第14回東東京読書会レポート(執筆者・青木悦子)

 皆様こんにちは。
 さる一月下旬、フェデリコ・アシャットの『ラスト・ウェイ・アウト』(村岡直子訳)を課題書にして開かれた読書会のレポートをお届けします。
 

ラスト・ウェイ・アウト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ラスト・ウェイ・アウト (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
 まずはざっとあらすじを。
“テッド・マッケイは自分の頭に向けて拳銃をかまえた。妻と娘が旅行中の今日、とうとう自殺を決行するのだ。引き金に指をかけたそのとき、玄関の扉が激しく叩かれた。リンチと名乗った突然の来訪者は、ある「組織」からテッドへ依頼を伝えに来たと語りはじめる。その内容はあまりにも常軌を逸したものだった……。(文庫裏表紙より)”
 
 ここまで読んだら普通は「組織」とテッドが結託または対立して、何らかの事件が起きるものと思いますよね? ところがこれは物語のほんの出だし、落語なら枕の一割を言ったかどうかというくらい。そもそもテッドはなぜ自殺しようとしていたのか?という謎、「組織」って何?という謎、それすら千里の道の第一歩と言ってもいいほど、物語も謎も、二転三転どころか、トータルで五十転くらいします(たぶん)。なので、上記のあらすじ紹介は、意外また意外な展開をネタバレせず、「読みたい」という気持ちにさせようとする編集者さんの苦労の結晶だといえましょう(たぶんその2)。
 というわけで、物語に翻弄されまくりたいタイプの方にはイチオシの作品です。なにせ600ページ近いボリュームの本書を読んできた参加者さんたちのほぼ全員、会の冒頭で異口同音に発した感想が「何が真実なのかわからないので皆さんの意見が聞きたい」といった趣旨の言葉でしたから。
 
 そんな作品ですので、各自の疑問と解釈をめぐってディスカッションは大盛り上がり。作品の性格上、ネタバレを避けるためには、何が謎なのかすらここでは明かせないのが残念ですが、あえてヒントを出すなら、表紙にチェスの絵が使われている、登場人物は全員、話が信用できない、ということでしょうか。
 伏字付きで申し訳ありませんが、皆さんの発言・感想を引用してみますと――
 
デイヴィッド・リンチの映画みたい」
「本当に△△の事件は起きたのか」
「○○は探偵役なのに、真実を求めていない」
「そもそも主人公からして何の仕事をしているのかわからなくて怪しい」
「もしかして作者は、読者が誰も納得しないように話を作ったのではないか」
「××と★★の青春時代の場面はちょっと萌える」
「作品自体がチェスのようで、ひとつの記述を事実と認定するかしないかで、その先の様相がいくつにも分かれる」
「読んでてモヤモヤ、読み終えてモヤモヤ、皆さんの感想をうかがってまたモヤモヤ」
「いや、これは読者に真実=ラスト・ウェイ・アウト(最終出口)を探してみろという作者の挑戦なのでは」
「作者があれこれ伏線を引いたのに、回収しないでほったらかしちゃっただけかも(←そ、それはあまりに(略))」
「いや、続編狙いかもしれませんよ(同上)」
 
 といったふうに、全体的にすっきりしない感満載のご意見が大多数(汗)だったのですが、作品としての好き嫌いをきいてみると、意外にも好き/好きではないがほぼ半数ずつで、次の作品もぜひ読みたいという方も。ちなみに作者アシャットは1975年生れのアルゼンチン人。本業は土木技師という異色の作家で、執筆4作めの本作が日本でのデビューとなっています。
 
 盛り上がった本会のあとは、最寄り駅の中華料理店で恒例の親睦二次会。ほぼ半数が東東京に初参加の方だったにもかかわらず、そこは本好き同士、ここでもにぎやかに話がはずみ、楽しいおしゃべりのうちに終了となりました。参加してくださった皆さん、あらためてありがとうございました!
 次回の東東京読書会は五月六日で、課題書もすでに選定作業中です。詳細が決まりましたら、このサイトやツイッターで告知しますので、楽しみにお待ちください。
 それではまた。
 
青木 悦子(あおき えつこ)

東京出身&在住。本とクラシックとブライスを偏愛し、別腹でマンガ中毒。翻訳ミステリー東東京読書会の世話人。主な訳書:ポール・アダム『ヴァイオリン職人の探求と推理』、マイクル・コリータ『深い森の灯台『冷たい川が呼ぶ』『夜を希(ねが)う』、J・D・ロブ〈イヴ&ローク・シリーズ〉などなど。ツイッターアカウントは@hoodusagi

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