第2回『通り魔』
87分署シリーズ第2作『通り魔』です。前作『警官嫌い』で活躍したスティーヴ・キャレラはここには書けないある事情でアイソラの街を離れており、最終章で少しだけ顔を出す程度。メインキャラ(?)不在の87分署で果たして誰が主役を張るのか、気になるところです。それを確認する前に、まずはあらすじを紹介したいと思います。
- 作者: エド・マクベイン,田中小実昌
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976/04/01
- メディア: 文庫
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87分署の管区内で路上強盗事件が続発。女性ばかりを狙う犯人は、金銭を奪った後、必ずこう言って去っていくという――「クリフォードはお礼を申し上げます、マダム」と。三級刑事で柔道の達人のハル・ウィリスを筆頭に87分署の刑事たちは事件を追う。その頃、怪我が治ったばかりのバート・クリングは友人から受けた奇妙な依頼に頭をひねっていた。
さて、前作は連続刑事殺人事件でしたが、今回は連続路上強盗事件です。「犯罪者が事件を繰り返す中で、証拠が揃って逮捕に向かって前進していく」という警察捜査のリアリティーは理解できるのですが、あまりに「連続〜」が続くと、私も他の読者も飽きてしまいます。
ところがさすがはマクベイン。飽きっぽい読者への配慮も忘れていません。キャレラに焦点を当ててはいてもあくまでもチームプレー優先。いかにも警察小説という雰囲気を感じさせた第1作とは異なり、この作品では、捜査の中心から外れた若手警官のバート・クリング個人の行動に焦点が当てられています。クリングが受けた依頼、そしてそれがどのように本筋と絡んでいくかは、みなさんの興を殺がないために書かないことにします。
クリングはまだパトロール警官なので、犯罪の捜査に関しては素人同然です。その彼がともかく街を歩き回って様々な人にインタビューを敢行し、時に脅されながらも情報を集めていくパートは、完全に私立探偵小説です。彼の、ある種身勝手な捜査活動に対して警察当局から圧力がかかってくる流れなどは、何となくマイクル・コナリーのハリー・ボッシュシリーズを連想しました。
その捜査の中で登場するのが、後にクリングのパートナーとなるクレア・タウンゼントです。彼女は、最初はこの交際に消極的なのですが、クリングの猛烈アピールの前に陥落。二人でデートに行ったりしています。おいおい捜査はどうしたんだよ。
87分署側では捜査は遅々として進行せず。最終的には「クリフォード」に対して囮の女性刑事アイリーン・バークを差し向け、襲わせて逆に捕まえるという非常にリスクの高い作戦に打って出ます。そういえば、『警官嫌い』には女性刑事は登場しなかったので、何気に初登場ですね。美しく、下手な男より遥かに強い彼女も今後活躍するのでしょうか。いまいち活躍しなかったハル・ウィリスともども期待したいところです。
クリングと87分署、それぞれの捜査が結び付いた時に浮かび上がるのは、秋のアイソラに隠された真実です。これが結構意外なもので、純朴な読者である私などはなかなかに驚かされました。単純ではありますが、発端から全体の構成までよく考えられています。第1作よりもなお一層面白い、優れた作品です。
ちなみに、本作の原題は”The Mugger”となっています。この単語には「(背後から首を絞めて脅かす)路上強盗」と、「大げさな表情をする役者」という二つの意味があり、女性を次々に襲う、なんとも滑稽で仰々しい「クリフォード」という通り魔の性質を巧みに表現していると考えられます。
三門優祐
えり好みなしの気まぐれ読者。読みたい本を読みたい時に。