第3回翻訳ミステリー大賞記念コンベンション読書会報告:ニッキ・フレンチ『生還』前編(執筆者・挟名紅治)

 2012年4月14日午後8時50分頃、東京都は本郷にある旅館「鳳明館」森川別館の1室で俺は頭を抱えていた。シンジケート事務局の皆様があんなに忙しくしていたのに、俺だけ休憩時間の合間にちゃっかり風呂に入り、しかもつい我慢できずに風呂上がりのビールを飲んでいたことを後悔して、ではない。俺がナビゲーターを務める読書会について悶々としていたのである。
 今回の課題本はニッキ・フレンチ『生還』。昨年出たばかりの本だし、文庫だから手に入り易いのでみんな気軽に参加してくれるよね、と俺は楽観していた。

生還 (角川文庫)

生還 (角川文庫)

 ところが、である。
 サイトにアップされたコンベンションの予定表を見た瞬間、俺は総毛立った。俺が読書会を開催する同時刻に、小山正氏・平岡敦氏らによるフランス・ミステリー部屋! 田口俊樹氏によるハードボイルド部屋!(喫煙可!) 佐々田雅子氏・永嶋俊一郎氏によるエルロイ部屋! そしておいしいお茶とケーキでキャッキャウフフできちゃうコージー部屋! が催されるっていうじゃないか! だめじゃん、俺。いくら『生還』が面白くてもこんな「歴代仮面ライダー全員集合!」みたいな豪華ラインナップじゃあ、ショッカーの戦闘員よりも俺の読書会企画は頼りない気がするんだが……。幸い、エルロイ部屋だけは時間がずれたものの、やはりハードボイルド部屋とフランス部屋強し。この二部屋に蜜に群がるアリのごとく人が入っていくのでした。フランスに至ってはピエール・シニアックの短編という飛び道具まで出てきやがった。つーか、俺も行きたいよ、それ!


 てな感じで当初は客入りを心配していたわけですが、開始の9時が近づくにつれ、徐々に参加者は増え、結果的には10人ちょっとの人数が集まりました。やったよ、母さん、ヒラの戦闘員だけど、俺がんばったよ。イーっ!
 しかし部屋を見渡すとビックリ! 男性は私、挟名を含め合計2人だけ。まあ、ニッキ・フレンチってどちらかといえば女性読者に受けが良さそうな作家だからなあ。ちなみに挟名以外で参加された男性は、福岡読書会の世話人をなさっている雑食さんでした。
 そんなこんなで始まった『生還』読書会、まずは「今までに『生還』以外でフレンチ作品を読んだことある人!」と質問を投げかけると、これが私を含めて2人だけ。
『優しく殺して』の映画化のキリング・ミー・ソフトリーなら観たことあるけど……」と言う方はいたけれど、映像化の効果むなしく、思ったほどニッキ・フレンチ作品は読まれていないようだ。まあ、映画も残念な出来だったしな……。ヘザー・グラハムはエロカワいくて良かったけど。(←あくまで挟名個人の感想です)〔←興味のあるかたはここをクリック:編集部〕

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 さて、ニッキ・フレンチ初体験の方が多い中、順々に感想を聞いていくと、
「ヒロインが自分の監禁された事実を証明しようとする二章からグイッと引き込まれました」
「監禁シーンがスリリングでよかったです」
と、冒頭から中盤にかけてのサスペンスにがっつり心を掴まれた! という意見もあれば、
「読んでいる途中まで主人公の体験したことが夢か現実なのか、どっちつかずな感じが面白かった」
と、ちょっと幻想小説のテイストを楽しんだ方もいらっしゃったよう。
 しかし、一番多かったのが、
「この結末は曖昧で唐突な気が……」
と物語の終わり方に釈然としない、という意見。
 ふっふっふっ、やはり出ましたか。そんな感想が飛び出すんじゃないかと思い、実はレジュメにこんな解説を……と挟名がドヤ顔で喋りだそうとしたその時! 突然、煙草の匂いを漂わせながら、ある人物が読書会部屋に登場したのである。
『生還』読書会に現れた闖入者の正体とは?!
 そして、その人物が語る『生還』の魅力とは?!
 すべては後編で明らかになる……はず!


〔後編は明日掲載予定です:編集部〕

挟名紅治(はざな・くれはる)


・ミステリー愛好家。「ミステリマガジン」に作品解題などを執筆。
・当サイトで【挟名紅治の、ふみ〜、不思議な小説を読んで頭が、ふ、沸騰しそうだよ〜 略して3F】を好評連載中。