第五回翻訳ミステリー大賞投票者&七福神コメントのご紹介(前篇)


 今回から二回にわけて、第五回翻訳ミステリー大賞二次投票に翻訳者のみなさまが投票メールに添えたコメントの一部を紹介します(後篇はあす掲載予定)。なお、掲載にあたって編集した箇所がありますこと、ご了承ください。作品は得票数順、コメントは投票者名50音順です。
 また、当サイト人気連載「書評七福神今月の一冊」における各評者のコメントも添えました。



受賞作『11/22/63』スティーヴン・キング白石朗訳(文藝春秋

11/22/63 上

11/22/63 上

11/22/63 下

11/22/63 下

(13票)
青木純子:七作品どれもこれも読みごたえがあって迷いましたが……スティーヴン・キングの『11/22/63』に決まり! よどみなく流れる訳文に同業者として学ぶべき点が多々あり、感服いたしました。
上條ひろみ:歴史は変化を嫌う、というのがすごく印象的。時間や歴史のミステリアスな側面に、得体の知れない怖さを感じた。時間を忘れて読みふけってしまったのは、そのせいもあるかも。ルートビアがこれほどおいしそうに描かれている作品はほかにないだろう。
北田絵里子:何度か中断しながら数か月かけて読みきったのですが、再開のたびにすんなりと作品の世界に戻っていけました。「稀代の語り部」の称号は、ゴダードばかりでなくキングにもさしあげたい!
栗原百代:このディテール、構成の行き届いたお・も・て・な・し具合に、いちいちウケてしまい、読んでいて大変でした(笑)。あれから半世紀後、キングが提出した滋味あふれる模範解答。
島村浩子:読了後、「読んでよかった!」と一番強く感じた作品に投票しました
田口俊:世代的にアメリカのサブカルがど真ん中のストライクだったせいもあるんだけど、それを差っ引いてもやっぱこれですね。
三角和代:圧倒的な物語の力を感じたこの作品に敬意を込めて票を投じます。
横山啓明:候補作の中では最初に読みましたが、印象が薄れることなく、やはり深く心に残った作品でした。
吉澤康子:寝不足になるほど楽しめました!


 
霜月蒼:プロットやストーリーも見事だけれど、それを抱擁するカラフルな感情が美味すぎるのだ。とくに恋の昂揚と宿命の苦味がいい。みずみずしく若いのに、渋く熟成した深遠なる味がする。長大な物語とともに歩む幸福がここにはあるし、長大な物語とともに歩んだからこその感動が最後に待つ。個人的にはキング作品で五指に入る傑作。
吉野仁:タイムトラベル&歴史改変サスペンスのみならず全編にわたり小説を読む喜びがぎっしりとつまった極上の物語。



 候補作ゴーン・ガールギリアン・フリン/中谷友紀子訳(小学館文庫)

ゴーン・ガール 上 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 上 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 下 (小学館文庫)

ゴーン・ガール 下 (小学館文庫)

(10票)
越前敏弥:ふだん翻訳小説を読まない人にいちばん薦めやすい作品なので、これに投票します。
栗木さつき:上巻ではみごとにだまされました。新しい風を感じた作品に一票。
小林さゆり:どろどろしたものをここまで突き抜けて見せつけられるとかえって爽快です。結婚を考えているカップルにぜひお勧めしたい!
中川潤一郎:巨匠の大作で決まりかなと思っていたところ、最後に読んだ本書にハマってしまいました。熟慮の末、次作への期待も込めて。



 候補作『シスターズ・ブラザーズ』パトリック・デウィット/茂木健訳(東京創元社

シスターズ・ブラザーズ

シスターズ・ブラザーズ

(7票)
門野集:大いに楽しめました。傑作だと思います。
東野さやか:どれもそれぞれにおもしろく、甲乙つけがたいのですが、今後の活躍への期待をこめて、これに一票を投じます。


川出正樹:ゴールド・ラッシュに沸く西部を舞台に、殺しを生業とする兄弟――粗野で家計算高く冷血な兄と心優しく純朴ながら一度切れるととんでもないことになる弟――の道中記『シスターズ・ブラザーズ』を推すのは、乾いたユーモアとあっけらかんとした語り口に魅せられてしまったからだ。非道にして粗暴、けれどもなぜかニッコリとせずにはいられない。こんな話を待っていた。
杉江松恋:二つの理由からこの小説を選ばなければならないという気持ちになった。一つは暴力の描写が簡潔で、かつむき出しで荒々しいことである。(中略)第二の理由は、こうした粗野な要素があるにもかかわらず、限りなく美しい一場面がこの小説には描かれているということである。その「どれだけ長生きしようと、二度と味わえないであろう最高に幸福な一瞬」を私は忘れないだろう。絶対に。
霜月蒼:平易な語り口ながら、それは「生きてゆくということ」についての大いなる真実にしばしば触れる。おれはこの物語に登場したやつらのことをずっと忘れないだろう。そう確信できる小説などめったにない。読め。
吉野仁:殺し屋兄弟が西へと向かう旅路をつづったユーモラスな西部劇なれど、欲深き人間ゆえの愚かさに対する、憐れみ、切なさ、虚しさなど、さまざまな感情やが喚起される小説。これはもう無類の面白さだ。
 
 
 いかがでしたか。次回は以下の三作へのコメントを紹介いたします。
 

緑衣の女

緑衣の女

冬のフロスト 上 (創元推理文庫)

冬のフロスト 上 (創元推理文庫)

冬のフロスト 下  (創元推理文庫)

冬のフロスト 下 (創元推理文庫)

遮断地区 (創元推理文庫)

遮断地区 (創元推理文庫)

コリーニ事件

コリーニ事件

 
 
●第一回大賞受賞作
●第二回大賞受賞作
古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (上巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)

古書の来歴 (下巻) (RHブックス・プラス)

●第三回大賞受賞作
忘れられた花園 上

忘れられた花園 上

忘れられた花園 下

忘れられた花園 下

●第四回大賞受賞作
無罪 INNOCENT

無罪 INNOCENT

 

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