【毎月更新】中国ミステリの煮込み

第36回 探偵が許される中国世界『超能力偵探事務所』(執筆者・阿井幸作)

6月30日に「中国網絡視聴服務協会(中国ネットワーク視聴サービス協会)」が発表した『網絡視聴節目内容審核通則(インターネット視聴番組の内容審査通則)』により、ネット番組の内容に今まで以上に厳格で多岐に渡る禁止事項が敷かれ、中国のネットは騒然と…

第35回 社会派中国ミステリ『長夜難明』(執筆者・阿井幸作)

ネットでネタを探していたら『流言偵探:活着的死者』(デマ探偵:生きている死者)なる中国産ノベルゲームのニュースを見つけました。 (参考サイト: http://xin.18183.com/201706/867675.html ) これは、8人の若者が大学時代に亡くなった友人を偲ぶため…

第34回 中国ミステリ界で活躍する人々(後篇)(執筆者・阿井幸作)

●第34回 中国ミステリ界で活躍する人々(前篇)はこちら ■中国ミステリ・ラインナップ それでは、中国大陸にはどのような作品があるのでしょうか。これまで、私自身もこのコラムで中国ミステリを幾度も取り上げて来ましたが、今回は張舟氏に2000年以降に出版さ…

第34回 中国ミステリ界で活躍する人々(前篇)(執筆者・阿井幸作)

「あなたの常識は世間の非常識」という言葉がありますが、海外で長く生活していると他国の文化や環境に慣れてしまい、帰国しても母国に馴染めず世間ズレを起こしてしまうことがよくあるらしいです。 しかし、北京在住者として私は最近、自分たち北京在住者が…

第33回 中国版『容疑者Xの献身』映画について(執筆者・阿井幸作)

注意! 今回の記事では 東野圭吾『容疑者Xの献身』の原作小説、・日本版映画、及び中国版映画の内容に言及しています。(筆者) 3月31日に中国全土で中国版『容疑者Xの献身』(中国語タイトル『嫌疑人X的献身』)の映画が公開されました。本作はもともと2016…

第32回:2016年版、読むべき中国短編ミステリ(執筆者・阿井幸作)

2月25日に台湾で台湾人ミステリ小説家・胡傑さんを囲む読書会が開かれました。当日は第3回島田荘司推理小説賞受賞作『ぼくは漫画大王』(著:胡傑/訳:稲村文吾)の話題を中心に、日本・台湾・香港の参加者が胡傑さんに質問をぶつけ、本書の裏話や創作秘話…

第31回:中国人ミステリ読者とのインタビュー(執筆者・阿井幸作)

中国では毎年の春節(旧暦の年末年始)に爆竹・花火を打ち鳴らして新年の訪れを慶ぶ風習がありますが、近年は環境保護の観点から煙による大気汚染を防ぐために自粛する傾向に進んでいます。今年の北京は例年以上に締め付けが厳しく、ニュースによると、毎年…

第30回:呼延雲のトークショーで感じた中国ミステリに求められること(執筆者・阿井幸作)

世界は2017年を迎えましたが、旧暦を重視する中国では最近ようやく正月らしくなってきて、各所に設置されたままのクリスマスの飾りもようやく仕舞われ始めました。今年の春節は1月27日から2月2日までです。この期間中、日本は中国人観光客で賑わうことでしょ…

第29回:『華文推理系列』第三集で気付かされた中国ミステリーの魅力(執筆者・阿井幸作)

現代華文推理系列 第三集作者: 藍シャウ,陳嘉振,江成発売日: 2016/11/14メディア: Kindle版この商品を含むブログ (10件) を見る 稲村文吾氏が「これだ!」という中国語の短編ミステリーを発掘し、氏自身が日本語に翻訳し、電子書籍として刊行する『現代華文…

第28回:十周年を迎えられた雑誌と迎えられなかった雑誌(執筆者・阿井幸作)

11月に中国ミステリ読者にとって悲しいニュースが飛び込んできました。2007年から創刊されおよそ10年の歴史を持つミステリ専門誌の『最推理』が原稿料を支払えずに休刊するというのです。 武漢銀都文化伝媒股份有限公司(以下、銀都)の董事長・関杭軍は微博…

第27回:新星出版社の新作中国ミステリ紹介(執筆者・阿井幸作)

私が8月に中国の上海で開催された『上海ブックフェア』に行った主な理由は伊坂幸太郎のサイン会に来た中国人読者の反応を見るためでした。当日、サイン会会場には合計1,000人近い人々が訪れましたが統率の取れたスタッフの指揮により混乱が生じることなく無…

第26回:中国人の日本ミステリ小説翻訳者・張剣とのインタビュー(執筆者・阿井幸作)

8月18日から22日まで上海へ行き上海ブックフェア見学をしてきました。当初はブックフェアがメインで毎日見て回ってやろうと思っていたのですが、一緒に行動していた友人のおかげで思いかけず多くの中国人ミステリ小説家や読者と交流を深め、貴重な経験をする…

第25回:上海ブックフェアと中国の伊坂幸太郎人気(執筆者・阿井幸作)

今年も中国の本の祭典『上海書展(以下、上海ブックフェア)』の季節がやって来ました。 (上海ブックフェア公式サイト(中国語のみ): http://www.shbookfair.cn/shBookfair/ ) 8月17日から23日までの間、上海に中国全土の出版社が集まり、中国のみならず…

第24回:中国のネット小説サイトについて(執筆者・阿井幸作)

中国にいて驚かされることの一つに一般書店でもアマゾンなどのネットショッピングサイトでも本を定価より安く買うことができることがあげられます。 例えばこの本の定価は32元(約500円)ですがアマゾンでは現在約30%OFFの約23元で売られています。一般書店…

第23回:中国の児童書ミステリ(執筆者・阿井幸作)

中国の南京にはミステリ専門の書店がありました。2014年にオープンした『館・夜行』という書店は5000冊に及ぶミステリ関係の書籍を置いてあり、定期的に読者の交流会等イベントを行っていたようですが、2016年の5月に業績不振を理由に閉店してしまいました。…

第22回:現代に蘇る中国ミステリの祖 程小青と霍桑(執筆者・阿井幸作)

今回は帯文に『迷幻』(幻覚的)と『懸疑』(サスペンス)と『推理』(ミステリ)と『民国』(中華民国時代を舞台にしたストーリーのこと)の文字が並び、読書好きもドラマ好きも惹きつける要素が詰まったSFミステリ『愛因斯坦与上海神秘人(アインシュタイ…

第21回:サークルの枠組みを超えた学生団体を描く中国ミステリ『烏鴉社』(執筆者・阿井幸作)

今回は新生活が始まる4月にちなんで、変わった大学に入学したために普通の大学生が自分の人生を一変させる事件に巻き込まれてしまう学園青春ものの中国ミステリ小説『烏鴉社』(2015年)を紹介します。ただし決して明るい内容ではありません。 大学に入学し…

第20回:京劇を題材にした中国ミステリ『烏盆記』(執筆者・阿井幸作)

先月末に勤めていた会社が当日解散したおかげで北京で無職生活を送っています。今回はそんな状況下で読んだ本の紹介をします。 2015年6月に出版された本書は『烏盆記』という京劇の題目を踏襲したかのような事件が発生して、作者と同名の名探偵・呼延雲ら個…

第19回:中国ミステリ紹介 軒弦『四怪館的悲歌』と『斬首城之哀鳴』(執筆者・阿井幸作)

旧暦の新年も明けて中国ミステリにおいては新年一発目となる今回はこれまで優に100編以上の作品を書き上げたミステリ小説家の軒弦の小説の中から2015年12月に同時発売された『四怪館的悲歌』と『斬首城之哀鳴』を紹介します。 『四怪館的悲歌』 過去の縁がき…

第18回:中国ミステリ紹介『季警官的無厘頭推理事件簿2巻』(執筆者・阿井幸作)

2015年末から中国国内で上映され、2016年1月11日の時点で売上が6.5億元を突破したサスペンスコメディ映画『唐人街探案』は俳優の陳思誠が『北京愛情故事』(北京ラブストーリー)の次に制作した2作目となる監督作品ということもあり公開前から話題性抜群でし…

第17回:看板に偽りありのまとも?なミステリ(執筆者・阿井幸作)

■『這么推理不科学』(こんなミステリは非科学的だ)■ 【写真も筆者】 本格ミステリの非主流派、無厘頭探偵業界の非常識枠 『謎解きはディナーのあとで』よりも滅茶苦茶で、『SHERLOCK』よりもぶっ飛んでいる 名探偵コナン、ホームズ、金田一がこぞってオス…

第16回:中国ミステリ作品集『百年中国偵探小説精選』の紹介(執筆者・阿井幸作)

10月31日、日本推理作家協会主催の土曜サロンに講師として招かれ『中国在住者の語る現代中国ミステリ』と題した発表会を行いました。中国ミステリの愛好家に過ぎない私の拙い発表も司会の松川良宏氏と翻訳者の稲村文吾氏らのフォロー、そして参加者の皆様の…

第15回:中国ミステリは現実の事件を扱えるか(執筆者・阿井幸作)

毎回この場所を借りて中国ミステリの一部を取り上げてきましたが、今回は私が常々読みたいと思っている中国ミステリを紹介したいと思います。 中国ミステリと一口に言ってもこのジャンルは既に多岐に渡り、ある程度の読者のニーズにまで応えられるようになり…

第14回:中国ミステリと東野圭吾(執筆者・阿井幸作)

台湾の俳優で今年に初監督映画作品『左耳』を公開した蘇有朋(アレックス・スー)が9月1日のインタビューで東野圭吾作品をまもなく映画化すると発表しました。中国語圏における東野圭吾作品の映画化の話は今年になって2度目で、5月21日にはオフィス北野と提…

第13回:中国ミステリの女性探偵(執筆者・阿井幸作)

8月13日に中国で『宅女偵探桂香』(オタク探偵桂香)の映画が公開されました。これは2012年に台湾で出版された同名小説を映画化したもので、原作から多くの改編が加えられています。 http://www.amazon.cn/dp/B010N3J28E 原作では外国語学校で働く映画好きの…

第12回:日本を舞台にした中国ミステリ(執筆者・阿井幸作)

中国の本屋には海外のミステリ小説がよく平積みされていますが、欧米の小説に英語のタイトルも併記されているように、表紙に日本語タイトルまで書かれている日本の小説も見ることができます。例えば東野圭吾の『放課後』や東川篤哉の『放課後はミステリーと…

第11回:中国ミステリ・サスペンスの映像化ブーム(執筆者・阿井幸作)

中国の上海では6月13日から21日までの間に『第18回上海国際映画祭』が開かれ、最新の日本映画も数本上映されることになっていましたが、6月8日に中国の文化部が発表した有害アニメのブラックリストに名前が記載されていたのが原因かは断言できませんが、劇場…

第10回:中国ミステリ小説家・亮亮インタビュー(執筆者・阿井幸作)

前回、中国のミステリ小説家・亮亮の『季警官的無厘頭推理事件簿』のレビューを発表し、閲覧者の何人かはきっと現代中国のミステリ小説に興味を持ってくれたかと思います。今回は先日ウィーチャット(中国のLINE)を使って亮亮にインタビューをした内容を載…

第9回:中国ミステリ紹介『季警官的無厘頭推理事件簿』(執筆者・阿井幸作)

今回は第7回の『中国のミステリ・サスペンス短編小説集』でちょっとだけ触れた『季警官的無厘頭推理事件簿』(季警官のおかしな推理事件簿)(2014年12月)を取り上げてみたいと思います。 なお、中国語の書名や作品名の後ろに書いてある日本語訳は全て仮訳…

第8回:現代の中国ミステリ作家について(執筆者・阿井幸作)

これまでこの場を借りて中国ミステリの歴史や現状、ミステリ関係の雑誌や賞などを紹介していき中国が決してミステリ小説不毛の地ではないことをお伝えしましたが、作家を中心に触れたことがなかったので今回は現代中国でミステリ小説を書く作家の紹介をしま…