Film8『リンカーン弁護士』(執筆者・三橋曉)

  
ミステリ試写室 film 8 リンカーン弁護士



ずいぶんと待たされた気もするけど、でも調べてみると本国アメリカでの公開は去年の3月でした、マイクル・コナリー原作の〈リンカーン弁護士〉。まぁ、待つ身はツライということでしょうか。デニス・レヘインの「愛しき者はすべて去りゆく」をベン・アフレックが主演・監督で映画化した〈ゴーン・ベイビー・ゴーン〉(2007年・米)のように、DVDスルーで拝めれば御の字だろうと思っていただけに、無事ロードショー公開が決まって小躍りしているわたしです。
というわけで、まずは予告編をどうぞ。





マイクル・コナリー原作というと、過去にはクリント・イーストウッドが「わが心臓の痛み」を主演・監督した〈ブラッド・ワーク〉(2002年・米)があるが、これまで何度か企画の俎上に上りながら、なぜかハリー・ボッシュものの映画化は実現していない。
今回の主役も、移動事務所として高級車のリンカーンを乗り回すリンカーン弁護士ことミッキー・ハラーで、コナリーの読者は後に明らかになるハラーとボッシュの意外な接点を思い浮かべるかもしれない。とまれ、3年前に翻訳も出ている同題の原作はクオリティーの高さですでに定評のある作品だけに(2006年マカヴィティ賞&シェイマス賞のダブルクラウン!)、映画化するに何ら不足はない。
ロサンジェルスでやり手の刑事弁護士として活躍するハラー(マシュー・マコノヒー)は、知り合いの保釈保障人からいい仕事があると聞き、愛車のリンカーンを飛ばして拘置所に駆けつけた。依頼人のルイス・ルーレ(ライアン・フィリップ)は、ビバリーヒルズで不動産業を営む一家の御曹司だった。女性への暴行容疑で逮捕された彼を、なんとか保釈にまで漕ぎ着けたハラーは、息子に変わって場を仕切ろうとする母親(フランシス・フィッシャー)に辟易しながらも、割のいい仕事を手に入れたことに満足する。
殺人未遂という容疑の重さから、司法取り引きを奨めるハラーだったが、依頼人は無罪を主張し、決着は法廷に持ち越されることに。しかし、この男は信用できないと言う相棒の調査員フランク(ウィリアム・H・メイシー)の直感を裏付けるかのように、過去に手がけた事件のひとつに依頼人が深く関わっていた可能性が浮上してくる。
ミック・ハラー役は、かつてトミー・リー・ジョーンズが演じるという噂もあったが、グリシャム原作の〈評決のとき〉(1996年・米)やカッスラー原作の〈サハラ 死の砂漠を脱出せよ〉(2005年・米)の主演でもおなじみのマコノヒーは、ピープル誌が選ぶ「最もセクシーな独身男性」にも選ばれている売れっ子だ。ま、セクシー云々はさておき、善悪の顔を使い分けたり、フットワークが軽かったりと、リンカーン弁護士はこんな感じかもしれないと思わせる雰囲気を持った役者といっていいだろう。
ただ、ブラッド・ファーマン監督の演出はやや残念なところがあって、映像の繋ぎが粗いし、複雑な物語を追うのに汲々としている印象もある。そもそもプロットが複雑で、重要な脇役も多い原作は、映画化にあたって組しやすいとは言い難い。機転のきく脚本家だったら大鉈をふるうところをあえて踏みとどまり、リーガル・フィクションとしてのスリルと面白さを伝えることに心血を注いだ点を評価すべきかもしれない。そういう意味では、原作の持ち味を活かした、観て損のない一本になっている。
ところで、映画がそこそこヒットしたことから、マコノヒーが再び主演する続編映画の話も持ち上がっているようだ。ミック・ハラーが登場する小説としては第二作にあたる「真鍮の評決 リンカーン弁護士」(講談社文庫)では、ハリー・ボッシュも登場し、驚きの展開が待ち受けるだけに、はてさて、どういう映画になるのか。興味津々でその出来上がりを待つとしましょう。

※7月14日(土)より全国ロードショーの予定


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三橋 曉(mitsuhashi akira

書評等のほかに、「日本推理作家協会報」にミステリ映画の月評(日々是映画日和)を連載中。
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リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)

リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)