2011年「秋の読書探偵」作文コンクール 最終審査結果発表!

 

 みなさん、お待たせしました! 今年度の「秋の読書探偵」コンクールの最終審査結果を発表します。
 今年の応募総数は108作(小学生91作、中高生17作)。11月上旬の予選委員による選考によってまず15作(小学生11作、中高生4作)の1次選考通過作が選出されたのち、去る11月14日、早川書房会議室にて最終選考会がおこなわれました。選考委員は小説家の川端裕人さん、翻訳家の羽田詩津子さん、翻訳家でやまねこ翻訳クラブ会員のないとうふみこさんの3名。1次選考に携わった事務局メンバーも加わって、2時間半に及ぶ和気藹々ながらも熱い議論ののち、入選作品が決まりました。


【中高生の部】
   最優秀賞  黒田國裕さん(中1) 「オリエント急行殺人事件
   優秀賞   萩原かのんさん(中3) 「時間のない国で」


【小学生の部】
   最優秀賞  夏羽さん(小6) 「〜Sparkling Cyanide〜」(ご本人の希望によりペンネームでの掲載です)
   最優秀賞  小平采果さん(小3) 「ファーブル昆虫記」
   優秀賞   坪井理央さん(小6) 「ジュラシック・パークを読んで」
   優秀賞   久保田樹さん(小5) 「とぶ船2 〜三国時代版〜」
   優秀賞   角田祐実さん(小3) 「金のかぎのひみつ」
   優秀賞   陣野十萌さん(小2) 「きせつのかんじ方」「かえたくてもかえられないもの」(2作合わせての入選です)


 最優秀賞・優秀賞のみなさん、おめでとうごさいます。最優秀賞のかたには賞状と図書カード5,000円ぶんを、優秀賞のかたには図書カード1,000円ぶんを後日お送りします。
 惜しくも選に漏れたみなさんも、すばらしい作品をたくさん送ってくださってありがとうございます。全員のかたに後日参加賞と個別コメントをお送りします。


 中高生の部のおふたり(黒田國裕さん、萩原かのんさん)と小学生の部の最優秀賞のおふたり(夏羽さん、小平采果さん)の作品は、この週末に全文を掲載させていただきます。

中高生の部・全文掲載の記事はこちら


 今回は力のこもったすばらしい作品が多く、選考する側はうれしい悲鳴のあげどおしでした。生き生きと気持ちのつづられた感想文もあれば、しっかりと客観的な分析のなされた評論もあり、登場人物への手紙や物語のつづきを書いてくれた人もいて、まさに色とりどりでした。絵を描いてくれた人、新聞形式で表現してくれた人、ふたつの作品のちがいを表にして比較分析をしてくれた人などなど……。どれも印象に強く残っています。
 そんななかで、最優秀賞や優秀賞に選ばれた作品に共通することがあるとすれば、読んだ本への熱い思いがしっかりとわかりやすく述べられ、その作文を読んだ人もまたその本に強い興味を持つだろうということです。その本や作家が大好きだという気持ちが最もよく伝わってきた作文だと言えるでしょう。今回入選したみなさんも、惜しくも選ばれなかったみなさんも、自分がほんとうに大好きだと言える本とつぎつぎ出会えるといいですね。


 さて、ここからは、最終選考に残った15作のそれぞれについて、選考委員からの感想やアドバイスなどを簡単に紹介します。


【中高生の部】


◎E・Tさん(中2)
 お読みになった本――『闇のダイヤモンド』 キャロライン・B・クーニー著、武富博子訳、評論社

闇のダイヤモンド (海外ミステリーBOX)

闇のダイヤモンド (海外ミステリーBOX)

羽田「小説の内容から、自分自身のホームステイ体験へつなげていく技術はみごとですね。まとめ方や文章力はすばらしいです。ただ、本の感想そのものは少ないかな」
ないとう「難民のいたアフリカと移住先のアメリカ、ふたつの世界のとらえ方がとても明
晰ですね。熱さのようなものはないけれど、それはそれで個性だと思います」
川端「こういう文章って、本を紹介する要素と、自分の世界に引きつけて考える要素とふたつあると思います。この文章はそのふたつがバランスよくて、安心して読めました」


◎黒田國裕さん(中1)最優秀賞
 お読みになった本――オリエント急行殺人事件 (上・下)アガサ・クリスティー著、安藤由紀・各務三郎訳、岩崎書店

オリエント急行殺人事件〈上〉 (アガサ・クリスティー探偵名作集)

オリエント急行殺人事件〈上〉 (アガサ・クリスティー探偵名作集)

羽田「作者へ呼びかけている手紙ですね。わかりやすいです。ただ、完全なネタバレなんで、未読の方が読むとどうでしょうか……。とにかく、作品の魅力はみごとに伝えています。今後のミステリの読者として楽しみですね」
ないとう「ミステリーが大好きなんだなと感じました。最後の一文がとても魅力的で、翻訳物を読み慣れている感じ」
川端「作者へのラブレターですね。作者への愛の表現としてはナンバーワン。ただ、未読の人に勧めるときに、この形式はどうかなというのはちょっとありますね」
【事務局より――「ネタバレ」については、事前に禁止していなかったこともあり、今回は減点対象にしませんでした。ただ、この作文のサイト掲載にあたっては、そのまま載せる形にせず、リンクから飛ぶ形にさせていただきます】


◎萩原かのんさん(中3)優秀賞
 お読みになった本――『時間のない国で』(上・下) ケイト・トンプソン著、渡辺庸子訳、東京創元社

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 上 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)

時間のない国で 下 (創元ブックランド)


ないとう「登場人物と会話を交わしている設定がおもしろいですね。そのなかで作品の雰囲気をうまく伝えています」
川端「構成が破綻しているようで、中学生の素のままという感じが力強い。文章の技術とかなんとかをすっ飛ばしたおもしろさが魅力」
羽田「何気ない自然な語りでありながら、みごとな作品の紹介になっています。まとめ方もテーマをからめていて巧みです」


◎N・Yさん(高2)
 お読みになった本――『闇の城、風の魔法』 メアリアン・カーリー著、小山尚子訳、徳間書店

闇の城、風の魔法

闇の城、風の魔法

川端「これも作者へのラブレター。本との運命的な出会いを感じます。欲を言えば、どうしてこの本にこんなにはいりこんだのかをもっと知りたかった」
羽田「そう、小学生から半年に1回はこの本を読んでしまうのはどうしてか、どんなふうに読み方が変わったのかを知りたかった。構成はとてもいいです」
ないとう「本との出会い、すばらしいですね。本にとって表紙は重要なんだなとも思いました。文章が整っていて、たくさん読書をしている人だとも思いました」



【小学生の部】


◎小平采果さん(小3)最優秀賞
 お読みになった本――『ファーブル昆虫記』 アンリ・ファーブル著、舟崎克彦訳、集英社

ファーブル昆虫記 (子どものための世界文学の森 20)

ファーブル昆虫記 (子どものための世界文学の森 20)

羽田「カブトムシを飼った様子が生き生きと描かれています。絵も上手。ファーブルへの手紙と友達への手紙というふたつに分けた構成もおもしろい」
ないとう「友達への手紙が、この本のとてもうまい紹介になっています。"ちょっかいを出す"という表現も楽しいですね。楽しんで読んでいる感じがすごくよく伝わってきます」
川端「2種類の手紙が重層的に本の魅力を伝えています。人のやらないことをやって、みごとに成功しています」


◎角田祐実さん(小3)優秀賞
 お読みになった本――『フェアリー・レルム9 空色の花』 エミリー・ロッダ著、岡田好惠訳、童心社

フェアリー・レルム〈9〉空色の花

フェアリー・レルム〈9〉空色の花

ないとう「この作品世界が大好きなんだな、と。話のつづきをこれだけの長さにするのは簡単なことじゃないですよね」
川端「ある意味で、まったくネタばらしをせずにこの本の魅力を伝えていることに感心しました」
羽田「創作で、登場人物が生き生き描かれているところがすごいです。おもしろすぎ。どんなシリーズかもよくわかります」


◎久保田樹さん(小5)優秀賞
 お読みになった本――『とぶ船』(上・下) ヒルダ・ルイス著、石井桃子訳、岩波書店

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈下〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈下〉 (岩波少年文庫)

川端「これも創作。三国志が大好きなんですね。つまり、同時にふたつの本を紹介しているとも言える」
羽田「やはり、まず三国志が大好きなんですね。文章力・構成力が特にすばらしい。ただ、もう少し『とぶ船』の紹介もしてもらいたかったかも」
ないとう「まさかのコラボ。結びの文も、読書が心の芯になっていることをうかがわせて頼もしいです」


◎陣野十萌さん(小2)優秀賞
 お読みになった本――『すばらしい季節』 タシャ・チューダー著、末盛千枝子訳、すえもりブックス
               『まっくろネリノ』 ヘルガ=ガルラー著、やがわすみこ訳、偕成社

すばらしい季節

すばらしい季節

まっくろネリノ (世界の絵本)

まっくろネリノ (世界の絵本)

羽田「文章力がありますね。大人っぽい表現も多い。『すばらしい季節』のほうが生き生きしていて、わたしは好きです」
ないとう「小2とは思えない整った文章ですね。ただ、絵本そのものについてはすこし遠くから見ているような感じもしました」
川端「正統派のよい感想文です。実体験とのバランスもみごと。感覚のみずみずしさを解放できる『すばらしい季節』のほうが完成度が高いかな」


◎夏羽さん(小6)最優秀賞
 お読みになった本――『忘られぬ死』 アガサ・クリスティー著、中村能三訳、早川書房

忘られぬ死 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

忘られぬ死 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

ないとう「成熟した読み手ですね。クリスティーの本や書評も読んでいて、この人の情熱はすばらしい。殺害された人物に惹かれたという書き方もおもしろい。なんていい読み方なんだと思いました」
川端「レビューらしいレビューとして完成度が高いですね。情熱があって、それでいて冷静に語っている。ネタバレもうまく避けているし、書評の書き方がわかっている」
羽田「クリスティの魅力の分析が的を射ていますね。作品の本質をみごとに突いているし、ほかのクリスティの作品も読みたくなる書評」


◎S・Iさん(小5)
 お読みになった本――『フレディ』 ディートロフ・ライヒェ著、佐々木田鶴子訳、旺文社

               『魔女がいっぱい』 ロアルドダール著、清水達也・鶴見敏訳、評論社

フレディ―世界でいちばんかしこいハムスター (旺文社創作児童文学)

フレディ―世界でいちばんかしこいハムスター (旺文社創作児童文学)

魔女がいっぱい (ロアルド・ダールコレクション 13)

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  • 作者: ロアルドダール,クェンティンブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,清水達也,鶴見敏
  • 出版社/メーカー: 評論社
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川端「ふたつの本を表入りで比較するアイディアに一票。自分の好ききらいに終始しているところがちょっと惜しいかな。文章もよくまとまっています」
羽田「比較するというアイディアはおもしろい。好きなほうの作品をもっと掘り下げて推してもいいかな」
ないとう「自分の好ききらいの理由を徹底的に突き止めたいというその発想がすごくおもしろい。『フレディ』5巻の比較をしてもよかったですね。苦手なものを乗り越えようという姿勢も魅力」


◎S・Kさん(小5)
 お読みになった本――『ぼくのつくった魔法のくすり』 ロアルド・ダール著、宮下嶺夫訳、評論社

ぼくのつくった魔法のくすり (ロアルド・ダールコレクション 10)

ぼくのつくった魔法のくすり (ロアルド・ダールコレクション 10)

羽田「ブラックユーモアとか、ダールについてよく調べて書いていますね。自分が惹かれる理由をもっと自己分析してもよかったと思います」
ないとう「ダールの魅力をあらためて教えられました。評伝まで読んで、それを突き止めたのはすばらしい」
川端「こわいもの見たさ+アルファの、その部分をもう少し知りたかったかな。調査力はすばらしい」


◎坪井理央さん(小6)優秀賞
 お読みになった本――ジュラシック・パーク(上・下) マイクル・クライトン著、酒井昭伸訳、早川書房

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ないとう「カオス理論の部分は映画で表せなかったので、そこに焦点をしぼって書いた発想はとてもおもしろい。もっと深めてください」
川端「カオス理論の理解が的確だと思います。そこから発展させて、現代の問題意識にみごとに迫っている。ハードSFをどんどん読んでもらいたい」
羽田「物語のおもしろさとは別次元で突っ走っているんですが、その迫力はすごいです」


◎K・Tさん(小3)
 お読みになった本――『やかまし村の子どもたち』 アストリッド・リンドグレーン著、大塚勇三訳、岩波書店

やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫(128))

やかまし村の子どもたち (岩波少年文庫(128))

川端「新聞形式をうまく生かしています。上手に作品を紹介できている」
羽田「自分が村の一員になった気分で書いていて、村が大好きだという気持ちが伝わってきます」
ないとう「このシリーズが好きになると、こういうふうに自分も住みたくなるんです。色の使い方もおもしろいですね」


◎K・Sさん(小5)
 お読みになった本――『怪盗紳士』 モーリス・ルブラン著、南洋一郎訳、ポプラ社

怪盗紳士 (シリーズ怪盗ルパン)

怪盗紳士 (シリーズ怪盗ルパン)

羽田「ルパンの魅力の本質をよく理解しています。とにかくルパンが大好き、本が大好きなんだなと」
ないとう「正統派のミステリー読みになる人ですね。楽しみです」
川端「これだけ好き好きという感じが伝わってくるのはすがすがしいですね。一定の分析もされています」



【総評】
川端「去年よりずっと点数が増え、いろんな形式のものが来て、とにかく全部おもしろかった。レベルが高いと思いました。来年もぜひ読ませてもらいたいし、またぜひみんな応募してきてもらいたい」
羽田「内容が充実し、力作ばかりで落とすのを心苦しく思いました。本好きの子が減ってると言われるけど、これを見ているとぜんぜんそう思えません。大人顔負けの文章を読ませてくれてありがとう」
ないとう「お世辞でもなんでもなく、読んでいて楽しい時間でした。子供はほんとうに激しく力強く本を読むんだな、うらやましいなと思いました。小学校でこれだけたくさん本を読んでいたら、中高生になっていろいろ忙しくなっても、時間を見つけて読んでくれるだろうな、そうなってほしいなと思いました」


 3人の選考委員のかた、どうもありがとうございました。
 そして応募してくれたすべてのみなさん、すばらしい作文を読ませてもらってほんとうに感謝しています。どうか来年もまた何か翻訳書を読んで、今年以上に熱い思いを作文の形でわたしたちにぶつけてきてください。楽しみにしています。