年末特別企画2009〜2010年末年始に読みたいこの1冊 その3


(承前)


 続いては川出正樹リストから。


【川出正樹のお薦め作品】※他の七福神との重複除く。☆は残念ながら現在品切れです。
22『ながい眠り』ヒラリー・ウォー/法村里絵訳(創元推理文庫)1959年刊行
 アメリカの郊外住宅地(サバービア)に、本格ものと警察小説を融合させた新たなミステリの土壌を見いだしたパイオニアによる逸品。胴体だけの女性の死体を前に、仮説・推論・検証を繰り返して徐々に事件の全容を明確にしていく過程の、なんとスリリングなことか。(川出)
ながい眠り (創元推理文庫)
23『ウサギ料理は殺しの味』ピエール・シニアック/藤田宜永訳(創元推理文庫)1981年刊行
フランスの田舎町のレストランで、木曜日の晩に”狩人風ウサギ料理”がメニューに載ると、必ず若い女性が町のどこかで殺される。一体どうして??? ねじれた論理と黒いユーモアが全編を支配する、史上例のない奇妙奇天烈な謎解きミステリ。この真相を見破れる読者は、まずいないだろう。(川出)
ウサギ料理は殺しの味 (創元推理文庫)
24『午後の死』シェリイ・スミス/山本俊子訳(ハヤカワ・ミステリ)1953年刊行☆
 エンジン・トラブルにより、イラン高原の砂漠に不時着した青年が、一時の涼を求めて訪れた一軒家。そこで老いた語り手(シェヘラザード)から聞かせたのは、美しくも残酷な愛の物語だった。〈ポケミス〉という、シンプルかつシックな装幀がよく似合う小粋な逸品。(川出)
午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)
25『奇妙な人生』ティーブン・ドビンズ/瓜生知寿子訳(扶桑社ミステリー)1988年刊行☆
 内乱が勃発した一夜、ドクター・パチーコの家に集った三人の旧友は、書斎に飾られた若く美しい女性の写真に魅せられる。その正体を尋ねた彼らにパチーコは答える、今夕食をサーブしている疲れ果てた中年の家政婦だと。そして明かされる二十年にも及ぶ狂おしき愛憎の物語。極限状況のもと、各人が隠し続けていた秘密が次々と明らかにされていく、静かなされど凄絶なる密室劇。逆転に次ぐ逆転の果てに待っていたのは……。(川出)
奇妙な人生 (扶桑社ミステリー)
26『源にふれろ』ケム・ナン/大久保寛訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1984年刊行☆
 二年前に砂漠の町を出たきり姿を消した姉の身に何が起きたのか? ひ弱で内向的な青年が姉の行方を追う中で、性と麻薬と暴力に翻弄されながらも成長し、人生の根源にある何かに触れる。カリフォルニアの光と陰を描いた十年に一度の大傑作。(川出)
源にふれろ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
27『シャドー81』ルシアン・ネイハム/中野圭二訳(ハヤカワ文庫NV)、1975年刊行
 ロサンゼルス発ホノルル行きのジャンボジェットを乗っ取ったという通告に、機内に緊張が走る。だが一体犯人はどこに? これ以上の予備知識は百害あって一利無し。とにかく読んで、その面白さを味わって欲しい手に汗握る冒険小説の不滅の金字塔。(川出)
シャドー81 (ハヤカワ文庫NV)
28『ソフィー』ガイ・バート/黒原敏行訳(創元推理文庫)1994年刊行
 幼き姉弟が暮らす〈楽園〉は、いかにして崩壊したのか? 時制と視点を頻繁に切り替えて独話劇と対話劇を繰り返しながら、徐々に〈真実〉を明らかにしていく密室サスペンス。読み終えた瞬間、感動と安堵、驚愕と充足、そして哀惜と諦念がないまぜとなった溜息を漏らしてしつつ、すぐに再読したくなる稀有な物語。(川出)
ソフィー (創元推理文庫)
29『死の接吻』アイラ・レヴィン中田耕治訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)1953年刊行
 類いまれな容姿と優れた頭脳を駆使して、人生の勝者となるべく着々と計画を遂行していく野心家の青年。熱き情熱と冷徹な理性を合わせ持つ彼にとって、恋人の妊娠は取り除くべき障害以外のなにものでもなかった。犯人捜しと犯罪小説とサスペンスの魅力が一冊で味わえる贅沢な一冊。この強烈な牽引力を前に、途中で巻を措ける読者はいないだろう。(川出)
死の接吻 (ハヤカワ・ミステリ文庫 20-1)
30『ビッグ・ゲーム』レナード・ワイズ/真崎義博訳(早川書房)1986年刊行
 戦場での凄惨な体験の後、十年ぶりに故郷アイオワに戻ってきたポーカーの名手は、愛する土地と人々を守るために、五年に一度開かれる最高のポーカー・ゲームに挑むことに。手に汗握るポーカー小説であると同時に、傷ついた男の再生譚である豊饒なるミステリ。文庫化もされず絶版状態だが、ネット古書店で容易に入手可能なのでぜひ読んで欲しい、雄大なる小説。(川出)
ビッグ・ゲーム〈上〉 (Hayakawa Novels)
31『黒衣のダリア』マックス・アラン・コリンズ/三川基好訳(文春文庫)2001年刊行
 〈ブラック・ダリア〉と呼ばれていた女は、なぜ無惨な殺され方をしたのか。伝統的なハードボイルド・スタイルに沿いながら、巧妙に張り巡らされた伏線と謎解きの妙味も味わえる、贅沢で芳醇な虚実皮膜をよくした物語。(川出)
黒衣のダリア (文春文庫)


(つづく)