやったかが不明な噂が各国に流れていったわけですね。
 
 前置きが長くなりましたが、この物語はまさにそのせいでエライ目にあった王子たち4人が、汚名返上するべく同盟を組み、数々の困難を乗り越えて恐ろしい魔女に囚われた愛しの姫たちを救いに行く話です。そんなプリンス同盟の面々は――
 
フレデリック王子: 一番の関心はオシャレ。臆病すぎてシンデレラに愛想を尽かされ……
グスタフ王子: ガタイはいいが単細胞の猪突猛進。ラプンツェルを助けたはずが……
リーアム王子: イケメンで勇敢。4人中最も王子らしいが、目覚めさせた眠り姫は……
ダンカン王子: 自分は幸運を呼び込む力があると(根拠なく)信じている。白雪姫と相思相愛だったが・……
 
 ことの発端は、フレデリック王子と婚約したシンデレラの失踪でした。王子自体は悪い人ではないのですが、元来冒険好きで好奇心の強いシンデレラは、壊れ物のように育てられた王子との刺激のない生活に愛想を尽かし、宮廷を出て行ってしまいます。そこで王子は生まれて初めて馬に乗り、シンデレラを探しに旅に出ます。残る3人の王子たちも各々の複雑な事情により王国を後にし、出会った一同はチームを組んでいざ魔女の塔へ!
 
 ……となるんですが、この4人がどうにもこうにもヘタレだったり考えなしだったりで、行く先々でトロールやらドワーフやら山賊やらにやられっぱなし。よくよく考えてみれば、王子様って何もできなくても家来になんでもやってもらえるんですよねー。たしかに役立たずでも仕方ないか……と、”王子様”の概念をあっさり覆す愛すべきへなちょこぶりがユーモアたっぷりに描かれています。そんな彼らですが、各々弱点を克服していき、力を合わせて無謀な戦いに挑むくだりはかなりの萌えどころとなっているのですよ!
 
 そして姫たちもただ助けを待っているだけではありません。自分を信じ、悔いのない人生を歩もうと頑張る姿には読者の誰もが応援したくなることうけあいです!(一人ビッチがいるのですが、それが誰かは読んでのお楽しみ!)
 
 他にも王子の妹姫など魅力的なキャラクターがたくさん出てきますが、中でもフレデリック王子の従者レジナルドと、蒼のラフィアンという賞金稼ぎがいいんですよ〜。すでに本国では続編2冊が刊行ずみということなので、続きが気になるところです!
 

 さて、おとぎ話の大胆アレンジ作品といえば、アドベンチャー大作スノーホワイト―氷の王国―』が5月27日に公開です! 2012年に公開されたスノーホワイトは、勇猛果敢な白雪姫が邪悪な女王ラヴェンナを倒すという驚きのストーリー展開となっていましたが、続編となる今作は、ラヴェンナの妹である氷の女王フレイヤが登場します。仲が良かった姉妹はある事件が発端でたもとを分かちます。優しく愛情深かったフレイヤはそれをきっかけに心を閉ざし、姉の元を去ってさいはての地で氷の王国を築きます。
 

 氷の王国といえばアナと雪の女王を思い出しますが、フレイヤはそれよりずっとアンデルセンの『雪の女王』像に近いといえましょう。前作でも活躍したハンターのエリック(クリス・ヘムズワース)と、再会した幼馴染のサラ(ジェシカ・チャステイン)の冒険譚はアクション満載でワクワクしますが、なんといっても本作の一番の見所は目がくらみそうな美人姉妹のゴージャスさ!!! 燃えるような黄金のシャーリーズ・セロンとクールな白銀のエミリー・ブラントの美しさはまさに魔法レベル。一瞬たりとも見逃したくないほど完璧でございました。
 
 

『シカゴ』アリス・イン・ワンダーランドで2度のオスカーを受賞したコリーン・アトウッドの衣装は大変独創的で、二人の女王の性格を見事に表現。壮大な氷の王国の造形はファンタジーの世界を完璧に作り上げています。これらの美を堪能するだけでも大いに観る価値がある作品ですので、ぜひ大きなスクリーンでご覧くださいね!
 


スノーホワイト/氷の王国』
 
原題 The Huntsman: Winter’s War(北米公開日:2016年4月22日)
 
監督: セドリック・ニコラス=トロイヤン
脚本: エヴァン・スピリオトポウロス、クレイグ・メイジン
製作: ジョー・ロス 「マレフィセント」「アリス・イン・ワンダーランド
製作総指揮: サラ・ブラッドショウ、パラク・パテル
 
出演クリス・ヘムズワース(“ハンター”エリック)
   シャーリーズ・セロン(“邪悪な女王”ラヴェンナ
   エミリー・ブラント(“氷の女王”フレイヤ
   ジェシカ・チャステイン(“戦士”サラ) 
   ニック・フロスト
 
配給東宝東和
 
コピーライト© Universal Pictures
公開表記:5月27日(金)より TOHOシネマズ日劇 ほか全国ロードショー
公式サイトhttp://snow-movie.jp/
 
 
akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

  

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