第5回熊本読書会レポート(執筆者・吉村栄師)

 皆様、明けましておめでとうございます。
 おかげさまで当読書会も、昨年12月で1周年を迎えました。
 告知から3週間経っても申し込みは僅か1名と、一時はどうなることかと思いましたが、最終的には、多くの皆様にお集まりいただきました。


 さて、課題書はウォルターズの『養鶏場の殺人/火口箱』
 思い出されるのは、昨年4月に参加した授賞式コンベンション。
 書評家の若林さんと酒井さんの主催で行われた、オコンネル VS ウォルターズの英国ミステリー女王対決の小部屋企画。しかし、残念ながら参加しておらず……話を聞いておくべきだったな〜と思っても後の祭り(お二人にお願いして、当時のレジュメを頂きました。この場をお借りして改めて御礼申し上げます)。


 今回の参加者でウォルターズ既読の方は、初参加のHさんのみということですが、ウォルターズの入門編にはうってつけの本作、読み進めていくことに致しましょう。


 まずは、最後の一文でえっ? と言わされる「養鶏場の殺人」から。
 この話は、1924年のイギリスで実際に起こった事件ということで、ネットで検索してみると、主人公の2人らしき人物が映った写真が見つかるのですが、私以外にも同じことを考えた方もいらしたようです。


「そんなに変な女の子には見えないんだけどね」
――確かに写真の印象では全然そんな風には見えません。


「男の立場から見ると、自分でも追い詰められただろうなと思う」
「当時のプロテスタントの女性は、信仰でそこまで追い詰められるのか」
「同性から見ても嫌だな〜と思った」
――私もというかこの感想はみなさんほぼ同意見でした。


「オランダで、よくこの作品を勧めたな〜と驚いた」
――確かに。


「両親の立場も理解できるが、双方の親の対比がよく描かれてる」
「エルシーは病んでる」「典型的なBPD(境界性人格障害)だと思う」
「ノーマンが駆け引きしたのがよくない。最悪の対応」
――いや〜心理学的アプローチは奥が深い。


『平気でうそをつく人たち 虚偽と邪悪の心理学』にはもっとヤバい人も」
――それはいいです。


「感情移入して読むと、改めて嫌だよなー」「二人ともまだ青い」
「本当に事故だとするなら、消化不良かなと思う」
――でも、ノンフィクションを上手く料理したなと思います。


「ベビー服が怖かった……」
「現在でもありがち。サイコ・ホラーっぽかった」
「主人公の名前から映画『サイコ』のノーマン・ベイツを想像した」
――殺してないのに死刑なら、別の意味でも怖いです。


「遺棄したことが裏目に、検察も主観が入った」
「原題は『CHICKENFEED』なのに、邦題が『養鶏場の殺人』と、“の殺人”が付け加えられてるのは何で? (ネタバレにつき反転)もし事故なら殺人には当たらないはず(反転ここまで)
――ウォルターズも意識してタイトルをつけたと思うので、なぜ敢えて付けたのか私も気になります。


 エルシーとの遠距離恋愛から、別の女性に目移りしたノーマン、疎ましく思うものの煮え切らない態度。
 その末路には悲劇が待っていた……という話。
 もし、隠滅しなければ、違った判決が出たのかもしれないと思ってしまうのは穿ち過ぎでしょうか。


 もう一方の「火口箱」は、解説にもある通り、バックグラウンドに閉鎖的なコミュニティを舞台に起こった殺人事件。その真相は――


「たった16年前なのに、未だにこんな偏見があるのかと思った」
「事件後に和解したように見えるが、一度偏見を持ってしまうと実際は難しそう」
アイルランド独立闘争を想像した」
――私もまず浮かんだのがIRAで、その後はSASに……おっと違う話になってきた。


「カットバックの手法になかなか慣れなかった」「構成が上手い」
「素直に読んでて、最後にショックを受けた」
マザーグース云々のくだりは、(反転)釘一本……のところ(反転ここまで)と思うんですが」
――杉江さんが「NEWS本の雑誌」で、マザーグース・ミステリ−でもあると言及された部分を指摘してくれた猛者も。私には正誤が分からないので、どなたか教えていただけますでしょうか?


アイルランドが舞台の映画『静かなる男』を思い出した」
アイリッシュの偏見とは別に、中流階級と労働者階級の格差もあるんじゃないか」
マナーハウスとか出てくるし」
――確かにサッカーの国際試合では、未だにフーリガンレイシズムの問題あるよな〜と思ったり。


「一度読んだだけでは犯人が分からなかった」
「ミスリードの手法が上手かった」
――まさにウォルターズの真骨頂でしょう。


「会社での立場に置き換えて考えてしまった」
――社内で迫害を受けてたらそれこそ一大事ですよ。


 Oさんからは、熊本と所縁の深いラフカディオ・ハーンつながりで、地元の某老舗和菓子屋さんが、実は熊本アイルランド協会の事務局になってると、トリビアが披露され一同からは感嘆の声も。


 どちらの作品もウォルターズを満喫できたのではないかと思います。
「火口箱」の方は、人物相関図を用意しておいたのですが、仕事の合間で作ったそれが無事日の目を見ることができました。
 最後に昨年のコンベンションの紹介をし、布教もしっかりと。


 懇親会の方は、逆にミステリーとは関係ない話で意気投合した参加者もいて多いに盛り上がりました。
 私は前日が会社の忘年会だったせいもあり、少々胃が重たかったですが……。


 1年間やってみて改めて感じるのは、国内外問わずミステリーの読者の割合が少なく、翻訳ものを浸透させる余地は残されていると感じています。
 素人(私)仕切りなので、初めての皆様も気兼ねせずに参加いただければと思いますし、手頃で面白い作品を皆様に紹介できればと考えていますので、今年もどうぞよろしくお願いします。


 熊本ミステリー読書会 吉村

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