ロバート・クレイス『約束』(執筆者・高橋恭美子)
- 作者: ロバート・クレイス,高橋恭美子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2017/05/11
- メディア: 文庫
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“人生の艱難辛苦から逃れる道は2つある。音楽と猫だ”と言ったのはシュヴァイツァー博士。けだし名言ですね。わたしならここに本と映画と甘いものも加えますが、猫には異論なし。猫ミステリーの数が多いことからしても、なんとなく本好きには猫好きが多くて犬好きは少数派、といままで思いこんでいました。反省しています。まさかジャーマン・シェパードのマギーがこれほど人気者になろうとは。世間にはこんなに犬好きの人がたくさんいたんですね。びっくり。
『容疑者』を読んで涙腺崩壊したという感想も多く、うれしい驚きでした。こういうお話を読んで泣けるのはまちがいなく心優しき善良な人です。ちなみに訳者は泣いてません(“いい人に翻訳者なんか務まりませんよ”と言ったのは、アガリーこと故東江一紀師匠です。これも名言!)。
たくさんの温かい感想を聞いて思ったのは、この本を読んで泣いてくれるような人ばかりだったらこの世界ももっと暮らしやすく平和だろうな、ということでした。もっとも、多くの読者は、あんなに賢くて健気でいじらしい大きな犬を登場させるなんて反則だよずるいよあざといよと思いつつ、根がいい人なのでまんまと作者の術中にはまってしまったんでしょう。実際に犬と暮らしている人にはなにをか言わんやですね。
考えてみたら犬に感情移入して泣いたり喜んだりできるなんてすばらしいことです。そうした人間の“善い部分”を自然に引きだす作品を書き続けているロバート・クレイスも、やっぱりすばらしい作家で、好きだなーと改めて思うのでした。
そんなわけで、全国のもふもふファンのみなさま(そしてコール&パイク・シリーズの復活をひそかに祈願していた人たち。←わたしです)お待たせしました!
『容疑者』から2年半以上も間があいてしまってすみません。なぜこんなに遅れたかというと、スコット&マギーの続編と、本国で大人気のコール&パイク・シリーズの16作目を合体させたからなんですね。シリーズものの探偵コンビと、ノンシリーズで人気者になった警官&警察犬のコンビ、両方のファンの期待に応えるべく、サービス精神旺盛なクレイス氏は知恵を絞って奮闘したそうです。公表されていた刊行予定がたびたび延期されたのち、満を持してようやくの刊行となりました。
主な登場人物は、ロサンゼルス市警警察犬隊(K9)の巡査スコットとその相棒の警察犬マギーの〈警察チーム〉と、自称〝世界一優秀な探偵〟のエルヴィス・コールとその相棒の寡黙な元海兵隊員ジョー・パイク、パイクの友人で傭兵のジョン・ストーンからなる〈探偵チーム〉。
警察チームは逃亡犯の捜索のため、探偵はお決まりの失踪人さがしのため、たまたま同じ時刻に同じ家に居合わせ、偶然に出会いました。その家でとんでもないものが見つかったことから、ふたりは窮地に立たされ、話はどんどん厄介な方向へ。あの手この手で窮地を脱し、悪党を捕まえて、苦悩と絶望の淵にいるひとりの女性を救うために全員が協力して闘う……という勧善懲悪な、探偵小説の王道とも言えるストーリーです。もちろん前作同様、マギーも大活躍しますよ。
じつは『約束』の見本が届いて2冊のカバーを並べてみたとき、マギーの姿の変化に少しうるっときました。スコットの脚に張りつくようにして心細げな顔で見あげていたあのマギーが、心なしか少したくましくなって力強い足取りでスコットをリードして歩いている……デザイナーさん、芸が細かいです。
ちなみに『容疑者』の原題は『Suspect』、『約束』の原題は『The Promise』――そのまんまやん、もうちょっとひねれよという声もありましょうが、いいんです、この“シンプル・イズ・ザ・ベスト”を絵に描いたようなスタイルがクレイスの流儀。シリーズ一作めの『モンキーズ・レインコート』が書かれてから30年たっても、コールとパイクの愛すべきシンプルなライフスタイルは少しも変わらず、その信念は1ミリも揺るがない。このままふたりが粋なじいさんになるまで書き続けてほしいなーと、デビュー当時から見守ってきた訳者は願う次第です。
毎月おもしろそうなミステリーが次々に刊行されて、わー、あれもこれも読みたい、でも仕事しなくちゃ、うー、時間が足りない、とジレンマに悩む毎日。みなさんもきっとそうですよね。忙しいさなかに翻訳ミステリー大賞の分厚い最終候補作を全部じっくり読むのはたしかに少々大変でした。でも、その大変な時間が至福の時間だったこともたしかです。
この『約束』も、読者のそんな幸せなひとときの友になれますように。いやきっとなります。訳者と担当編集者が“約束”しますよ。
高橋恭美子(たかはし くみこ) |
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北の国の翻訳者。大型犬と暮らすのが夢だけど無理なので大型猫2匹(合計13キロ)と暮らす。冬と雪が大好き。でも梅と桜がいっぺんに花開く春も好き。この夏にはアイルランドの作家 Lucinda Riley によるプレアデス星団をモチーフにした〈セブン・シスターズ〉シリーズが開幕します。どうぞお楽しみに! |
■担当編集者よりひとこと■
はい、大型犬命の担当編集者です。
もしかするとこのシリーズの続きを一番待っていたのはわたしなのではないかと思うくらい、マギーちゃん大好きです。ロバート・クレイス氏は前世は犬だったのではないでしょうか。ミステリとして、バディものとして、私立探偵コール&パイク・シリーズとして、そして我らが名犬マギー&スコット・シリーズとして、何通りにも楽しめる素晴らしい作品、大満足間違いなしの一冊です。
ちなみに訳者の先生は『容疑者』のカバーに比べて『約束』のカバーのマギーちゃんがたくましくなったと評してくださいましたが、日々、わが家の愛犬の体重が増えすぎないように汲々としているわたしは、「マギーちゃんが太った!」とショックを受けたのでした。運動不足とおやつの食べ過ぎには注意!
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