翻訳ミステリー長屋かわら版・第44号

   田口俊

 覚えておいででしょうか。前回翻訳ミステリー長屋かわら版・第43号 - 翻訳ミステリー大賞シンジケートの続きです。あいだがあきすぎて、書いてる本人もなんだか気抜けしちまったけど、今しばらくおつきあいのほどを。

 Here's looking at you, kid. (きみの瞳に乾杯)考、以下がお三方の答です。



 まずいつも私がお世話になってるイギリス人の大学教授は、やっぱり相手の美しさを讃え、今後もその相手の美しさを見られる機会のあらんことを、みたいなニュアンスを感じるというお答でした。

 ブロックさんは例によってそっけなく、『カサブランカ』で有名になったトースト(乾杯の音頭)だが、それが何か? みたいな答。実際、日本の辞書にも Here's to you. (あなたに乾杯)というごく一般的なものと同列に並べて載せているものもありました。

 で、最後がリューインさんなんですが、わりと詳しくご存知でした。このトーストは昔ビジネスの世界で、たとえば契約が成立したときなんかに使われていたトーストなんだそうです。だからロマンティックなところはいささかもない、と。

 実のところ、このリューインさんの答で、ワタシ的にはちょっと合点がいきました。つまり、ロマンティックなシーンでわざとビジネスライクなトーストを口にして、でも、そのあとに kid と親しい年少者への呼びかけ語をつけている、そんなふたつのミスマッチが、ちょっと面白い台詞として残った所以なんじゃないでしょうか。ハードボイルドおじさんの台詞としてもそのほうが面白いし。まあ、あくまで想像ですがね。

 

 さてさて、それよりなにより、いよいよ翻訳ミステリー大賞が決まる決戦の日が近づいてきました。

 まだ二次投票がおすみでない翻訳家の方々、ぜひとも清き一票をお願いします。

 また、来たる4月13日当日にはみんなで大いに盛り上がりましょう。

 おひとりでも多くの方々のお越しを待っています。

 全国ン千万(主催者発表)の翻訳ミステリーファンのみなさん、併せてよろしく!

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)


    横山啓明

美術展やギャラリーへ行くと

本を買ってしまいます。

想像力を刺激され、

脳が活性化するからでしょうか。



先日、金子國義氏の個展へ

行き、作品世界を堪能してきました。

会場には金子國義関連の本が

売られており、氏が装丁を手がけた

木村聡雄『いばら姫』

(LBR-Little Brier Rose)という句集に

魅せられました。

扉やなかに描かれた絵、本自体の作りも

かっこ良くてほしいなと思ったんですが、

それ以上に、句を読んだとたん、もう衝動

買い。木村聡雄さんという俳人

知らなかったのですが、ファンになりました。

また、新しい出会いです。

青木悦子さんにならって、ちょっと引用して

みます。

 


わが庭の時空とぎれるところ薔薇

 


未来について語れば百合よ我が不在

 


静寂のやや間延びして四分四十四秒
 



三つ目はジョン・ケージですね。

長くなるのでここまで。



さて、今年も授賞式&コンベンション

が近づいてきました。

これから海外ミステリーを読んでみようと

思っている方、お待ちしています!

怖くないですよ〜

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco


 鈴木恵

エルモア・レナードがみずからもっとも影響を受けた作品と公言し、ドン・ウィンズロウ犯罪小説ベスト5の筆頭にあげている、ジョージ・V・ヒギンズ『エディ・コイルの友人たち』。現在では入手困難なので、原書で読んでみた。犯罪者に銃を調達する小悪党のエディが、銃の卸元や、買い手の銀行強盗一味、エディに圧力をかけてくる連邦捜査官らと、一見「友人」同士のように会話をしつつ、その裏で懸命に生き残りをはかろうとする物語だ。どこか人をくった会話はまさにレナードに受け継がれているものの、行き着くところはまったくちがう。それどころか、ここにはハードボイルドの正義も、ノワールの悪も、読者のいけない願望を刺激するロマンもない。乾いたユーモアと、乾き切ったリアリズムがあるばかり。読みおわってしばし呆然。デニス・ルヘインが「過去50年における画期的犯罪小説」と書いているのもうなずける。入手困難にしておくのはもったいない。ちなみに同名の映画のほうは、いまをときめくベン・アフレックが犯罪映画のベスト1にあげており、今年ついにDVD化されている。
というわけで、翻訳ミステリー大賞の投票締切は4月11日、読者賞の投票締切は3月31日です。お忘れなく。

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:サリス『ドライヴ』 ウェイト『生、なお恐るべし』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM


    白石朗

 4月13日の第四回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション、さっそく多数のお申込みをありがとうございます。参加をお考えの方、お申込みはお早めに。
 記事にもありますが、今年のテーマは《思うぞんぶん翻訳ミステリーの話をしよう!》です。ふだん学校や職場であまり本の話ができない……とお嘆きの方、13日の本郷ではそんな心配はいりません。お隣にすわっている人も翻訳ミステリーの読者さん。初対面同士でもどんどん話しかけて大好きな本の話で盛り上がったりイチ押し作品をすすめあったりして本仲間を増やしてもらえれば、事務局としてなによりの幸せです。

しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、最近はワープロソフト〈松風〉で翻訳。最新訳書はグリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』、ヒル『ホーンズ―角―』、キング『アンダー・ザ・ドーム』など。ツイッターアカウント@R_SRIS


   越前敏弥

 全国の読書会メンバーが中心になって立ちあげた翻訳ミステリー読者賞の投票締め切りが近づいています。くどいようですが、これはプロアマを問わず、だれもが一読者として同じ資格で投票する賞なので、このサイトを見ている、いや見ていなくても、すべての人に投票資格があります。今週末までにぜひ投票をお願いします。
 ――なんて書きながら、実は自分もまだ投票していません。歴史にどっぷり浸る喜びを堪能したアレにするか、あまりにも生々しく身につまされるアレのどちらにするかで迷っていて……。翻訳ミステリー大賞と合わせて、結果は4月13日に。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )


 加賀山卓朗

 デニス・ルヘイン夜に生きるが発売になりました。1919年のボストンの暴動を取り上げた『運命の日』の続篇ですが、ほとんど単独作品。ギャング小説です。訳していろいろ思ったことはありますが、この人は近年、明らかに「悪人」を描くのがうまくなっている。短篇「アニマル・レスキュー」(ミステリマガジン2012年1月号収録)に出てくるチンピラにしろ、『夜に生きる』のKKKの連中にしろ、読んでいて本気で殺してやりたくなるほど憎たらしい(爆)
 先日の名古屋読書会で再読した『愛しき者はすべて去りゆく』に、チーズという悪党が出てきます。体重200キロの巨漢で、自分を黒人だと思っているスカンジナビア人ですが、いまのルヘインだったら、登場人物にこれほど風変わりな外観を与えなくても充分「悪」を感じさせられるのではないかな、と思ったり……そんな話もできるとうれしいです、第4回コンベンション(無理やり着地) 

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)


   上條ひろみ

 何を隠そう、宝塚歌劇のファンです。ロマンス小説を翻訳するとき参考になるしね(苦しい言い訳)! その宝塚歌劇でなんと今年、モーリス・ルブランルパン、最後の恋が舞台化されるということで、ちょっとコーフンしています。まだだいぶ先なんですけど(宝塚7月12日〜8月12日、東京8月30日〜10月6日、月組公演)、今から楽しみです。おそらく死ぬほどかっこいいルパンになると思います。しかしあの「びっくりどっきりメカ」はどんなふうに表現されるんだろ……
「ベルばら」が有名な宝塚ですが、海外小説が原作の作品も多く、あのカラマーゾフの兄弟だって舞台化されているんですよ。ファンはまじめなので、観劇まえにはみんなちゃんと原作本を買って予習します。ホントです。


 話は変わって、翻訳者のみなさま、第四回翻訳ミステリー大賞の二次投票締め切り(4月11日)が迫っています。一次投票を逃してしまった方も投票できますので、ぜひ「これだ!」と思う作品に清き一票を! どうぞよろしくお願いいたします。
 そして、4月13日は楽しい楽しい授賞式&コンベンション! 今年も盛りだくさんのイベントでみなさまをお待ちしています。わたしが担当するコージー部屋では、今年もおいしいものをご用意する予定。お茶とお菓子はもちろん、スパークリングワインなども登場するかも……お勧めスイーツなどの持ち込みも大大大歓迎です。コージーミステリファンの方も、そうでない方も、のんびりゆったり、コージーな世界に浸ってみませんか?

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)


The Friends of Eddie Coyle

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The Friends of Eddie Coyle (English Edition)

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エディ・コイルの友人たち (ハヤカワ文庫 NV 128)

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ジャッキー・コーガン (ハヤカワ文庫NV)

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運命の日(上)〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕

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愛しき者はすべて去りゆく (角川文庫)

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カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

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カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

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カラマーゾフの兄弟3 (光文社古典新訳文庫)

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カラマーゾフの兄弟 4 (光文社古典新訳文庫)

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カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟 5 エピローグ別巻 (5) (光文社古典新訳文庫)