翻訳ミステリー長屋かわら版・第41号

   田口俊

昨日告知したとおり、第四回翻訳ミステリー大賞の候補作を決めることができました。

 投票してくださった翻訳者のみなさん、改めてお礼申し上げます。

 言うまでもありませんが、どれも秀作ぞろいです。

 第一次投票は見送られた方々も第二次投票にはおひとりでも多くご参加いただければ幸いです。

 重ねてお願い申し上げます。

(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)


    横山啓明

今年はよく(と言ってもそれほどではないのですが)、

ギャラリー巡りをしました。都心に出る用事があるときに、

ついでにギャラリーをのぞくのです。

先日もアートディレクターの森本千絵さんの個展へ行き、

感銘を受けて帰ってきました。

作品の中には、震災後、毎日作っておられるという

新聞コラージュというのがあって、これがおもしろい。

新聞を絵の具で塗りつぶして、一部の言葉だけを

浮き上がらせたり、オブジェやメモ用紙に書き付け

た言葉を貼りつけたり。

日常の物たちのアッサンブラージュ

ラウシェンバーグのオブジェやキャバレー・ヴォルテール

音楽に通じるものを感じました。

キャバレー・ヴォルテールといえば『Voice of America』。

ダンサブルなビートに脈絡もなく具体音をぶちまける。

混沌としていながらもうねるようなグルーヴに貫かれた

音楽、その昔、聴いたときに、こういう小説はないかと

思ったものです。グルーヴは人を惹きつけるストーリー。

そこに日常の断面をコラージュしていくような作品。

ま、音楽とはちがいますけど。来年は、そのような作品に

めぐり合いたい、と思いながら個展会場をあとにしたのでした。



では、みなさま、よいお年を。

(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco


 鈴木恵

イヴァノヴィッチ『私が愛したリボルバーが映画化されるというので、ステファニー・プラム萌えのわたくし、楽しみにしてたんですが、残念ながら日本では劇場公開されず、《ラブ&マネー》という邦題でそのままDVD化されちゃいました。でも、原作にはかなり忠実につくられてるし、主演のキャサリン・ハイグルも読者の脳内ステファニー像を裏切らないと思うし、ステファニーが素っ裸のままモレリによってシャワーカーテンのロッドに手錠でつながれちゃうという名場面もばっちりだし。ファンなら見て損はないかも。なんてことを思いながら、確認したい個所があって原作をぱらぱらめくっていたら、こんな一文が。「歩くたびにビニールの袋がごつごつと脚にぶつかって、〔あたしに〕タヌキの金玉の歌を思い起こさせた」ああ、やっぱり原作のほうが数段萌える! それよりなにより原文が知りたい!

(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:サリス『ドライヴ』 ウェイト『生、なお恐るべし』など。 最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM


    白石朗

 きょう12月21日は世界滅亡の日だそうです。あわただしい年の瀬に迷惑な話ですが、お変わりありませんか? この世界滅亡説の「根拠」とされるマヤ暦がらみのダスティン・トマスン『滅亡の暗号』、滅亡ブームに便乗したキワモノ&トンデモ小説ではなく、新型プリオンの恐怖というパンデミック・パニック小説として幕をあけ、そのあともスピーディな展開で飽きさせず、終盤では創元文庫の帆船マーク群の作品を髣髴とさせる冒険にいたるという快調なエンターテインメントでした。世界滅亡を乗り切ったあとのお正月、お屠蘇気分でもするする読めます。
 
 さて、第四回翻訳ミステリー大賞の一次投票では多くのみなさまにご投票をいただき、事務局一同感謝しています。おかげさまで最終候補作を発表することができました。二次投票は、一次投票を見送られた方でも候補作を読了すれば投票できます。ひとりでも多くの方の投票をせつにお願いいたします。
 また、今年一次投票を見送られた翻訳者の方にお願いします。多忙な日々にも翻訳者としてのアンテナが働いて手にとった本や、急ぎの仕事そっちのけで読みふけった本がおありなら、そういった「読者を引きこむ力をもった作品」を、来年はぜひ投票でお知らせください。こちらもよろしくお願いいたします。

しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」で翻訳。最新訳書はグリシャム『自白』、ブラッティ『ディミター』、デミル『獅子の血戦』、ヒル『ホーンズ―角―』、キング『アンダー・ザ・ドーム』など。ツイッターアカウント@R_SRIS


   越前敏弥

宮脇孝雄さんの『英和翻訳基本辞典』を読みはじめました。これは全翻訳者・学習者・語学に興味のある人は必読の1冊です。いちおう辞書の体裁になっていますが、隅から隅までじっくりしゃぶるように読むべき本。詳細は読み終わってから翻訳百景のブログに書きます。みなさん、よいお年を。

(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり、スカートめくり[冗談、冗談]。ツイッターアカウント@t_echizen。公式ブログ「翻訳百景」 )


 加賀山卓朗

 今年読んだなかでいちばん「変な」小説は、セサル・アイラというアルゼンチンの作家の『わたしの物語』でした。なんせ冒頭で“「わたしがどのように修道女になったか」という物語です”と書きながら修道院なんてまったく出てこないし。でもあとがきを読むと、“修道女”monjaには、あちらの俗語で裏の意味があるのだとか。なるほど。プロットのひねりというより、思考プロセスとか読書体験そのものをひねられるような小説でした。
 変な人が次々と出てくるのは『傍迷惑な人々 サーバー短篇集』。この作家の存在すら知りませんでしたが(恥)、ジョン・レノンにも影響を与えた人だそうで。車の運転中に妄想爆発のミティ氏とか、マクベス論を滔々と述べるご婦人とかもう大好き。今年の笑い納めでした。

(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)


   上條ひろみ

 今年最後の長屋です。一年ってほんと早いですね。
 この時期はやることが多くてあたふたしてしまいますが、お菓子探偵シリーズのハンナは、アリバイの確認などのやることリストを作成するとき、すでにやったこともあえてリストアップして、線を引いて消します。そうすると、何かをなし遂げた気分になるから。これ、気休めですけど、大掃除する場所のリストを作成するときなどにわたしもやってます。
 現在クリスタ・デイヴィスの『感謝祭は邪魔だらけ』を読んでいるのですが、ヒロインのソフィは殺人事件の容疑者になりながらも(そのため当然素人探偵として活動しながらも)、家族大集合の感謝祭のごちそうをひとりでてきぱき作っていてすごいです。ああ、わたしもこれからおせち料理を作らないといかんのだなあ……待って、そのまえにクリスマスもあるじゃん! 一瞬気が遠くなりました。家事の達人ソフィから極意を学ばなければ。
 今年のコージー界の大きなニュースは、原書房さんの「コージーブックス」創刊でしょうか。ユニークなキャラにたくさん出会えて楽しかったなあ。
 それではみなさま、ちょっと早いですが、よいお年を!

(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)


解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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罪悪

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湿地 (Reykjavik Thriller)

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毒の目覚め 上 (創元推理文庫)

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毒の目覚め 下 (創元推理文庫)

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深い疵 (創元推理文庫)

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無罪 INNOCENT

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私が愛したリボルバー (扶桑社ミステリー)

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ラブ&マネー [DVD]

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滅亡の暗号〈上〉 (新潮文庫)

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滅亡の暗号〈下〉 (新潮文庫)

滅亡の暗号〈下〉 (新潮文庫)

英和翻訳基本辞典

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わたしの物語 (創造するラテンアメリカ)

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傍迷惑な人々―サーバー短篇集 (光文社古典新訳文庫)

傍迷惑な人々―サーバー短篇集 (光文社古典新訳文庫)

感謝祭は邪魔だらけ (創元推理文庫)

感謝祭は邪魔だらけ (創元推理文庫)