海外ミステリー賞あ・ら・かると【再掲】

先日、中村文則氏の『掏摸』が「ロサンゼルス・タイムズ文学賞」ミステリー部門の候補作に選ばれたという報道がありましたが、このミステリー部門は「LAタイムズ最優秀ミステリー賞」などとも訳されており、過去にはマイクル・コナリー『エコー・パーク』、スチュアート・ネヴィル『ベルファストの12人の亡霊』、マイクル・コリータ『夜を希う』、トム・フランクリン『ねじれた文字、ねじれた路』などが受賞しています。2000年に新設された比較的新しい部門なので、ご存じない方も多いかもしれません。今日はこれを機に、以前当サイトに掲載した海外のミステリー賞についての特集を再掲載します。(編集部)


 こんにちは。
 本日はミステリー賞についての特集をお届けします。発端は当サイト読者のYさんから、海外のミステリー賞はたくさんありすぎるためなじみのない読者にはわかりづらい、「どの国のどの団体がどのようなミステリの賞を出しているのか」整理したら初心者にもわかりやすいのではないか、というご意見をいただいたことでした。Yさん、投稿ありがとうございます。
 主要な賞についてごくごく簡単にですが紹介いたします。
 同じアメリカ探偵作家クラブ賞でもMWA賞と言ったり、エドガー賞と言ったり、はたまたアメリカ推理作家クラブ賞と言ってみたり。正式名称と略称、通称の違いだったり、訳語の違いだったりするのですが、まぎらわしいですよね。ここで、それらの疑問が解決すればさいわいです。

アメリカ探偵作家クラブ賞 MWA

 まず、もっとも翻訳ミステリーで紹介されることが多い賞、それはアメリカ探偵作家クラブ賞」です。いわば、ミステリー界のアカデミー賞アメリカ探偵作家クラブ(Mystery Writers of America [略してMWA])というアメリカのミステリー作家が構成する団体が主催している賞で、年に1度、その前年にアメリカで発行されたすべてのミステリー作品の中から、長篇賞、ペイパーバック賞(ハードカバーではなくペイパーバック・オリジナルの作品に贈られます。日本でいうと文庫か、ノベルスのオリジナル作品?)、新人賞、短篇賞などの受賞作品が訳出される機会が多いでしょう。この他に、評論/評伝賞、犯罪実話賞、ヤング・アダルト賞、ジュヴナイル賞、戯曲賞、TVエピソード賞、TV特集/ミニシリーズ・ドラマ賞、映画賞、レイヴン(大鴉)賞(功績のあった書店や出版社に贈られます)、巨匠賞(作品ではなく、それまでの功績を讃えて作家に贈られます)といった各賞があります。また、ロバート・L・フィッシュ(デビュー短篇)賞、メアリ・ヒギンズ・クラーク賞(えーとこれは、M・H・クラークっぽい作品に贈られる、としか言いようのない賞です)などの賞も途中で追加されました。
 この賞は、通称「MWA」賞とも、受賞者にミステリーの始祖エドガー・アラン・ポー像が贈られることからエドガー賞とも言われます。創設は1946年。もっとも有名な受賞作品は、長篇賞を受賞したレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』(『ロング・グッドバイ』)でしょうか。最近では、今年の翻訳ミステリー大賞候補作に入っているジョン・ハートの『川は静かに流れ』が2008年の長篇賞を受賞しています。候補となる条件は「アメリカで出版されたこと」なので、2004年に桐野夏生『OUT』も長篇賞の候補になりました。このことは日本でも話題となりましたね。
長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))ロング・グッドバイ (Raymond Chandler Collection)川は静かに流れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)Out: A Thriller (Vintage International)緋色の記憶 (文春文庫)あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)ボトムズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)サイレント・ジョー (ハヤカワ文庫 HM)女刑事の死 (ハヤカワ文庫 HM (309-1))笑う警官 (角川文庫 赤 520-2)古い骨 (ハヤカワ・ミステリ文庫)壜の中の手記 (角川文庫)狙った獣 (創元推理文庫)我輩はカモである (ハヤカワ・ミステリ文庫)針の眼 (創元推理文庫)

◆英国推理作家協会賞 CWA

 次にご紹介するのは「英国推理作家協会賞」です。英国推理作家協会(Crime Writers Association[CWA])というイギリスのミステリー作家が構成する団体が主催している賞で、年に1度、その前年にイギリスで発行されたすべてのミステリー作品の中から、ゴールド・ダガー(長篇)賞(1955年から1959年までクロスド・レッド・ヘリング賞でしたが改名しました)、ジョン・クリーシイ(「ニューブラッド・ダガー」とも言われる。新人)賞、短篇賞のほかに、冒険/スリラー小説を対象としたイアン・フレミング・スティール・ダガー、歴史ミステリーを対象としたエリス・ピーターズ・ヒストリカルダガー賞、巨匠賞にあたるカルティエ・ダイアモンド・ダガーなどが発表されます。2003年までは、ゴールド・ダガーが長篇賞の1席で、次席をシルヴァー・ダガーとして賞を贈っていました。
 通称「CWA賞」もしくはダガー賞」。受賞者に短剣(ダガー)像が贈られることに由来します。1955年に創設され、有名な受賞作品は、えーと、難しいですね。いろいろあるんですがゴールド・ダガーを受賞したジョン・ル・カレ『寒い国から帰ってきたスパイ』やディック・フランシス『利腕』、シルヴァー・ダガーに輝いたロス・マクドナルドの『さむけ』、同じくシルヴァー・ダガースコット・トゥロー推定無罪』などでしょうか。この賞は近年スポンサーがころころ変わって、賞の名前も合わせて変わるのでちょっと落ち着かないんですが、伝統と格式ある賞なので、見守ってあげてください。
寒い国から帰ってきたスパイ (ハヤカワ文庫 NV 174)利腕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12‐18))さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)推定無罪 (上) (文春文庫)荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)神は銃弾 (文春文庫)黒と青〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)偽のデュー警部 (ハヤカワ・ミステリ文庫 91-1)マザーレス・ブルックリン (ミステリアス・プレス文庫)深夜プラス1 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 18‐1))わが目の悪魔 (角川文庫 赤 541-3)修道士の頭巾―修道士カドフェルシリーズ〈3〉 (光文社文庫)殺人者の顔 (創元推理文庫)ボストン、沈黙の街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)道化の死 世界探偵小説全集 41ゴーリキー・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)


 この二つを押さえておけば、だいたい大丈夫。あとは本当に駆け足で、ご説明しますね。

アメリカ私立探偵作家クラブ賞 PWA

アメリカ私立探偵作家クラブ賞」は、上記MWA賞とそっくりですが、MWAよりもジャンルを限定して、私立探偵ものを書くミステリー作家の団体アメリカ私立探偵作家クラブ(Private Eye Writers of America[PWA])が主催しています。通称「PWA賞」もしくは「シェイマス賞」。昨年話題になったマイクル・コナリーの『リンカーン弁護士』は同賞の長篇賞を受賞しています。
リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)スコッチに涙を託して (角川文庫)ピアノ・ソナタ (創元推理文庫)カリフォルニアの炎 (角川文庫)

◆アンソニー

 「アンソニー賞」は、ミステリー作家で評論家としても有名なアンソニー・バウチャーにちなんだ賞で、アメリカのミステリーのファン大会「バウチャーコン」が主催しています。ファン投票で決まる賞です。有名どころだとトマス・ハリスの『羊たちの沈黙』などが長篇賞を受賞しています。
羊たちの沈黙 (新潮文庫)検屍官 (講談社文庫)ミスティック・リバー (ハヤカワ・ミステリ文庫)わが心臓の痛み〈上〉 (扶桑社ミステリー)あの日、少女たちは赤ん坊を殺した (ハヤカワ・ミステリ文庫)エイリアニスト―精神科医 (上) (ハヤカワ文庫 NV (925))

◆アガサ賞

「アガサ賞」は、アガサ・クリスティーにちなんだ賞で、アメリカのコージー・ミステリーのファンクラブ「マリス・ドメスティック」が主催しています。当然、受賞作はおもにコージー・ミステリー。第1回の受賞作はキャロリン・G・ハートの『舞台裏の殺人』です。
舞台裏の殺人 (ミステリアス・プレス文庫)ゴミと罰 (創元推理文庫 (275‐1))密造人の娘 (ミステリアス・プレス文庫)庭に孔雀、裏には死体 (ハヤカワ・ミステリ文庫)口は災い (講談社文庫)[rakuten:book:10973487:image:small]

◆マカヴィティ賞

「マカヴィティ賞」は、アメリカの国際ミステリ愛好家クラブが主催する賞。クラブの会員の投票で受賞作を決定。国際ミステリ愛好家クラブは世界最大のミステリーファンクラブと言われています。第1回の受賞作はP・D・ジェイムズ『死の味』です。
死の味〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)死の味〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)女彫刻家 (創元推理文庫)処刑の方程式 (集英社文庫)酔いどれ故郷にかえる (ハヤカワ・ミステリ文庫)沈黙の森 (講談社文庫)

ネロ・ウルフ賞

ネロ・ウルフ賞」は、レックス・スタウトが創造した名探偵ネロ・ウルフのファンクラブ「ウルフ・パック」主催の賞。これもアメリカの賞で、有名なところですと、ジョン・ダニングの『死の蔵書』などが輝いています。
死の蔵書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)コフィン・ダンサー 上 (文春文庫)妄執 (ハヤカワ・ミステリ文庫)シャーロック・ホームズの愛弟子 1 女たちの闇― (集英社文庫)ザ・ポエット〈上〉 (扶桑社ミステリー)ハーヴァードの女探偵―プロフェッサーは女探偵 (KateFansler)

◆そのほか

 英米以外では、「パリ警視庁賞」が有名。フランスのミステリー新人賞で、パリ警視庁のスタッフが選考に加わり、警察の捜査活動が正確に描写されているかも重要視されます。
あとは、名前を見ればだいたいわかる「カナダ推理作家協会賞」(通称「CWC賞」もしくは「アーサー・エリス賞」)、「オーストラリア推理作家協会賞」(通称「CWAA賞」もしくは「ネッド・ケリー賞」)、「ドイツ推理作家協会賞」(通称「グラウザー賞」)、「北欧推理小説賞」(通称「グラス・キー賞」)などもございます。


 ほかにもまだまだあるのですが本日はこのあたりで。また疑問に思われたことがあったら、なんでも訊いてくださいね。


掏摸(スリ)

掏摸(スリ)

掏摸

掏摸

エコー・パーク(上) (講談社文庫)

エコー・パーク(上) (講談社文庫)

エコー・パーク(下) (講談社文庫)

エコー・パーク(下) (講談社文庫)

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

ベルファストの12人の亡霊 (RHブックス・プラス)

夜を希う (創元推理文庫)

夜を希う (創元推理文庫)

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ねじれた文字、ねじれた路

ねじれた文字、ねじれた路