TVを消して本を読め!第四十二回(執筆者・堺三保/挿絵・水玉螢之丞)

 

第42回 無事に第2シーズン突入か? シャーロック・ホームズが現代のニューヨークで大活躍する『エレメンタリー』

 
 うー、年明けから日本とアメリカを行ったり来たりで、けっこう疲れている堺です。つか、ロサンゼルスは大好きな町だけど、やっぱ大阪の方が落ち着くなあ。
「どっちやねん?!」とツッコミが入りそうなこと言ってますが、今回のお題は、まさに「どっちやねん?!」とツッコミたくなるテレビドラマ『エレメンタリー』です。
 
 前にちょっとだけご紹介しましたよね。『シャーロック』のそっくりさんというかパクリみたいな(製作者の皆さんは否定してますが)現代アメリカ版シャーロック・ホームズものです。
 
『シャーロック』は、舞台を現代に移して、それに合わせて原典の物語を再解釈しているわけですが、『エレメンタリー』の改変はもっと激しいです。
 
【1】舞台は現代のニューヨーク。
 アメリカ版なんで、舞台もやはりアメリカへ。といっても、ホームズがアメリカ人になっちゃったわけじゃありません。
 今作のホームズもイギリス人で、元々はスコットランドヤードに協力していたのですが、麻薬中毒のリハビリのため、ニューヨークへと移り住んだという設定になっています。
 
【2】ワトソンは女性で元医師(でもって中国系アメリカ人の生粋のニューヨーカー)。
 そのリハビリの成果を見守る「コンパニオン」として、ホームズの父に雇われたのが、ジョーン・ワトソン(ジョンじゃないよー)。元は優秀な外科医だったのが、医療ミスで患者を死なせてしまい、医師をやめて今の職についたことになっています。
 こちらは、中国系ではありますが、生粋のニューヨーカーで大のヤンキースファンと、原作とは性別だけでなく、大きく設定が異なっています。
 
【3】ハドソン夫人は大家じゃなくて、たまに来る家政婦さん。でもって、ちょー色っぽい。
 恋多き女。ホームズの元依頼人なんだとか。
 
【4】ニューヨーク市警にいるのは、グレグスン警部。
『シャーロック』のほうがレストレードなのに対して、こちらの警察代表はグレグスン。ただし、ワトソン同様生粋のアメリカ人で、所属ももちろんニューヨーク市警。
 ちなみに、彼の部下として、本作のオリジナルキャラ、黒人男性のマーカス・ベル刑事も登場しています。シャーロック・ホームズのモデルだと言われているジョゼフ・ベルと苗字が一緒なんですけど、こちらはホームズを目の仇にしているというキャラになってます。
 
【5】兄は出てこないが大富豪の父がいるらしい。
 画面には出てこないのですが、本作のホームズには、折り合いの悪い父がいるらしいです。その代わり、兄のあの字も出てこなかったり。
 
【6】原典のネタはほとんど使わない。
 アイリーン・アドラー、モラン大佐、モリアーティ教授はどうやら存在しているようなのですが、毎回の事件そのものは、原作とはまったく関係ないものばかりとなっています。
 このへんも、毎回原作からの引用が満載の『シャーロック』とはずいぶん違う感じのドラマになっております。
 これは、1シーズン3話だけをじっくり作っている『シャーロック』と違って、アメリカのドラマらしく1シーズン22話を放送する『エレメンタリー』では、3シーズンも放送したら原作のストックを使い果たしてしまうので、最初からその手は放棄しちゃったと見るべきでしょう。
 
 正直、ここまで変えちゃうなら、別にホームズでなくても、という気もしないではないのですが、それでも、ホームズとワトソンの掛け合いはけっこう楽しいので、わたしはついつい見続けてしまってます。
 

 さて、肝心のホームズ役のジョニー・リー・ミラーですが、正直、カンバーバッチと比べるとハンサム度低し。どっちかっていうと「良い人」な顔立ちなんですよね(そういう役も多いし)。それをカバーするためか、芝居のほうはカンバーバッチよりもエキセントリックで強烈な変人ぶりをアピールしています。その言動たるや、カンバーバッチのホームズよりもあきらかにコミュニケーション障害度が上がってます。全身に刺青を入れ、テレビを何台も置いていくつものチャンネルを同時に見て神経を研ぎすまし、夜はベッドに美女を連れ込んだりと、全然ホームズっぽくありません。
 
 一方のワトソンも、『シャーロック』のマーティン・フリーマンよりも、人として大きな問題を抱えてしまっています。過去の失敗から、医師の道をあきらめてしまった彼女は、ホームズと出会い、彼の探偵仕事を手伝うことで、ようやく新しい人生の目的を見つけることになります。そして、原作や『シャーロック』のワトソンと違って、ホームズの弟子として一から探偵としての修行を始めちゃうのでした。
 演じるルーシー・リュウは、映画版チャーリーズ・エンジェルなどでもお馴染みの女優さん。東洋的な基準では美人とは言えませんが、ツンデレな感じが大変似合っております。あと、シンプルでラフなように見えて、なかなかにオシャレな服装も見どころかも。ワトソン役者史上、もっともかわいいワトソンであることはまちがいないでしょう(笑)。
 
 本作は、ホームズとワトソンの人格的欠陥を大きくクローズアップし、そんな二人がコンビを組むことで、お互いに徐々に人間的に成長していく様子を見せようとしている感があります。まあ、なんというか、いかにもアメリカ的なドラマの作り方なわけで、そこが気に入るかどうかでも、評価が分かれるところかと。
 
 第二シーズンではいよいよモリアーティも登場するという噂も流れていますし、気に入るかどうかはともかく、ホームズ・ファンとしては、一度は見ておきたい作品なのはまちがいないわけで、早く日本に上陸してくれるといいですね。
 

〔挿絵:水玉螢之丞  


◆『エレメンタリー』予告編

◆『エレメンタリー』オープニング(ピタゴラスイッチ?(笑))

 

堺 三保(さかい みつやす)


1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメエウレカセブンAOのSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。
ブログ http://ameblo.jp/sakaisampo/
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