フリーランス編集者のひとりごと(執筆者・坂本久恵)

 ううむ、まずい、まずすぎる……。


 その強烈な作品に出会ったのは、フリーランスになってまだ間もないころ。翻訳書の依頼を受けたのは数冊目というときのことだった。
 いまでこそ、「うっわー、下手すぎる」などと率直に頭をかかえられるものの、当時はそのすごさにたじろぐばかり。
 翻訳書にふれたことのない人が発注して部署を去り、雑誌記事しか翻訳したことのない人が、さらに下訳に出してろくにまとめもせずに送ってきて、何人たりとも手を触れることすらはばかられるほどの訳文がそこに……。三行読んで頭が痛くなるほどの文のねじれ。
 今にいたるまで心に残る(笑)作品である。


 具体的になにがまずかったかというと……。

(1)全編どんどんたっぷり、どこまでも改行されている(雑誌感覚か?)。その結果、原文に対する仕上がり予想量のほぼ倍のページ数になっている気配。


(2)間接話法すべてにカギカッコをつけて、会話文にして改行している(文章増量&作者の意図すべて無視)。


(3)すぐに激怒する(なぜ? 原文はHe said.だったりして文脈にも怒りを感じるシーンなし)。それと同様に本文にない表現を多数追加。しかもことごとく読み間違っている。


(4)下訳を読み通していない気配。なぜなら……主人公の牧師が途中から神父になっているから。宗教が重要なファクターとなっているミステリなのに。

 ……という感じの作品でした。はは。10年以上も前の話ですので、そろそろ時効になったことにして、ここらで書いてもいいのではないかと。素人翻訳者ナンバーワンのひどさだったなー、と時々思い返す、フリーランス編集者の秋の空(遠い目)。
 ちなみにこの翻訳者はこれ以外の作品はないようですから、本業のほうに戻られたのでしょう。幸多からんことを祈ります。


 さてさて、いつかまたひどい話でお目にかかることがあるかもかもかもしれません(笑)。あ、もちろんひどい編集者の話で逆襲してくださいね、翻訳者のみなさま(私だとわからないようにw)。
 でも、このレベルはなかなか達成できないですよ〜、たぶん、きっと。


 それにしても・・・今回あらためてフリーランスになってからの仕事を振り返ると、ミステリ系とは言えない私でも、すでに30冊ほどを手がけていたのですね〜。感慨深いものです。

 フリーランス編集者 坂本久恵(今年いっぱいはフリーランスの予定)