14.7.19「君にも見えるガイブンの星」レビューバトル・レポートその1(執筆者:倉本さおり・杉江松恋)
すっかりおなじみになった「君にも見えるガイブンの星」イベント、7月開催の前回からは、奇数月が新刊紹介、偶数月が作家特集という形にモデルチェンジいたしました。
新刊紹介の回では、杉江松恋と倉本さおりがそれぞれ作品を分担し、テーマに沿って1冊ずつ本を紹介してお客さんに「どちらが読みたくなったか」の審判を問う、というバトル方式を取り入れています。ちなみに今回は5勝負やって3対2で倉本さおりの勝利。全作品中いちばん読みたくなった本は、という投票にお客さんはポール・オースター『闇の中の男』を選んでくださいました。
では、簡単ですが作品レビューをご覧ください。(杉江)
1)近現代史の事実を応用した素敵な物語
■トルコ版『百年の孤独』の底知れない可笑しさ(杉江)
ラテフィエ・テキン『乳しぼり娘とゴミの丘のおとぎ噺』(河出書房新社)
- 作者: ラティフェテキン,Latife Tekin,宮下遼
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/07/17
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (10件) を見る
■ネコとネズミの友情物語(チーズ風味)(倉本)
カーメン・アグラ・ディーディ/ランダル・ライト『チェシャチーズ亭のネコ』(東京創元社)
- 作者: カーメン・アグラ・ディーディ&ランダル・ライト,バリー・モーザー,山田順子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2014/07/20
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (6件) を見る
2)事件小説の最先端を行く
■これが現代版『災厄の町』+『アラバマ物語』(杉江)
エリザベス・ストラウト『バージェス家の出来事』(早川書房)
- 作者: エリザベスストラウト
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/08/19
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (3件) を見る
■便箋を重ねるごとに秘密が濃くなるミステリ(倉本)
エレーヌ・グレミヨン『火曜日の手紙』(早川書房)
- 作者: エレーヌグレミヨン,Hélène Grémillon,池畑奈央子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/06/20
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (9件) を見る
3)芥川賞作家と未来の芥川賞作家の翻訳対決
■見たこともない手段で「今」を肯定する(杉江)
チャールズ・ユウ『SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと』(早川書房)
SF的な宇宙で安全に暮らすっていうこと (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
- 作者: チャールズ・ユウ,朝倉めぐみ,円城塔
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/06/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (18件) を見る
■悪魔的にキュートで意地悪なジュブナイル(倉本)
カレン・ラッセル『狼少女たちの聖ルーシー寮』(河出書房新社)
- 作者: カレンラッセル,松田青子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/07/17
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (21件) を見る
※本作品『狼少女たちのルーシー寮』で9月15日に読書会を開催します。詳しくはこちら。
4)安心印・藤井光の二つの顔
■世界が暴力に充満しているということを描く(杉江)
セス・フリード『大いなる不満』(新潮社)
- 作者: セスフリード,Seth Fried,藤井光
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/05/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (20件) を見る
■絵筆のようなテクストに横溢する詩情(倉本)
ポール・ユーン 『かつては岸』(白水社)
- 作者: ポールユーン,藤井光
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2014/06/25
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (11件) を見る
5)翻訳界の良心・柴田元幸からのプレゼント
■YA読者の心胆を寒からしめる怪物小説(杉江)
ケリー・リンク『プリティ・モンスターズ』(早川書房)
- 作者: ケリー・リンク,ショーン・タン,北澤平祐,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/07/24
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (25件) を見る
■世界は下手な小説よりずっと破綻に満ちている(倉本)
ポール・オースター『闇の中の男』(新潮社)
- 作者: ポールオースター,Paul Auster,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/05/30
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (11件) を見る
そして、これは別格として……。
■ストレンジ・フィクションの極み(倉本)
レイ・ヴクサヴィッチ『月の部屋で会いましょう』(東京創元社)
- 作者: レイ・ヴクサヴィッチ,庄野ナホコ,岸本佐知子,市田泉
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2014/07/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (17件) を見る
【所感】
今回のテーマは松恋氏曰く「ものすごく絶望的な状況だけどなぜかとんでもなく笑えてしかもちょっと泣ける」。まさにそのとおりの、しかもよりすぐりの作品が集まりました。加えて同じ藤井訳でもセス・フリードとポール・ユーンでは作品の質感もテクストの語感も全く違う。改めて翻訳の力を見せつけられた気がします。
ライブ型のレビューバトルのポイントは、目の前にいるお客さんの反応を確かめながらプレゼンを軌道修正できる点。待ったなしのテクストで行うレビューの潔さもいいけれど、それぞれに好みの違う読者の方々のツボを直接探り当てる楽しさもたまらんです。(倉本)
次回「君にも見えるガイブンの星」レビューバトルは9月19日(金)に決定!(詳しくはhttp://boutreview.shop-pro.jp/?pid=79958986) ぜひご来場ください。
過去の「ガイブン酒場」の模様はこちらから!
青山南さんをゲストにお迎えしたジャック・ケルアック特集!※ポッドキャスト
現代文学のミッシング・リンク、ドン・デリーロを語りつくす!※ポッドキャスト
昨年来日を果たしたロシアの暴れん坊、ウラジーミル・ソローキン特集!※ポッドキャスト
杉江松恋認定2013年ベスト短篇集の作者ミュリエル・スパークを語り尽くす!※ポッドキャスト
『帝国のベッドルーム』の起源は実は映画にあり? ブレット・イーストン・エリス特集 ※ポッドキャスト
あなたは野崎孝訳派? それとも村上春樹訳派? J・D・サリンジャー特集※ポッドキャスト
杉江松恋が『世界が終わってしまったあとの世界で』への偏愛を語る。 ※ポッドキャスト NEW!