島田荘司推理小説賞クラウドファンディング始動!(執筆者:文藝春秋・荒俣勝利)
2009年、本格ミステリーの未来を切り拓く才能を華文(中国語)世界に求めた、島田荘司推理小説賞(以下、島田賞)が始まりました。
賞を主催するのは台湾の皇冠文化出版有限公司で、応募の条件は中国語で書かれた未発表の長篇本格ミステリーであること。従って著者の国籍はいっさい問われることはなく、実際にこれまでの応募では台湾、香港、中国はもちろん、ヨーロッパや北米諸国などの世界各地から作品が寄せられています。
そして、第1回目は寵物先生(華文では「ペットくん」の意味)の『虚擬街頭漂流記』が受賞しました。ネット上の仮想都市(バーチャ・ストリート)での殺人事件を描いたこの作品は、島田さんが提唱する「21世紀本格」というコンセプトに、台北市に暮らす29歳の若者が応えることで生まれました。
その後、この新人賞は隔年で行われ、2011年の第2回では香港から応募した陳浩基さんの『世界を売った男』が金的を射止めました。受賞作は一夜にして6年間の記憶を失ってしまった刑事が、自分の記憶と捜査中だったはずの殺人事件の真相を追いかける、記憶喪失テーマの秀作です。奇想天外な発端と巧緻なプロットが高い評価を受けました。
陳さんは、昨年刊行した島田賞受賞第一作に当たる長篇『13・67』が大きな反響を呼び、2015年の台北国際ブックフェア賞(小説部門)、第1回香港文学季推薦賞を受賞し、世界各国からの翻訳オファーも相次いでいます。
そして、2013年に行われた第3回の選考会では、『ぼくは漫画大王』(胡傑)と『逆向誘拐』(文善)の2作が受賞となりました。
『ぼくは漫画大王』は第十二章から始まります。家出をしていた妻が自宅に戻ると夫が殺され、息子の健ちゃんは外から施錠された部屋に閉じ込められていた……。本編は偶数章と奇数章にわかれ、偶数章は少年時代のある事件のトラウマで鬱々とした人生を送っている方志宏という男の視点から、そして奇数章はライバルの"おデブちゃん"と漫画大王の座を争う小学生・健ちゃんの視点から描かれます。懐かしき日本の漫画が重要なモチーフとなる、たくらみに満ちたミステリーです。
『逆向誘拐』はハイテク企業を舞台にした新時代の誘拐ミステリーです。家電製品ソフトウェアの開発企業・クイーンテスに、「会社の財務関係の機密データを"人質"にしている、返してほしければ身代金を用意しろ」との脅迫メールを送られます。腕利きエンジニアの植嶝仁と石小儒の調査で、脅迫メールは身内から送信されたものと判明。身代金受け渡し期限の二日前に再び届いたメールには、オークションを利用した奇想天外な身代金の受け渡し方法が記されていて――。
上に記しましたように、第3回の受賞作は作品の傾向がまったく異なります。著者も胡傑さんは1970年生まれで台北市出身。現在は某大学の教授を務める男性で、文善さんは香港出身で現在はカナダで暮らすビジネスウーマンです。作品世界の魅力、トリックの技巧とも甲乙つけがたいということで、同時受賞なりました。
ここ数年来、アジア各国で日本のミステリーが数多く翻訳され、それを読んだ若い読者の間で自分たちもミステリーを書きたいという機運が生まれました。島田賞も今年9月に受賞作が発表される第4回目からは、台湾の大手食品メーカーを母体とする金車教育基金会が主催となり、さらにパワーアップする予定です。
第1回、第2回の島田賞受賞作の日本語版を刊行した文藝春秋といたしましても、アジアからの熱い思いを受け止め、華文ミステリーを盛り上げたいと考えておりますが、まだ日本のミステリーファンには馴染みが薄く、なかなか手に取っていただくことができません。
そこで、華文ミステリーのサポーターになってくださる読者を発掘すべく、島田賞受賞作刊行のためのクラウドファンディングを始めました。下記のアドレスのページをぜひ一度ご覧になってください。
◆文藝春秋・本の話Web「華文ミステリー」が新時代を切り開く! 島田荘司が語るその可能性
もし趣向にご賛同いただけるようでしたら、ぜひクラウドファンディングにご参加ください。また、ご友人やお知り合いでご興味を持ってくれそうな方がいましたら、この企画のことを教えてあげていただけますと幸いです。
何卒よろしくお願い申し上げます。
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