担当編集者自身によるシリーズ紹介――エミリー・ブライトウェル〈家政婦は名探偵〉シリーズ(東京創元社・M)

 
翻訳ミステリ好きの皆さまこんにちは、東京創元社編集部のMです。


今回は「こんな面白いシリーズがあるんだよ、最新刊もうすぐ出るよ」と声高におすすめしたく、翻訳ミステリー大賞シンジケートの軒先を借りにきました。ひらたく言うと自社本の宣伝です。


――ということで、本日紹介しますのはエミリー・ブライトウェル〈家政婦は名探偵〉シリーズです。


市原悦子松嶋菜々子かというようなシリーズ名ですが、舞台は1880年代後半、ヴィクトリア朝末期のイギリスです。ロンドン警視庁に勤めるウィザースプーン警部補は、難事件を立てつづけに解決して一躍名をあげました。……が、じつはこの人、とびきりの善人ではあるものの、警察官としての能力はほぼ皆無なのでした。


では、いったい誰が事件の解決を? そう、真の名探偵は、警部補の暮らすお屋敷の家事いっさいを取り仕切る家政婦のジェフリーズ夫人。彼女が会話や挙動のはしばしに、ぼんやり者の警部補でもわかるようヒントを混ぜこみ、真相へと誘導するのです。ほら、名探偵コナンでコナンくんがそれとなくすっとぼけながら毛利小五郎を誘導する、あのやり口ですね。かなり見え見えすぎるときもあって、警部補以外にはバレバレな気もするのですがそこはそれ。警察関係者にさえ悟られなければ問題はないようです。たぶん。


ジェフリーズ夫人が(しばしば強引に)警部補を助けるのも、その善良な人柄ゆえ。それは、夫人と同じくお屋敷で働く使用人たちも想いは同じでした。シリーズ第1作『家政婦は名探偵』で、それまで警部補を単身支えてきたジェフリーズ夫人は、四人の強力な仲間を得ます。メイド、料理人、従僕、馭者……彼らはいわば“使用人探偵団”として、陰から主人をサポートしていくことになるのです。


ではそろそろ、このあたりで主要登場人物の紹介をば。


●ジェラルド・ウィザースプーン警部補
屋敷の主人。ロンドン警視庁に勤める警察官。とびきりの善人で、使用人全員から慕われている。刑事としての才能はほぼ皆無といっていいお粗末さ(とはいえ、あからさまなヒントをいくつかもらえれば真相に気づく程度には頭は働く)。女性が苦手。


●ヘプシバ・ジェフリーズ
家政婦(Housekeeper)。屋敷の家事いっさいを取り仕切る人情家の女性。50代の未亡人(亡夫は警察官)。警部補から聞きだした捜査情報と、仲間たちの集めてきた手がかりをもとに先回りして事件を解決する、真の名探偵。警部補を結婚させたいと願っているが、当人の気弱さのせいでまったく実現のめどは立っていない。


●ベッツィ
ハウスメイド。勝気で活発な性格。路頭で病に倒れていたところを警部補に救われ、屋敷で働くようになる。商店の売り子やほかの家の使用人を仲良くなって情報を聞き出すのが得意。ウィギンズとは喧嘩仲間。スミスとも言い争いが絶えない関係なのだが……!?


●グッジ夫人
料理人。関節炎の持病があるため、屋敷の台所の外へは一歩も出ないが、出入りの配達人や商人などを通じてロンドンじゅうのあらゆる噂を仕入れ、それを逐一記憶している、恐るべき事情通。もちろん料理の腕も抜群。


●ウィギンズ
従僕。19歳。もとはスミスとともにウィザースプーン警部補の亡くなった伯母に仕えていた。ややぼんやりしているうえに、やたらと惚れっぽく、しょっちゅう意中の人が変わる。探偵団のうっかり八兵衛担当。だがときには思わぬかたちで事件の突破口を開くことも。


●スミス
馭者。頭の回転が速く頼りになるが、少々自信過剰なのが玉にきず。警部補の伯母に仕えていたときからの相棒である二頭の馬、ボウとアローをかわいがっている。酒場や夜の町での情報収集はもっぱら彼の担当。事件のクライマックスでは馬車を駆って警部補を迅速に目的地に送り届ける。


以下はセミレギュラーともいうべき人たちなので、余裕があったら覚えておいてください。


◆バーンズ巡査
ウィザースプーン警部補の部下。警部補を補佐し、実務をそつなくこなす有能な警察官。ウィザースプーン警部補のことを基本的には尊敬している。


◆ナイジェル・ニーヴンズ警部補
ウィザースプーン警部補の同僚。警部補を一方的にライバル視して皮肉な発言や捜査への介入をくり返すが、当の本人は気にしていない(というか気づいていない)。実際に事件を解決しているのがジェフリーズ夫人であることをうすうす察していて、なんとか確証をつかもうとしている。


◆ルティ・ベル・クルックシャンク
アメリカ人の未亡人。口は悪いが人はいい。『家政婦は名探偵』で事件関係者として登場。イギリス人の夫がアメリカで財を成したあと、一緒に渡英し、夫の死後もそのままロンドンで暮らしている。第2作『消えたメイドと空家の死体』では依頼人となり、そのまま探偵団の仲間に加わる。アメリカ時代に何度も修羅場をくぐっているからか、少々のことには動じない。


◆ハチェット
クルックシャンク家の執事。第2作『消えたメイドと空家の死体』より登場。無鉄砲なクルックシャンク夫人をいさめ、ときにはそつなく立ち回る使用人の鑑。夫人同様、アメリカで相当な修羅場をくぐっている模様で、やはりたいていのことには動じない。


それでは、シリーズを順番に見ていきましょう。本国では2016年現在も続いていて、今度第35作が出るという長寿シリーズなのですが、翻訳されているのは現在第3作までです。


家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

家政婦は名探偵 (創元推理文庫)

『家政婦は名探偵』The Inspecter and Mrs. Jeffries(1993)
記念すべきシリーズ第1作。それまで単身警部補の手助けをしていたジェフリーズ夫人が、じつは志を同じくしていた使用人たちと手を組んで事件に当たる、使用人探偵団結成の巻。
扱う事件は毒キノコの摂取が死因になったと思われる開業医殺しの謎。使用人五人の息のあったチームワークが見どころです。作中で「ケンジントン・ハイストリートの殺人事件」について何度か触れられますが、これはいわゆる「語られざる事件」で詳細は不明。第0作があるわけではありません。


消えたメイドと空家の死体 (創元推理文庫)

消えたメイドと空家の死体 (創元推理文庫)

『消えたメイドと空家の死体』Mrs. Jeffries Dusts for Clues(1993)
第2作。クルックシャンク夫人が使用人探偵団に持ちこんできたのは、若いメイドの友人が突然行方をくらましたので捜してほしいという依頼でした。いっぽう、警部補は空家で見つかった身元不明の若い女性殺害事件を捜査することになり……。
メイドの失踪と空家の殺人がどう結びつくのか、が興味の焦点となる作品で、翻訳のある中では事件の構成は最も複雑です。コリン・ホルト・ソーヤー『老人たちの生活と推理』シリーズやジル・チャーチル〈グレイス&フェイヴァー〉シリーズの装画も担当された、砂原弘治さんの描かれたカバーイラストは、青いワンピースがそのままロンドンの夜とつながっているというもので、とてもお気に入りです。


幽霊はお見通し (創元推理文庫)

幽霊はお見通し (創元推理文庫)

『幽霊はお見通し』The Ghost and Mrs. Jeffries(1993)
第3作。ヴィクトリア朝もののシリーズでは一度は題材になることでおなじみ(?)、交霊会を扱った作品。裕福な中年女性が自宅で殺された、一見平凡な事件は、その単純さゆえに手がかりが見つからない難事件となります。
オカルトがらみの一件とあっても、常に証拠を重視して真実を見きわめる、ジェフリーズ夫人の徹底したリアリストぶりが光ります。メイドのベッツィが男性に交霊会に誘われたのを快く思わない、馭者のスミスとのやり取りを読むと、ふたりの今後が気になります。


……そして11月には、翻訳最新刊となる第4作が刊行されます。


節約は災いのもと (創元推理文庫)

節約は災いのもと (創元推理文庫)

『節約は災いのもと』Mrs. Jeffries Takes Stock(1994)
第4作。ここまで記事を読んだあなたなら、いきなりこの巻から読みはじめても大丈夫ですテムズ川に浮かんだ射殺死体。被害者はアメリカにある鉱山開発会社の経営者だった。鉱山開発計画に詐欺の疑いが生まれ、大株主たちに説明をすることになっていた矢先の死は、誰によってもたらされたものなのか……?
今回、使用人探偵団は殺人事件の解決とは別に、もうひとつ難題に挑みます。それは投資に失敗した(といっても被害は少額)警部補が導入した、極端な“家計費節約計画”を撤回させること。ジェフリーズ夫人が考えだした手段は……ちょっと警部補には気の毒ですが、たしかに効果は抜群。こちらの顛末にもご注目ください。


いかがでしたでしょうか。気のいい登場人物たちが、ときには喧嘩しつつも、一丸となって事件に取り組むさまが、単純に読んでいて楽しいシリーズです。気になったというかたは、ぜひ手にとってみてください。

【特別読者プレゼント】


……ということで、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」読者から3名のかたに、シリーズ第1巻『家政婦は名探偵』をプレゼントいたします。ご希望のかたは、下記のフォームからアンケートにお答えいただきご応募ください(このサイトを離れ、外部URLに接続します)。


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※書籍の発送は東京創元社がおこない、11月中旬を予定しております。