名古屋読書会『そこどけ蜘蛛の会』レポート後編(下)「実を言えば」(執筆者・大矢博子)

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 さて、戸川さんのトークタイムが始まります!


黒後家蜘蛛の会が日本に紹介された経緯を伺ったところ、話は戦後に遡りました。戸川さんが東京創元社に入る、四半世紀前の話です。著作権を国際的に保護する条約「ベルヌ条約」の説明に始まり、戦後の「翻訳権10年留保」の話(なるほどそれで同時期にハヤカワと創元から同じ著者の本が出てたのかと目から鱗!)を経て、東京創元社での翻訳ミステリ担当がほぼ1人という状態で駆け回っていた頃のお話、翻訳小説が売れない最近の状況まで。翻訳は版権を競り落とさなくてはならず、ベストセラー作家の版権は当然高いので、その費用を回収しようとすると分厚くて高いハードカバーになってしまうなどの業界の話。参加者は一様に前のめりです。
 そして参加者からの質問も受け付けます。となればもちろん出るのがあの質問。戸川さんもそれはご承知で、「当然訊かれるでしょうから先に答えます。黒後家蜘蛛の会』6巻の件ですが


 参加者全員、前のめり。腰を浮かす勢いで前のめり。


出します
「おお!」(大きな拍手)
「池さんの訳で出します」
「おお!」(さらに大きな拍手)
「作品数が少ないので、『ユニオン・クラブ綺談』の文庫未収録のものと併せて一冊になるかと」
「おお!」
「ただ社会思想社のアンソロジーに入っている「黒後家蜘蛛とバットマン」は、企画物なので収録は難しいかもしれません。これまでも交渉はしてきたんですが」
「おお……」
「それと残念ですが、あとがきがつかないんですよね」
「おぉ……」
「でも、出しますから。これは決定です」
「おお!」(大きな拍手)
「戸川さん、そ、それはいつですか?!」


 はい、ここでひとつお断り。
 このとき戸川さんは「来年出します」とおっしゃり、会場からは名古屋城の金シャチが驚いて落ちるくらい大きな喝采がわき起こったわけですが……後日、戸川さんから私のもとにメールが届きました。曰く


『黒後家』の6巻は契約の問題もあり、来年出るとは確約できない、と言われ、頭を抱えました。


 ……ですってよ奥さん!
 実は戸川さんは来名直前に池さんとお会いして「早く出しましょうよ」というお話をされていたということもあり、「ついつい軽い気持ちで言ってしまったのですが、そう簡単にはいかないようで、なにか読書会のルポでも出される場合は訂正しておいてください」とのこと。メールの向こうから戸川さんの「てへぺろ」が透けて見えました。


 ということで来年というわけにはいかないようですが、「出す」ということに変わりはないようですので、信じて待ちましょう皆さん。なあに、これだけ待ったんですから、あと1年や2年、待てますとも。


 そして二次会へ。前回に続いて立食式です。こちらで杉江松恋さんによる『海外ミステリー マストリード100』の販売サイン会が始まったかと思えば、あちらではkindleiPadkoboをそれぞれのユーザーが取り出し電子書籍リーダー品評会を開催。おやおや、このテーブルは女子が固まって恋バナで盛り上がってるようですよ。
 ちなみに肩身の狭い喫煙者は入口近くのテーブルでひっそり暮らしていたところ、そこが杉江さんのサイン会場になったため、トイレの前に追いやられました。まるで外国の公衆トイレでチップをもらうおばあさんです。このトイレで死体が発見されたら「あたしゃずっとここにいたけどね、誰も出ていかなかったよ」と証言する役です。だったらあたしが犯人か。そうか。


 戸川さん供出の「旧装版・黒後家5巻セット」を巡るゲーム大会あり(SF者のK君が獲得! この五冊は名古屋大学SF研の部室に置かれているところを、後日私が確認しました)、水生大海さんから新刊告知タイムがあり、越前敏弥さんからインフェルノ宣伝があり、レジュメに素晴らしいコミカライズを寄せて下さったよしだ熊猫さんへの拍手あり、加藤篁幹事からプレ読書会企画マウンテン登頂」の発表があり……と、名古屋の夜は更けていったのでした。


 おかげさまで今回も名古屋読書会は大盛況。遠いところご参加下さったゲストのお三方、レジュメにご協力下さったよしださん・びりぃさん、BECHAさん、K君、ありがとうございました。レジュメ担当幹事加藤さん、会計担当幹事I嬢、二次会担当幹事T嬢、お疲れさまでした。そしてご参加くださった全参加者の皆さん、また次回、お会いしましょう。次の名古屋読書会を作るのは、キミだ!


 ……次の名古屋読書会?
 ふっふっふ。そうなんですもう決まってるんです。だってさあ、翻訳家さんが名古屋に引っ越してこられたってんだから、これはもう、歓迎読書会をしないわけにはいくまい?
 というわけで第10回名古屋読書会は、2014年2月15日(土)、古沢嘉通さんをゲストにお迎えしての開催だ。課題図書はクリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(新ハヤカワSFシリーズ)に決定。これまでの課題図書に比べるとややお高いが、電子書籍にもなっているので買いやすいぞ。
 おおっと、SFは馴染みがない・幻想わかんないとビビっているそこのキミ。心配するな、幹事二人もSF脳はゼロ。分からないからこそ質問できる・教えてもらえる、それが読書会。むしろ出逢いのチャンスですYO!


 【おまけの後日談】
 この日、カノジョ同伴で読書会に参加した常連T君がSF好きなので「2月は手伝ってね」と言うと、都合が悪くて欠席だという。都合が悪いなら仕方ない、と当日は引き下がったわけですが。
 読書会翌日になってT君から「実を言えば、2月は結婚式なのです」と連絡が。えええ! 昨日のカノジョと既にそういうことになっていたのか。ていうか、なぜ昨日言わぬのだ。昨日聞いてれば36人でてんとう虫のサンバを大合唱して……「それが恥ずかしいから言わなかったんですよ!」あ、そうですか。
 とまれ、T君&Hさん、ご結婚おめでとう! 執事カフェでのお披露目会の告知を名古屋読書会一同、手ぐすね引いて待ってるよ⊇



大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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黒後家蜘蛛の会 2 (創元推理文庫 167-2)

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黒後家蜘蛛の会 3 (創元推理文庫 167-3)

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黒後家蜘蛛の会 (4) (創元推理文庫 (167‐5))

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