名古屋読書会『そこどけ蜘蛛の会』レポート前編「土曜の午後早く」(執筆者・大矢博子)

 

 11月9日。
 それはフランス革命終焉の日であり、「水晶の夜」の日であり、ベルリンの壁崩壊の日であり、第8回だか9回だかの名古屋読書会の日でもあります。大上段に始めてみたものの、落差が大き過ぎて後が続きません。どうしましょう。無計画にもホドがあります。しかも何回目か忘れてます。その程度です。(事務局注:第9回です。世話人さんは忘れないようにしましょうね)


 そんなヨーロッパ史分水嶺的記念日でありながら、課題図書はフランスミステリでもドイツミステリでもなく黒後家蜘蛛の会です。アシモフにちなんでいつもよりファンデーションを厚めに塗って出かけます。厚いのはファンデだけじゃありません。今回はレジュメも厚い。全16ページ。作品一覧は言うに及ばず、黒後家ファンによる人物紹介、名古屋大学SF研メンバーによるSF作家としてのアシモフ紹介、黒後家人気投票の結果発表、作中に登場した料理一覧、メンバーの自宅地図、しかも関東在住なのになぜか名古屋読書会への出席率が異様に高いイラストレーター・よしだ熊猫さんによる黒後家蜘蛛の会(1)』収録の「日曜の朝早く」のコミカライズ8P付き! これが素晴らしい出来なんですが、権利の関係上アップは控えます。正直に言いましょう。ワタクシ、このマンガを読んで初めて黒後家メンバーの区別がつきました。

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)

黒後家蜘蛛の会 1 (創元推理文庫 167-1)


 レジュメも豪華ならゲストも豪華。東京創元社元社長の戸川安宣氏、『海外ミステリー・マストリード100』の書評家・杉江松恋氏(祝・増刷!)、そして黒後家ファンにして新刊ダン・ブラウンインフェルノが絶賛発売中の翻訳家・越前敏弥氏。参加者39名を3つのテーブルに分け、それぞれにゲスト1名ずつ加わっていただく予定です。


 しかし、なんせ大人数。しかもレジュメがそこらの「薄い本」並に厚い。薄いのか厚いのかどっちだ。というわけで30分前集合で会場設営及びレジュメ製本の助っ人を募集したら、続々と集結してくれました。これぞ名古屋読書会の結束力です。じゃあBさんYさんはレジュメ班に。CちゃんTさん名札配ってくれる? ちょっとKくんWくん、パーティション運んでちょうだい。そこのあなたは出来たレジュメを配布して、あなたは机を、あ、ちょっと、そこの男性、ホワイトボードをはこ……


 とととと戸川さん! なんで戸川さんが助っ人に混じってんですか! あぶなくホワイトボード運ばせるところだったじゃないですか!
 「早く着いちゃって。何かしましょうか?」
 滅相もない!


 宴会担当幹事T嬢の指示で机がつられ(名古屋弁)て三つの島ができ、レジュメ担当幹事加藤氏の指示でレジュメが製本されて配布され、会計担当幹事I嬢はテキパキ受付&集金を済ませ、かいぶつのまち光文社文庫)が大矢の解説つきで好評発売中の水生大海女史が受付サポートに入って参加者を3チームに振り分けます。


 「そろそろ時間だけど、もう全員揃ったのかな?」「杉江松恋さんがまだです」「場所わかりますかね?」「迎えに行った方がいいかな?」「あの……」「ん?」「杉江さん、5分前に星野書店にいるってツイートしてます」「なにっ」「なにっ」「じぇじぇっ」「近鉄パッセに5分前……だと?」「ムリだよそれ!」「うーん、まあしょうがないので定刻になったら始めるよ?」「はーい」


 「どーもー」


 「あっ」「あっ」「じぇっ」「なぜ間に合ったんだろう……」「5分でどうやって」「何かアリバイトリックが」「いや叙述トリックかも」「入れ替わり?」「ともかく良かった。今日は遠いところありがとうございます」「よろしくお願いします」「すみません、まず受付をお願いします」「領収書はお入り用ですか」「こちら名札です」「チームはこちらです」「これレジュメです」「では始めます」「始めます」「始めます」「まず諸注意を」「諸注意を」「諸注意を」


 あとで杉江さんから「意外と機械的に進行するんだねー」とのコメントをいただきましたが、当たり前です。ここはものづくりの街、鋼鉄都市・名古屋。トヨタの看板方式は伊達じゃありません。あと、幹事団のテキパキした仕切りに紛れて後方から「お、男? 杉江松恋さんて、男? 男なの? 和風美人じゃないの? 乙女書評家じゃないの?」という戸惑いの声が複数あがっていたことをご報告しておきます。どっから出てきた和風美人。


 さて3チームに分かれての読書会開始。いつもの大矢チーム・加藤チームに加え、アシモフということで名古屋大学SF研の精鋭K君にチームリーダーを任せます。幹事団にSF者が1人もいない名古屋読書会で、降って湧いたSF担当としていいように使われてます。そりゃもうこき使われてます。いいんです。若いうちの苦労は買ってでもしろ、です。艱難辛苦が汝を珠にするんです。彼をはじめ、名古屋読書会では次代を担う若手を育成中です。


 えーっと、ここまで書いてまだ読書会始まってないんですけど、どうしましょう? とりあえず皆様にご協力いただいた「黒後家人気投票」の結果を貼っておきますね。


【中編につづく】(中編は12月5日に掲載する予定です)



大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101