年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その5
そして吉野仁のリストです。
【吉野仁のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。
39『黄色い部屋の謎』ガストン・ルルー/宮崎嶺雄訳(創元推理文庫)1907年刊行
子供の頃から海外探偵小説に親しんでいる方なら、すでにこの古典を読破しているだろう。だが、いま一度ソポクレス『オイディプス王』の物語をじっくりと味わってからの再読をお薦めしたい。2度目の驚きがあるはず。(吉野)
40『猿来たりなば』エリザベス・フェラーズ/中村有希訳(創元推理文庫)1942年刊行
題名が示しているとおり、ユーモアとひねりに満ちた英国本格ミステリ。主役のコンビが捜査するのは、なんとチンパンジー殺害事件だ。どうして猿が出てくる探偵小説はこうも傑作なのか。猿ものを追わずにいられない。(吉野)
41『おれの中の殺し屋』ジム・トンプスン/三川基好訳(扶桑社ミステリー)1952年刊行
「おそらく私がいままで出会った中で、犯罪者のゆがんだ心理を描いた、もっとも真実味のある、かつもっとも私の心胆を寒からしめた一人称小説」(映画監督スタンリー・キューブリック)に異議なし。これぞ真の金字塔。(吉野)
42『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン/村上博基訳(ハヤカワ文庫NV)1955年刊行
あらゆる困難を乗り越えて戦う主人公(たち)の姿を読むことこそが冒険小説の醍醐味だとするならば、その乗り越えるべき困難の質や格が違う。ゆえに、これほどの感動を味わえる作品は他にない。最高峰である。(吉野)
43『ふくろうの叫び』パトリシア・ハイスミス/宮脇裕子訳(河出文庫)1962年刊行☆
ハイスミス未体験の方は処女作『見知らぬ乗客』や『リプリー(太陽がいっぱい)』からどうぞ。本作もただ奇妙な話なだけでない。人間の悪意を生み出す「見えない何か」に思いがけず直面してしまう。なんという怖さ。(吉野)
44『マラソンマン』ウィリアム・ゴールドマン/沢川進訳(ハヤカワ文庫NV)1974年刊行
ごく平凡な若者が突然ナチの残党に狙われ逃げまわる。単純なストーリーに思えるが、場面場面の展開がすこぶる巧みに描かれており、迫真のサスペンスに仕上がっている。なにより「あの」有名な拷問シーンの怖いこと!(吉野)
45『消されかけた男』ブライアン・フリーマントル/稲葉明雄訳(新潮文庫)1977年刊行
印象的な主人公像もさることながら、著者の初期作品には、単なる冷戦スパイ小説の枠にとどまらず、巧妙な伏線の上の「どんでん返し」に長けたものが多い。最後にとんでもない「うっちゃり」を喰わされるだろう。
46『真夜中の相棒』テリー・ホワイト/小菅正夫訳(文春文庫)1982年刊行☆
ベトナム戦争帰りで精神を病んだ殺し屋の青年、その青年とともに生きるアウトローの男、そして自身の相棒を殺され彼らを執念深く追う刑事。この歪んだトライアングルのたどる運命から目をそらすことができない。(吉野)
47『グルーム』ジャン・ヴォートラン/高野優訳(文春文庫)1981年刊行
母親と暮らすひきこもりの青年。彼のとめどない妄想と奇妙な現実が同時に暴走しはじめたとき、歪んだ世界はますます歪みを増していく。もはや笑って読むしかすべのない狂気の果ての異色作。ヴォートラン万歳!(吉野)
48『バスク、真夏の死』トレヴェニアン/町田康子訳(角川文庫)1983年刊行
トレヴェニアンは寡作家ながら、ほとんどの長編がその年の海外ミステリのベストと言っても過言ではない。その傑作群のなかで、本作はとくに美しくも切なく、そして妖しい魅力をそなえた、完成度の高い恋愛サスペンス。(吉野)
49『緋色の記憶』トマス・H・クック/鴻巣友季子訳(文春文庫)1996年刊行
あまりにも切ない過去の回想、あこがれの美しき女性教師の秘め事、繊細な心をもつ少年がたどる運命、そして明かされる事件の真相……。感動の深いクック作品のなかでもとくに劇的な名作。何度でも読み返したい。(吉野)
50『皇帝の血脈』アラン・フォルサム/戸田裕之訳(新潮文庫)2004年刊行
近年の追跡逃亡もののベストといえるサスペンス巨篇。後半からは国際謀略小説に流れてしまうものの、逆転と意外性の大技がこれでもかと連続していく前半はとにかく凄い。凄すぎてションベンちびる。読み逃すなかれ!(吉野)