ここはドイツの八つ墓村ですか?――『白雪姫には死んでもらう』(執筆者・YOUCHAN)
特別本が多いわけではないが、それでも増え続ける本の収納には困っていた。本棚ではない収納エリアの隙間に、買った本はとりあえず置く、を繰り返していたら、その隙間すら無くなった。しかたがないので、一念発起して本棚をもう一本追加した。けれど結局、棚はすぐに埋まってしまい、また本棚ではない隙間を本で埋めることになった。
このままではイカン、ということで、導入したのが電子の力だ。気になる電書はいきなり買わず、まずはサンプルを読む。サンプルは本編導入部が配信されるので、続きが気になればそのまま買えばいいし、いまいち読書が乗らなければデータを削除すればいい。気軽な気持ちで、大量にダウンロードしていたサンプルに埋もれていたのが、ネレ・ノイハウスの『深い疵』だった。
実を言うと、ネレ・ノイハウスはノーマークだったのだ。予備知識といっても、評判がいいという程度で読み始めたのだが、ああ、これが運の尽き。やだこれ、面白い!! 地下鉄に乗っているときに読み始めたところ、不幸なことに地下でサンプルの終わりに到達してしまった。わたしの Kindle Paperwhite のネット接続は Wi-Fi のみである。東京の地下鉄はケータイの電波がビシビシ飛んでいるのに。なぜ 3G 版を買わなかったのかと軽く後悔しつつ、かといって他の本を読む気も起こらず、結局もう一度サンプルをアタマから読み始めることにした。そして Wi-Fi が繋がる環境に着いて即買いだ。ぽちっとな!
久しぶりにハマる作家に出会えたことに興奮し、次に翻訳する作品も決まっていることを訳者あとがきで知る。読みたい。すぐにでも読みたい。が、『深い疵』の電書化は、紙の本よりずいぶん遅かったのだ。次作は紙で読むべきか、電書化を待つべきか悩んでいた。そうしたところ、電子の神様は同時発売というご褒美を下さった。ブラボー!(実際は東京創元社が下さった)
そんなきっかけで読み始めたノイハウス邦訳第2弾が『白雪姫には死んでもらう』である。
- 作者: ネレ・ノイハウス,酒寄進一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/05/31
- メディア: 文庫
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……な、なんだろう。どこかで感じた閉塞感。因習じみて、よそ者への警戒心の強い村人たちの、この嫌〜〜〜な感じ。ここに、二重回しに形の崩れたお釜帽という出で立ちの、モジャモジャアタマの私立探偵がひょっこり現れても、何らおかしくないじゃないか!?
そう。このドイツ人作家の描く作品に、わたしは横溝正史を感じずにはいられなかったのだ。秘密を共有し、何かを隠し立てようとする村人。そして、イントロダクションで描かれた猟奇的な死体の描写……。嗚呼、まさにまさに!
おどろおどろしいのは村人の関係性だけ……ではない。『深い疵』でもそうだったが、レギュラー陣である刑事たちも、人間関係で色々抱えていて、とにかく大変なのだ。が、今作で、主役の一人、チームのボスであるオリヴァーが、ぐだぐだのダメ男状態になっているのにはビックリだった。
もう一人の主役、ピアもいろいろ抱えてはいるが、それでも仕事はきっちりこなしていた。ピアは実にできる女性である。しかしオリヴァーは妻・コージマの不貞が気になって、仕事も手につかない。ホント、ダメダメ。ダメ男が最近のミステリの流行なのか? と一瞬思ったほどである。
事件解決に向けて、余分であるばかりか、捜査の妨げにすらなっている節もあるプライベートの描写。ところが読後、強く記憶に残ったのが、オリヴァーとコージマとの対決シーンだった。オリヴァーは、コージマが働くことを応援する姿勢をとっていた。しかし、そこに見え隠れする「俺が許可した」とでも言いたげなオリヴァーのマッチョな思考。職場におけるオリヴァーの相棒は女性だ。彼はピアの仕事振りには一目置いている。にもかかわらず、家の外と内とでは女性に対する価値観がズレているのだ。この本を通じて、ドイツも日本と同じような女性抑圧問題があることを実感した。不貞を働いたコージマを悪く思えない理由は、多分そこにある。
肝心の謎解きそのものについては、あまり触れると楽しみが減ってしまうので迂回したが、最後にヒトコト言っておきたい。
電書でこの本を読むのは危険だ。
紙の本なら物理的な厚みがあり、今日はここまでと抑止力が働くが、電書はそれがない。「切りのいいところまで」と、ミステリにおいてありえない条件を自身に課して読んでしまう。結果、すごく早く読み終えたが、夜明けを2回迎えてしまい、ひどい睡眠不足に悩まされたことも付記しておく。
ミステリを出す出版社は、沢山売りたいなら電書で次々に出すといいと思う。だって、すごい勢いで読まれるもの。次も楽しみなこのシリーズ、オリヴァーはともかく、ピアには幸せになってほしいです。
YOUCHAN(ユーチャン) |
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アーティスト。最近手がけたカバーイラストに、ジョン・コリア『予期せぬ結末1 ミッドナイト・ブルー』(扶桑社)、グリン・カー『黒い壁の秘密』(東京創元社)がある。みなさま、この2冊、ぜひともお読みください。訳者・編集者渾身の1冊でございます。 【Twitterアカウント】@youchan_togoru |
白雪姫には死んでもらう 刑事オリヴァー&ピア・シリーズ (創元推理文庫)
- 作者: ネレ・ノイハウス
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2013/05/30
- メディア: Kindle版
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- 作者: ネレ・ノイハウス,酒寄進一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/06/22
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- 作者: ネレ・ノイハウス
- 出版社/メーカー: 東京創元社
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- 作者: 横溝正史
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- 作者: 横溝正史
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
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病院坂の首縊りの家 (上) (角川文庫―金田一耕助ファイル)
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病院坂の首縊りの家(下) 金田一耕助ファイル20 (角川文庫)
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- 作者: ジョン・コリア,井上雅彦,植草昌実
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