あしたはあしたの風が吹く(執筆者・高山真由美)

 

第1回 まずはご挨拶かたがた

 
 翻訳者エッセイ、内容は自由、というからにはやはり仕事のことを書くべきでしょうか。
 たまに異業種の宴席などに顔を出すと、当然「仕事は何を?」のような話になり、翻訳をしていると答えると「え、翻訳家? 珍しいよね」とか「どうやってなるものなの?」「どうしてなろうと思ったの?」などと訊かれたりします。
 
 そこで、翻訳というのは翻訳の収入だけで家の建ったかたのことで(そういう意味では確かに「珍しい」かも)、わたしは翻訳です、なんてどこかで聞いた台詞をいまさら繰り返すのもむなしいし、どうやってなるかは千差万別人それぞれだし、どうしてなろうと思ったかにいたっては青くさかったり暑苦しかったり見苦しかったりする主義主張や個人の事情も絡んでくるのでとてもひとことで答えられるものではない(あ、ここにも書きませんのでご安心を)。だから「んー、まあふつうの…地味な重労働なんですけどね」といって謎の微笑を浮かべるにとどめたりするわけです。
 
 日がな一日PCに向かっている身で重労働なんていうと、本物の肉体労働のかたからお叱りを受けそうですが。しかし集中力は体力に比例する(ような気がします)。それにここ一番というときに睡眠時間を削るくらいはするわけで、そういう体力は必要です。締切直前耐久レース中ともなれば、三十分だけ寝ようとして机のそばの床にそのままごろり…それをたまたま家族に見つかって「ほんとに倒れてるのかと思うからやめて(怒)」「だって布団で寝たら三十分で起きる自信ないんだもんっ(逆ギレ)」とかいう事態はままあること。
 
 ええと。のっけから話が逸れているような気がいたします。
 まえおき(?)はこのくらいにして、きょうは読書会の話をさせていただきます。
 
 今年に入ってから千葉でシンジケート後援の読書会の世話人をしています。
 ばたばたとしたスタート時の経緯については以前レポートにちらと書いたとおりですが、その後「どうして手弁当世話人を?」なんて訊かれたりもしています。
 
 それならひとことで答えられる!「楽しいから」。
 ちょっと動いてみたら予想外に事態が転がりはじめて、じつはいまもまだ試行錯誤と綱渡りの連続なんですが、そういうところも全部ひっくるめておもしろい。
 
 本を読む、というのはもともとすごく個人的な行為、プライベートな趣味だと思うのです。たとえばおなじ本を読んでも、読んで自分のなかに湧きおこったものを100%他者と共有することはできない。だけど似た感慨をいいあって盛りあがったり、あるいは「ここはこう思う」「いや自分はそうは思わない」なんて話しあったりすることがまったく無意味であるとも思えない。だって、読み終わった瞬間「これは誰かとしゃべりたい!」と思うことありませんか? あるいは「ほかの人がどう思うか聞いてみたい!」と思うことは?
 ひとりで読んでいたっていいものを、わざわざ集まってわいわいおしゃべりするというのは、いわばお祭りです。二時間の非日常です。ストレス解消です。そういう「場」を用意するときの気分は、じつは自分の頭のなかでは翻訳の仕事について考えるときのメンタリティと地続きだったりもします。
 
 それに、アクションに対するリアクションが見えるのが楽しい(これ、ふだんの自分の仕事ではあまりないことです)。
 あいまあいまの時間にちまちまと準備した会を、楽しかったといってもらえる。「いままで敬遠していた作家を読みたいと思えた」とか「読みたい本が増えた」なんていってもらえる。もちろんそれは自分の力じゃなくて「場」の力なんですが、準備した身にはやっぱりうれしい。
 読んだ本について話がしたいとか、読書会ってどんなもんなんだろう気になるなとか思っている人は潜在的にまだいるはず、会を入口に翻訳ものにどっぷりはまる人もきっといるはず(と、思いたい…)。
  
 そんな感じで、気が向いたときにぶらりとご参加いただけるよう、細く長くつづけていけたらと思っています。千葉ではいまの形式の会は年3回を目標に。番外もそのうち考えるかもしれません。
 各世話人、各地読書会にはまたそれぞれにいろんな考えや事情があるはず。いつかそういう話も聞けたらいいなと思います。
 この夏は各地で開催がつづきます――きのうの大阪『スタイルズ荘の怪事件』、7/8(日)千葉『リヴァトン館』、7/21(土)札幌『大穴』、7/27(金)大阪『名探偵のキッシュをひとつ』、7/28(土)名古屋『追撃の森』、8/3(金)福岡『死ぬまでお買物』、8/18(土)福島・特別編『獄門島
 まだお申込みのまにあう会もあるようです。ちょっとでもご興味があれば、いちど足を運んでみてはいかがでしょうか。
 
 ……え? 結局、読書会のPRがしたいだけだろう? 仕事の話はどうした? まあそれもいずれ…そのうち……。
 


高山真由美(たかやま まゆみ)。東京生まれ、千葉県在住。訳書に、ジェラルディン・ブルックス『マーチ家の父――もうひとつの若草物語』『灰色の季節をこえて』、アッティカ・ロック『黒き水のうねり』、ヨリス・ライエンダイク『こうして世界は誤解する』(共訳)など。ツイッターアカウント @mayu_tak
 
スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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大穴 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-2))

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名探偵のキッシュをひとつ (コージーブックス)

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追撃の森 (文春文庫)

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死ぬまでお買物 (創元推理文庫)

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獄門島 (角川文庫)

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マーチ家の父 もうひとつの若草物語 (RHブックス・プラス)

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黒き水のうねり (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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