翻訳ミステリー長屋かわら版・第1号

 田口俊

先月、今年86歳になる母親が大腿骨骨折をやっちまいました。
早朝、姉から電話があり、即、寝たきり→ボケ、という図が頭に浮かんだのだけれど、幸い、手術がうまくいって、ほぼ入院前の生活に戻れました。
その数日後、ほっとして久しぶりに立ち寄った新宿紀伊国屋でのこと。
『親が死ぬまでにできる50のこと』みたいな本が平積みになっていました。
思わず手に取ってしまいました。
で、ページをめくると――「あなたのお父さんが今年60歳だったとします。あとどれぐらい一緒にいられるでしょう?」
が〜ん、親って私のことだったのね。
シンジケート最長老の還暦、田口っす。よろしく。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)


 横山啓明

今夜もまたパスタだ。
ニンニクを刻みオリーブオイルに香を移す。
焦げつかないように弱火で。
ワインを呑みながら、調理台に向かっていると一日の仕事の疲れが飛んでいく。
翻訳を終えたばかりのペレケーノスの小説にも、ニンニクを焦がすな、パスタを茹ですぎるなってセリフがでてきた。

(よこやまひろあき:北海道生まれの東京育ち。寒いのが嫌い。夏大好き。目下の悩み:運動不足。主な訳書:ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』ペレケーノス『変わらぬ哀しみは』など。ツイッターアカウント@maddisco


 鈴木恵

鋭意翻訳中の長篇をいったん脇へ置いて、コリン・デクスターの新作短篇を訳了。モースの相棒だったルイスのもとに、へんてこな手紙が届く。〈イギリス探偵作家クラブ〉の小切手帳が盗まれたので、犯人を見つけてほしいというのだ。差出人はクラブの元会長H・R・F・キーティング。容疑者はクラブの面々――ラヴゼイ、ランキン、ゴダードなど、ミステリ・ファンにはおなじみの名前がならぶ。はたして真犯人は? 《ミステリ・マガジン》1月号に掲載予定。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし。ツイッターアカウント@FukigenM


 白石朗

猛暑の夏はミシシッピアカミミガメの生き餌探しと、床積み本や物置本の整理に明け暮れ。やがて亀は例年どおり脱皮、書棚の隅から忘れていた本が続々出現、うち一冊はダブり買いをまぬかれたものの、ダブり本も多々発覚。山田風太郎の本をほぼ1カ所にまとめ、再読の楽しみと追加買いにひたりました(横尾忠則カバーの講談社ノベルススペシャル版忍法帖を今ごろ揃えたり)。その合間には記録的暑さならぬ記録的厚さの本の仕事も。

しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊は『デクスター 夜の観察者』。ツイッターアカウント@R_SRIS


 越前敏弥

先日の新聞記事に載っていたアンケート結果によると、「電子書籍を利用したことはないし、利用したいとも思わない」人が70%近いという。まだまだ世の中そんなものかと思う一方で、電子化で翻訳者がどんな立場に置かれるのかという不安は徐々に募る。翻訳者にとって出版社は、よい本、おもしろい本をいっしょに作っていくパートナーだと思うし、今後もそうあってもらいたい。もう少しいろいろ勉強しなきゃと思い、近々電子書籍関係の講演会で話を聞いてきます。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』『検死審問ふたたび』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen


 加賀山卓朗

獅子文六『大番』小学館文庫)。こんなに面白い小説があったなんて!「バカにすなや。金儲けは、大証券がするか知らんが、相場は人間がやるもんや」。宇和島に昔から〈大番〉という(ゆずあんのブッセみたいな)菓子があるんだけど、この小説にちなんでたのね。知りませんでした。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)


 上條ひろみ

キャロル・オコンネル『愛おしい骨』(務台夏子訳/創元推理文庫)を読みおえました。

二十年ぶりに帰郷した兄、骨となって少しずつ戻ってくる弟。思いもよらぬ展開に、最後まで楽しませてもらいました。兄弟そろってイケメンというのはポイント高し。よそ者を黙って受け入れる町ってなんかいいな。

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)


親が死ぬまでにしたい55のこと (Earth star books)

親が死ぬまでにしたい55のこと (Earth star books)

愛おしい骨 (創元推理文庫)

愛おしい骨 (創元推理文庫)

集英社文庫10月の新刊

 
クッキング・ママのダイエット/Fatally Flaky
ダイアン・デヴィッドソン(Diane Davidson)著/加藤洋子訳
集英社文庫/定価:860円(税込)/発売日:2010年10月20日
ISBN:9784087606133
 

クッキング・ママのダイエット (クッキング・ママ) (集英社文庫)

クッキング・ママのダイエット (クッキング・ママ) (集英社文庫)

 
わがままな花嫁のウェディング・パーティ。
〓せたい願望につけいるダイエット・スパ。
ケータリング探偵ゴルディは恩人の仇を取れるのか!?
 
 ケータリング業を営むゴルディにとって、天敵とも言える存在“ビック2”といえば、①超わがままな花嫁(ウェディング・パーティのメニューや招待客人数をころころ変える)②ダイエット志願の女性(美味しいものとカロリー数減は必ずしも共存できない)――。よりにもよってこの二つが登場する『クッキング・ママのダイエット』。ゴルディの“頭を抱える度”はシリーズ中、最大かもしれません。
 
 これだけでも物語のカオスぶりが想像できるのに、さら今回は町の元名医フィンが殺され、さらにはゴルディの名付け親ジャックも襲われ……。フィンが生前、様子を探っていたという「ゴールド・ガウチ・スパ」。ダイエット願望を抱いた女性らが群がるこのスパには、どうにも胡散臭い雰囲気が漂います。意を決したゴルディは、スパの料理人に休暇をとってもらい、自分が臨時シェフとして乗り込んでいくのですが……。
 
『クッキング・ママ』シリーズの日本版第1作の刊行は1994年。本作で15作目となる長寿シリーズを支えるのは、ヒロイン・ゴルディの人間観察眼と料理の腕(と、もちろん読者のみなさま)。周囲の人の行動や噂話をあれこれ考察、推理しながら、パパパッとクッキーやらサラダやらを仕上げていく姿には、読者も心地よい達成感を得られるから不思議です。事件の推理を編み上げていくのと、料理を作り上げていくのは、意外と似ている作業なのかもしれません。
 
 ちなみに3年前にシリーズ全巻のカバーを改装以来、カバーを飾るのは本編中に出てくるレシピを、実際にフードスタイリストの星谷菜々さんに料理してもらったもの。撮影後に試食をするのですが、これが意外と(!)イケるんです。作者のダイアン・デヴィッドソン自身、料理好きときいて納得。一冊でミステリーの謎解きと料理のレシピが楽しめる、人気の長寿シリーズ最新刊を、ぜひお試しあれ!
 
クッキング・ママのクリスマス (クッキング・ママ) (集英社文庫)

クッキング・ママのクリスマス (クッキング・ママ) (集英社文庫)

クッキング・ママの遺言書 (クッキング・ママ) (集英社文庫)

クッキング・ママの遺言書 (クッキング・ママ) (集英社文庫)

クッキング・ママの鎮魂歌 (集英社文庫)

クッキング・ママの鎮魂歌 (集英社文庫)