ヴィレッジブックス編集部発のひとりごと(執筆者・ヴィレッジブックス編集部(ふ))

 翻訳ってすごいな――翻訳ものの編集に携わるようになってかれこれもう20年になろうとしていますが、いまだにしみじみそう思う瞬間があります。


 ついこのあいだもそんなことがありました。アリス・シーボルトの『ラブリー・ボーン』という作品を担当したときのことです。この作品は6年前に別の出版社さんから別の翻訳者さんで刊行されていたものですが、弊社が新たに権利を取得したのを機に心機一転、思い切って訳も新しくすることにいたしました。


 新訳のお原稿を順次頂戴していきながら、時に旧訳をあたりつつ作業を進めましたが、もう目からぼろぼろと鱗がおちまくり……訳す際の言葉の選び方や微妙な解釈の違いで、こんなに印象が変わってくるものなのだなあ、翻訳は奥が深い! とあらためて感動した次第です。


 もちろん旧訳もすばらしい訳ですから、どちらがいいとか悪いとかでは決してありません。同じ素材で作った同じ料理でも、料理人によって味が変わるようなもの、と言ったらよいのでしょうか。どちらもおいしいけれど、こちらの体調や気分によって、どっちを今日食べたいかが変わるような感じです。


 たとえば献辞。原文は“Always, Glen”なんですが、旧訳では「永遠に、グレン」、新訳では「どんなときでも、ね、グレン」となっています。なるほど、イメージは全然違うけれど、どちらのキャラもシーボルトさんならいけそうな気がします。


 また作中で重要な役割を果たす主人公のぶっ飛びおばあちゃんのセリフの差も興味深い。旧訳で「あんたはボーイフレンドがいるんだね」という箇所が、新訳では「おまえさん、彼氏ができたね」となっていたりします。


 ね、おもしろいでしょう?


 新訳ブームの昨今、旧訳と新訳の読み比べ……なんて楽しみも増えたのかもしれません。


 翻訳ものには国内作品では味わえない楽しみかたもできるのですね。皆さんはどんな楽しみかたをなさってますか?


 ちなみにこの『ラブリー・ボーン』は『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督により映画化され(http://www.lovelybones.com/)、日本でも1月下旬公開予定です。なんだかすごい映像になりそうですよ。お楽しみに。

ラブリー・ボーン

ラブリー・ボーン