第二回西東京読書会レポート(執筆者・小林さゆり)

 
 次の課題書は、翻訳ミステリー大賞最終候補作から選んではどうか――。去年の暮れ、初開催にこぎつけた西東京読書会の打ち上げの席でそんな案が出ました。そこで、せっかくだから受賞しそうな作品を選ぼうよ、と幹事三名で相談したのですが……。
 前回取りあげた『湿地』を除く五作品のなかでどれがいいかあれやこれやしゃべっているうちに悟りました。大賞予想なんて土台無理。で、気づいたら『深い疵』に落ちついていました。理由は……よく覚えていません。


深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)


 そんなゆるゆるとした幹事団なので当然ながら準備も遅れ、本サイトに告知を載せていただいたのは開催二週間前。小さな古本屋さんを貸し切るため募集人数も少なめだったのですが、三月といえば世の中なにかと忙しい時期だからでしょうか、ぽつり、ぽつりとしか申し込みのメールが届きません。開催まで一週間を切ってもまだ定員の半数にも満たないありさま。
 そうなると、のんびり屋の幹事団もさすがに焦りました。開催場所近くのお店にチラシを置いてもらったり、ツイッターやSNSで呼び掛けたりと遅まきながら宣伝活動めいたことをしてみたところ、何人もの方がリツイートしてくださったり、お知らせしてくださったりしました。みなさんに助けられ、なんとか予定の人数とほぼ同数の方々から申し込みをちょうだいしました。ご協力に心より御礼申しあげます。


 そして迎えた読書会当日。東京では例年より十日早く桜の開花が発表されたうららかな午後、三鷹駅からほど近い玉川上水沿いにあるお茶の飲める古本屋、風街文庫さんに十二名が集まりました。



(風街文庫は不定休です。ブログで営業日時をご確認ください)


 前回もご参加のリピーターやほかの地域の読書会に遠征されている方、翻訳ミステリーの読書会に参加するのは初めてという方、さらには読書会自体が初めてという方もおられ、ちょっぴり緊張感がただよいつつも、なごやかに会が始まりました。


 まずは自己紹介を兼ねて課題書『深い疵』の感想を順にうかがいました。
 日本にまだなじみの薄いドイツミステリーということもあり、やはり多くのみなさんからあがったのが「名前が長い」「誰が誰だかわからなくなる」というご意見。う〜ん、これはわたしたち読者の側でなんとか慣れていくしかないですよね。


「ドイツの女性は強い」これはおもに、シリーズキャラクターの刑事ピア・キルヒホフと、八十代という高齢にもかかわらず何かと行動的な女実業家ヴェーラ・カルテンゼーに向けられたご意見。ふむふむ、たしかにそうですね。このふたりだけでなく、ヴェーラの娘で議員のユッタもしたたかですし、ピアの上司オリヴァーの元恋人ニコラも食えないタイプ。そういえば暴露本の出版を進めるカタリーナもやり手だし、ピアの旧友で捜査に協力するミリアムも元気だよね。というように、本書に登場する女性たちはことごとく、ころんでもただでは起きないタフな面々。
 そう、元気といえば「この作品ってなんか元気ですよね」という意見に、一同大ウケでした。たしか「登場人物があまりいじいじ悩まない」からだというご感想だったと思うのですが、なるほど。ふとした拍子にというか、やむをえずというか、妻を裏切ったオリヴァーもあっさり白状しましたしね。奥さんはお見通しだったようで、ここでもドイツ女強し、でした。


 自己紹介とひと言の感想が一巡したあとはフリートーク。いろいろな意見が出ました。その一部をご紹介しましょう。
八つ墓村A級戦犯が出てきちゃったような話ですよね」
「シュレッダーにかけられた紙くずを再現させようとするピア、不器用すぎ」
「マタニティドレスしかはいらないのに、ピア、ご褒美にマックって!」
「あの四人はしょっちゅう集まって、いったい何をしゃべっていたのかしらね」
「家庭円満の刑事って、めずらしくない?」(一同うなずく)
「××と○○なら△△はできないから大丈夫って、それでいいわけ!?」(ネタばれになるので伏せ字に) 
「主人公なのにオリヴァーは傍観者のようで、事件と距離感がありすぎる」→「いや、あの抑制された感じがいいの」
「オリヴァーとピアの人物造形がすばらしい」


 などなどとてもあげきれないほど。おいしいコーヒー(地元三鷹のコーヒー豆専門店はちや珈琲)を飲みながらディスカッションはおおいに盛りあがりました。
 それにしても驚いたのは、早い段階で犯人が誰かぴんときたというある参加者の解説。作者の意図にのせられてか、普通はさらりと読み飛ばしてしまうところもきっちり伏線を拾う鋭い読者がいるのですね。「なんでわかったの」と一同騒然となりました。たしかに言われてみれば怪しいんです、言われてみれば。でも、まったく気づかなかった〜。脱帽です。


 というわけで、まだまだ話し足りないなあという余韻を残しつつ読書会は無事終了。場所を移した二次会でもさらに盛りあがりました。
 次回は七月に開催の予定です。また三鷹でお会いしましょう。



(こちらも三鷹のお店、ばろーねのパウンドケーキ)


◇チラシを置いてくださったお店を紹介させてください。
◎古本カフェ フォスフォレッセンス http://page.freett.com/phosphorescence/
◎絵本と雑貨の店 プーの森 http://homepage3.nifty.com/poohnomori/
 


小林 さゆり(こばやし さゆり)


 1966年生まれ。東京都在住。主な訳書に、ルーシー・モンロー『おさえきれない想い』(二見書房刊)、パトリシア・ウッド『僕とばあばと宝くじ』、ジェーン・フェザー『美しき海賊と風にのって』(以上、武田ランダムハウスジャパン刊)、そのほかペンネームによるロマンス小説など。
 ツイッターアカウント @pino_pipi_candy
 

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