TVを消して本を読め!第四十三回(執筆者・堺三保/挿絵・水玉螢之丞)

 

第43回 ミステリとSFの境界線上を突き進む『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』

 
 ども、ムシムシする梅雨の日本からロサンゼルスへと脱出したものの、珍しく曇天が続いていて、いまいちな気分の堺です。いや、どうせこの原稿がアップされる頃には日本に帰ってんですけどね。
 テレビのほうも、地上波はどの番組もシーズンの最終回を放送して、秋までお休みですしねー。ま、夏場はケーブルテレビのドラマがおもしろかったりするんですけど。
 さて、今回はまさに先日放送された第2シーズン最終回で、第1シーズンでは隠されていたSFっぽい裏テーマが全開になってきた、J・J・エイブラムズ製作の犯罪抑止ミステリ『パーソン・オブ・インタレスト 犯罪予知ユニット』をご紹介します。
 
 お話は、ニューヨークの片隅でひっそりと暮らす元CIAの凄腕エージェントであるリースに、謎の億万長者フィンチが接触するところから始まります。
 フィンチは、9.11同時多発テロのあと、政府の要請で、アメリカ国内のあらゆる監視装置から収集した情報を分析して将来のテロ攻撃を予測するコンピュータシステム「マシン」を開発したのだとリースに語ります。ところが、この「マシン」は副次効果として、テロのみならずありとあらゆる犯罪の発生をも予測できることがわかったというのです。
 しかし政府はフィンチの発見にまったく興味を示さなかったため、彼は独自に犯罪を予防するため、リースを雇おうとしたのでした。
 かくして、犯罪を未然に防止する奇妙なコンビの活躍が始まるわけなのですが、このお話のミソは、どんな事件が起こるかはわからないこと。「マシン」が教えてくれるのは、近い将来起こるであろう犯罪に関係する人物の、社会保障番号だけなのです。
 つまり、フィンチとリースには誰が犯罪に巻き込まれるかはわかっても、それがどんな犯罪で、いつ起こるのか、さらには、その人物が被害者なのか加害者なのかもわからないというわけです。
 この「いかなる犯罪が起こるのか」を解き明かそうとするのが毎回の謎になっていて、話がマンネリ化するのを防いでいるところがこのドラマのミソなんですなー。
 

 と思って、第1シーズン見てたら、第2シーズンでお話はSF方向に急展開!
 なんとこの「マシン」、実は「自意識」を持ってしまったというのです。そして、その秘密を巡って、政府直属の秘密組織、国際的産業スパイ組織、さらには謎のサイコパス美女なんてものまでが入り乱れて、争奪戦を繰り広げることに!
 もちろん、我らが主人公2人もそれに巻き込まれてしまい、犯罪は阻止しないといけないわ、「マシン」は守ってやんないといけないわで、次々に窮地に陥ってしまうというものすごい展開になってしまったのです。
 
 この二転三転するスリリングな作品のプロデューサーは、あの『LOST』『FRINGE』でも視聴者をきりきり舞いさせ、今やスター・トレックスター・ウォーズという二大SF映画の製作者となったJ・J・エイブラムズ
 そして、原案を考え、シナリオも手がけているのが、ダークナイト三部作の監督クリストファー・ノーランの弟で、彼の作品の脚本にも協力しているジョナサン・ノーラン(そういや、「マシン」が街中の監視カメラや電話なんかから情報を得ているところは、『ダークナイト』に出てくる監視システムにちょっと似てます)。
 この二人が作ってんだから、そりゃSFっぽい謎また謎の展開にもなろうというもの。
 すでに、第3シーズンの製作も決定しているのですが、この先、いったいどこへいっちゃうのかなあ、この話。今、一番続きが気になってる作品の一つであります。
 あ、そうそう。日本でもCSのAXNで放送中ですぞ。
 
 さて、科学的な方法で事件を予知し、未然に防ごうとする話というと、近年の日本では東野圭吾プラチナデータやテレビアニメPSYCHO-PASS サイコパスなどの作品が登場していますが、その嚆矢はなんといってもフィリップ・K・ディックの短篇SFマイノリティ・リポートではないでしょうか。これらの作品に共通しているのは、「予測が外れると無実の人を犯してもいない罪で裁くことになる」危険性だったりするわけで、『パーソン・オブ・インタレスト』がおもしろいのは、対象が犯人か被害者か不明ということにしたことで、主人公たちが最初からその葛藤を免れているところでしょう。上手い設定ですな〜。
 
 また、犯罪捜査に人工知能が活躍する小説となると、たとえば『恋するA・I探偵』に始まるドナ・アンドリューズの「人工知能チューリング・ホッパー」シリーズがあったりします(2作目以降が未訳なのが残念)。
 ここに登場する人工知能チューリングは、身体こそ持っていないものの、豊かな感情を持つ女の子キャラとなっていて、感情どころか自意識があることすらわかりにくかった『パーソン・オブ・インタレスト』の「マシン」とは大違い。どちらがリアルかといえば、たぶん「マシン」のほうかと。
 でも、アイザック・アシモフ鋼鉄都市『はだかの太陽』などに登場するR・ダニール・オリヴォーのような優秀なロボット探偵に成長するのは、チューリングのような人工知能のような気がしますけど、どうなんでしょうね?(笑)
 

〔挿絵:水玉螢之丞  
 
●予告編その1

●予告編その2

●予告編その3

●AXNの日本語サイト
http://axn.co.jp/program/person_of_interest/index_s02.html
 

堺 三保(さかい みつやす)


1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメエウレカセブンAOのSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。
ブログ http://ameblo.jp/sakaisampo/
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