TVを消して本を読め!第三十回(執筆者・堺三保/挿絵・水玉螢之丞)

 

第30回 スピンオフのおもしろさと難しさ

 
 唐突ですが、皆さんはテレビドラマの「スピンオフ」という言葉をご存じでしょうか? これって、あるテレビドラマの姉妹編として、その設定(場合によっては登場人物の何人か)を引き継いで作られた別のドラマのことを指す言葉です。
 
 たとえば、「CSI:マイアミ」「CSI:ニューヨーク」CSI:科学捜査班のスピンオフ作品ですし、「NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班」は元々は「犯罪捜査官ネイビーファイル」のスピンオフ作品であり、そこからさらに「NCIS:LA 〜極秘潜入捜査班」というスピンオフ作品ができていたりします。「ロー&オーダー」にも「ロー&オーダー:SVC」を筆頭にいろんなスピンオフ作品があります。ちなみに「SVC」は、「ロー&オーダー」のスピンオフであると同時に「ホミサイド/殺人捜査課」のキャラが一人移ってきてるので「ホミサイド」のスピンオフでもあったりします。
 
 さて、今年話題のスピンオフといえば、もうすぐ終了する「クローザー」のあとを受けて始まる「メジャークライムズ(重大犯罪課)」と、「ボーンズ」のスピンオフとして日本でもCSで放送が始まった「ザ・ファインダー」でしょう。
 
「メジャークライムズ」のほうは、「クローザー」の最終回で、主役のクローザー(落とし屋)ことロサンゼルス市警重大犯罪課長ブレンダ・リー・ジョンソンが課を去ったあと、残された課員たちが新しい課長と共に事件に挑む、というもの。
 実はこれ、主役のブレンダを演じているキーラ・セジウィックが、これ以上のシーズン延長を望まなかったため(7シーズンやって、契約期間も満了したし、ゴールデン・グローブ賞エミー賞ももらったし、そろそろ違う仕事がしたいんでしょう)、彼女抜きでシリーズを続けるってことなんで、通常のスピンオフとはちょっと意味合いが違うのでした。
 
 一方、「ザ・ファインダー」のほうも、スピンオフとは名ばかりで、新番組「ザ・ファインダー」の主役が、シリーズが始まる前に1話だけ「ボーンズ」に登場してるだけなんですよね。
 これ、新番組を始めるときにアメリカではよくやる手で、要はこうやって宣伝を兼ねてお客さんの反応を見ているのです。
 今回の場合、アメリカのテレビらしい強引さがすごいなあと思ったのは、「ザ・ファインダー」の原作って、「ボーンズ」の原作者とは違う作家によるものだってこと。
 しかも、テレビの「ボーンズ」では、副主人公のブースFBI捜査官がザ・ファインダーことウォルター・シャーマンと軍隊時代に一緒の部隊にいたことがある(でもって、仲が悪かった)という設定になってるんですけど、ブースくんって原作のほうの「ボーンズ」には出てこない、テレビオリジナルのキャラですからね。
 つまり、まったく違う2つの小説シリーズを、オリジナルキャラを使って同じ世界観につないじゃってるんですよ。よくやるよなあ(わりと誉めてます)。
 

 さて、「ザ・ファインダー」のお話のほうはというと、これまた一風変わった「捜し物」ミステリとなってます。
 原作は The Locator というリチャード・グリーナーによる小説(未訳)。主人公のウォルター・シャーマンはイラク戦争に従軍し、負傷して除隊した元米兵なのですが、軍隊時代に培った索敵能力(これが、ほとんど超人的なまでに研ぎすまされた観察力と直感というあたりは、前回ご紹介した「サイク」の主人公にちょっと似てるかも)を生かして、遺失物から行方不明の人間までありとあらゆるものを探し出す「ファインダー」として、日々舞い込んでくる事件を解決していくというもの。
 南国フロリダはキーウエストを舞台にしているため、リゾート感満点のビジュアルが見どころの一つだったりして、全体に「ボーンズ」以上に軽い雰囲気かも。気楽に見られるアクションものといったところでしょうか。
 
 ところで、スピンオフと言えば、小説の世界でも、同じ作家が書いている別々のシリーズが、リンクしちゃってたりすることもよくありますよね。
 
 たとえば、ジェフリー・ディーバーのキャサリン・ダンスものは、同じ作家のリンカーン・ライムものからのスピンオフ(ライムものの『ウォッチメイカー』でダンスが初登場)ですし、マイクル・コナリーのミステリの登場人物たち(ハリー・ボッシュ、テリー・マッケイレブ、ミッキー・ハラー、ジャック・マカヴォイら)は、皆同じ世界に住んでますもんね。
 
 また、ロバート・B・パーカーの、警察署長ジェッシィ・ストーンと女性探偵サニー・ランドルの2つのシリーズが、途中で主人公二人が出会って恋に落ちるという展開でクロスオーバーしちゃったのには、ちょっと驚いたものです。2000年代以降は、代表作であるスペンサーものよりも、ジェッシィ・ストーンもののほうが気に入っていたので、パーカーの急死によってもはや続きが読めないというのは、なんとも寂しい話であります。
 
 そのパーカーのスペンサーものに代わって、アメリカで人気を博しているのが、モンキーズ・レインコート』でデビューしたロバート・クレイスのエルヴィス・コールものです。スペンサーにホークという凄腕の相棒がいるように、コールにもジョー・パイクという凄い相棒がいます。
 これが、いつもグラサンかけてる無口な男で、いざというときに駆けつけてばったばったと悪党をなぎ倒しちゃうという、まるでターミネーター2」シュワちゃんみたいなキャラなんですが、クレイスは LA Requiem(未訳)という作品で、パイクがなんでそんな生きた殺人機械みたいな人になっちゃったのかを描き、ついには彼を主人公にした『天使の護衛』という作品まで書いちゃったのでした。といっても、コールもきちんと出てきてパイクをサポートするんですけどね。いつもと役回りが逆になってるわけですが。
 これが好評だったせいか、今のところクレイスは、コールが主役の作品とパイクが主役の作品をほぼ交互に書いています。
 あ、そういや、コールものには、単独作品だった『破壊天使』の主人公もいつのまにか合流してるのであった。
 なんか、繰り返し書いてますが、日本でも翻訳再開しませんかねえ?>エルヴィス・コール。断然かっこよくておもしろいと思うんだけどなあ。
 
 ちなみに、ハリー・ボッシュとエルヴィス・コールはどちらもロサンゼルスの北側に住んでて、実はご近所さんだという設定になってます。そして、双方のシリーズで、相手を見かけて挨拶する場面が1回ずつ出てくるんですよ。
 こういう、作家間のエール交換みたいな描写を見つけると、ファンとしては嬉しくなっちゃいます。
 
 と、いろいろ楽しげに書いてきましたが、実はテレビドラマの場合、スピンオフものって、成功例より失敗例がたくさんあるっていう大きな問題があったりもするのです。
 たとえば、ヒルストリート・ブルース」の人気キャラ、バンツ警部補を主役に据えたビバリーヒルズ・バンツ」「X−ファイル」の変なサブキャラたちを主役に据えた「ローン・ガンメン」、最近だと「クリミナル・マインド FBI行動分析課」のスピンオフとして大々的に始まった「クリミナル・マインド 特命捜査班レッドセル」……。どれも人気が出なくて短命に終わってしまっています。
 つまるところ、アメリカの視聴者たちだって「柳の下のドジョウ」をそうそう何匹も相手にはしてくれないわけで、それぞれの作品がきちんとおもしろさをキープしてないと、どんなに人気作品の関連作だといっても、ついてきてくれないということでしょう。
 さて、「メジャークライムズ」「ザ・ファインダー」は熾烈な視聴率競争を生き残れるのでしょうか?

〔挿絵:水玉螢之丞  
  
●「ザ・ファインダー」初登場話予告編

 
堺三保(さかい みつやす)


1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。最近の仕事はテレビアニメエウレカセブンAOのSF設定。最新刊は『WE3』(小学館集英社プロダクション)。
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