早川書房発のひとりごと(執筆者・ミステリマガジン編集部・エムやん)

 
 
あっしもフグリ豚人生三十四年になりやすが……などと、手前味噌で恐縮ですが、ミステリマガジン2010年8月号の編集後記で書いたのは、もちろん飴村行さんの『粘膜兄弟』が面白かったからでやんす。
だって思っちゃったんです……あ、これって「ビザーロ」だ!と。


「ビザーロ」という単語に、お耳馴染みのない旦那方も多いかと思いますので、フグリ豚の世話人である「エムやん」こと、あっしに、ここはご説明をさせておくんなせぇ。


【ビザーロとは?】


ビザーロは、簡単に言うと、変なもののジャンルである。


ビザーロは、文学における、ビデオ屋のカルト映画のコーナーである。


カルト映画のように、ビザーロはときどきシュールで、ときどき馬鹿らしく、ときどき血まみれで、ときどきポルノぎりぎりである。


(Bizarro Central www.bizarrogenre.org から一部引用)


ビザーロ・フィクションのの特徴のひとつは、エンターテインメント寄りも位置することだと言える。
日常から逸脱した変な世界は、ときに読むにたえないほどグロテスクで虚無的だが、「三池崇史ウィリアム・S・バロウズの融合」「デイヴィッド・リンチが監督した日本アニメ」などと自ら喩えるように、独特のアイディアと疾走感は比類ない。


ヒャヒャヒャヒャ、さすが賢い旦那方だ。もうお気づきになりましたか。
上記説明、すべてミステリマガジン8月号の、特集・異色作家の最新潮流からの引用でごぜぇます。


そもそもあっしが初めて「ビザーロ」に出会ったのは、忘れもしない、今年の3/20、翻訳ミステリー大賞コンベンションの夜のことでした。
お菓子を囲んで女子会のように盛り上がるコージー部屋で、男子コージー代表として同席された翻訳家の横山啓明さんから、何故かビザーロの雑誌
The Bizarro Starter Kit OrangeThe Bizarro Starter Kit: An Introduction to the Bizarro Genre
を見せていただき、「今これがアメリカでは最も新しい潮流なのだ」と熱弁をふるわれたんでやんす。
次に来るのはこれだと思う、是非翻訳するべきだ、と。


あっしの中でなにかが閃きました。
これは、翻訳家で英米文学の研究家でもある宮脇孝雄さんが、今年の世界バカミス☆アワードでおっしゃっていた、
「いま僕が一番注目しているのは、イギリスのユーモア小説よりも、アメリカのカルトで、ある機械に人を入れるとその先から赤ん坊が出てきて、奇形好きの頭のおかしいナースが自分の理想の形を作るためにどんどん患者を入れる話です」
ってぇアレでは……!


ビザーロとの出会いに運命を感じたあっしは、さっそくHMM編集会議で、「これがいま世界の最先端文学だから!」と特集を決めたんでやんす。
正直に申し上げると、決めた時点では、かなりふわっとした理解でして、ミステリマガジン編集部の後輩たちに、
「(たぶん)異色作家の(きっと)最新潮流(という見方もある)よ。困ったら“(?)”って付けとけ。詳しいことは宮脇さんと横山さんにうかがってちょ。あとは夜露死苦!」
押し付け任せたところ、宮脇さんと横山さんのご協力もあって、思わぬ良い作品が揃ったんでごぜぇます。
その夜は、「ビザーロちゃん最高ビザーロちゃん最高ビザーロちゃん最高」と叫びながら、若さというのは素晴らしいもんだとつくづく思いました。


体の中から聴こえる変な音や、ティディベアのハードボイルド探偵、甘酸っぱい少年少女の死体掘りにご興味のある旦那方は、ぜひともミステリマガジン8月号をチェックしてみおくんなせぇ。


ずびゅるずびゅる。

ミステリマガジン 2010年 08月号 [雑誌]

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粘膜兄弟 (角川ホラー文庫)

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ミッドナイト・ミートトレイン 真夜中の人肉列車 血の本(1) (血の本) (集英社文庫)

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