年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その6


(承前)


 ラス前は霜月蒼のリストからお送りします。

【霜月蒼のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。
51『グリーンリバー・ライジング』ティム・ウィロックス/東江一紀訳(角川文庫)1994年刊行
 刑務所で暴動が発生、外界からシャットダウンされたガラスの天蓋のもとで地獄絵図が沸騰――神を擬装する狂える所長、非道と悪徳を呼吸する囚人ども。徹底的にヴァイオレントであるがゆえに崇高。唯一無二の傑作。(霜月)
グリーンリバー・ライジング (角川文庫)
52『暗闇にひと突き』ローレンス・ブロック田口俊樹訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1981年刊行
 現代ハードボイルドとは何か?と問われたら、この作品だとおれは答える。余分なものを徹底して削り落とした末に残った暗い結晶のごとき一作。ここから現代最高のハードボイルド・シリーズがはじまる。(霜月)
暗闇にひと突き (ハヤカワ・ミステリ文庫)
53『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター中田耕治訳(ハヤカワSF文庫)1956年刊行
 華麗なる大SF活劇。なのにプラスチックっぽい冷えた感じがないのは駆動装置が復讐の念というオーガニックな感情だからなのだ。理屈抜きにカッコよい。度肝を引き抜くクライマックスは忘却不能。(霜月)
虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
54『神は銃弾』ボストン・テラン/田口俊樹訳(文春文庫)1999年刊行
 激情はカオティックなものなのだ。娘を奪還するだけの物語が、カオスをカオスのままに描く異形の文体と、随所で放たれる名台詞によって神話にまで高まる。主人公の女戦士はミステリ史に名を残すほどファッキング・クール。(霜月)
神は銃弾 (文春文庫)
55『暗闇の終わり』キース・ピータースン/芹澤恵訳(創元推理文庫)1988年刊行☆
 娘を自殺で失った新聞記者が田舎町のティーンエイジャー連続自殺事件に挑む。罪悪感を抱える私立探偵というテーゼは60年代以降の流れだが、その究極が本書。過去の己の贖罪を事件解決に重ね合わせて走る主人公に泣く。(霜月)
暗闇の終わり (創元推理文庫)
56『地下組織ナーダ』J・P・マンシェット/岡村孝一訳(ハヤカワ・ミステリ)1972年刊行
 頭からケツまでフルスロットルの超高速ヴァイオレント絵巻。何もかもエクストリームすぎて真っ黒い笑いをあげるしかなくなる。過剰なテロ集団vs過剰な刑事による狂犬同士の殺し合い。すげえよ。(霜月)

57『わが心臓の痛み』マイクル・コナリー古沢嘉通訳(扶桑社ミステリー)1998年刊行
 コナリーはトウィステッド・プロットの名手なのだ。ひねりにひねってリアリティを犠牲にした感さえある本書、ディーヴァーの最良作に匹敵し、人工的なまでに巧んだゲームのごときプロッティングは本格読みにこそすすめる。(霜月)
わが心臓の痛み〈上〉 (扶桑社ミステリー)わが心臓の痛み〈下〉 (扶桑社ミステリー)
58『TOKYO YEAR ZERO』デイヴィッド・ピース/酒井武志訳(文藝春秋)2007年刊行
 すでにピースは現代文学の文脈で語られているのである。脳内に反復される無意識の残響を紙の上にぶちまけた語り口は読み手の聴覚を侵す。終戦直後の東京でアンビエント・ノイズをバックに上田秋成が奏でる暗黒小説。(霜月)
TOKYO YEAR ZERO


(つづく)