エルロイ酒場・浅井ラボ選「これがノワールだ!」(執筆者・文藝春秋N)
さる8月24日、《ミステリ酒場》第2弾として、新作『アンダーワールドUSA』の刊行を機に《ジェイムズ・エルロイ酒場》が開かれました。
メインのゲストとして、暗黒ライトノベル作家の異名をとる浅井ラボさんと《アンダーワールドUSA三部作》の翻訳者である田村義進さんをお招きして、エルロイを中心とした「ノワール」について縦横に語り合う2時間あまりのイベントとなりました。後半では客席から英国暗黒小説の旗手デイヴィッド・ピースさんと、ミステリ評論家・吉野仁さんが参戦。ピースさんがジェイムズ・エルロイの名作『ホワイト・ジャズ』の冒頭部の原文を朗読するという大西洋両岸のノワールの巨星によるコラボレーションが行われ、盛況のうちに幕を閉じました。
さて、ご自身も暗黒度の濃厚なライトノベル・シリーズ『されど罪人は竜と踊る』(ガガガ文庫/現在まで10巻)を発表している浅井ラボさんは、エルロイのみならず、ジャック・ケッチャムやアンドリュー・ヴァクスなど、海外ノワールの読み巧者でもありました。そんな浅井さんによる「エルロイっぽい作品」の紹介が後半の目玉となりました。
イベントの現場ではチェックしきれなかったというかた、イベントには行けなかったけど……というかたのために、【浅井ラボによるノワール名作選】をまとめてみました。今後の暗黒読書の参考になれば幸いです。
■PART ONE: 海外ミステリ
・ジム・トンプスン『ポップ1280』『俺の中の殺し屋』
※浅井ラボ氏コメント:エルロイよりはトンプスンのほうが入りやすい。前者の破綻と、後者の悲しくも美しいラストシーンは必読。
・ジャック・ケッチャム『隣の家の少女』『老人と犬』
※浅井ラボ氏コメント:よくトラウマ本に挙げられますが、他にあまりないタイプの怖さです。なにしろ読後に「読んでいる自分も、主人公と同じことをしてしまうだろう」という怖さがあります。どのようなことを、というのは一読あれ。
・アンドリュー・ヴァクス『ハード・キャンディ』
※浅井ラボ氏コメント:先行するバークシリーズを読んでおくとより分かりやすいですが、カルト教団に伝説の殺し屋まで現れて、最後まで読むと、題名に唸ることになります。ちなみに作者は眼帯をした弁護士です。
・ドン・ウィンズロウ『犬の力』
※浅井ラボ氏コメント:メキシコ麻薬戦争を描いた話ですが、ウィンズロウと現実のメキシコのマフィアのボスはお互いにより酷い殺し方競争をしているように見えます。現在の残酷度では、メキシコマフィアが勝っているように思えるので、次のウィンズロウ作品は勝ちにくるはずです。
・シェイマス・スミス『Mrクイン』『わが名はレッド』
※浅井ラボ氏コメント:一般的なミステリーにおける完全犯罪は名探偵に破られるために作られますが、犯人が成立させていく話。後者は前者からさらに進化してラストシーンが悲しく作られています。
■PART TWO: マンガ
・水木しげる『墓場鬼太郎』
※浅井ラボ氏コメント:漫画におけるノワール的な主人公は、少年誌やアニメなどで解毒されたゲゲゲの鬼太郎にはない理不尽な墓場鬼太郎からではないかと思うわけです。
・永井豪『デビルマン』
※浅井ラボ氏コメント:前半は普通の話なのですが、最終刊で不動明が家に帰ったあたりからの展開は漫画の歴史を変えたと思います。
・オイスター『少女地獄3』/氏賀Y太『真・現代猟奇伝』/早見純『一冊、二冊、惨殺』
※浅井ラボ氏コメント:オイスター氏は和製ケッチャムと勝手に呼んでいます。氏賀氏から早見氏へと読むといいでしょう。
(註:いわゆる「成年マンガ」なのでリンクが張れません。悪しからず)
・岡崎京子『リバーズエッジ』『PINK』
※浅井ラボ氏コメント:ノワールとは男性的な暴力と死と残酷さを描くことが多いですが、同氏の一連の作品は女性の生きる世界のノワールが展開していると思っております。男性が読むことは少ないですが、一度読むと、その後の読書や女性観が変わるかと思います。
・青木雄二『ナニワ金融道』/田島隆&東風孝広『極悪がんぼ』/真鍋昌平『闇金ウシジマくん』
※浅井ラボ氏コメント:ジョージ秋山氏の「銭ゲバ」から、お金はノワールの中心のひとつでした。とくに闇金ウシジマくんは現代の日本ノワールの最先端のひとつだと思います。
・福本伸行『カイジ』/迫稔雄『嘘喰い』
※浅井ラボ氏談:ノワールとしてのキャラクター造型とシステム構築に注目。『カイジ』の唯一の疑問である「鬼畜のような胴元がなぜ素直にバクチのカネを払うのか?」を突破したのが『嘘喰い』である。(※エルロイ酒場での発言を筆者が要約)
・古谷実『ヒミズ』『ヒメアノール』
※浅井ラボ氏コメント:日本のどこかにいそうなダメな男子中高生と、その延長の絶望的な世界を描いた作品。ありふれていそうですが、あまり小説では描かれなかったのが不思議なジャンルです。
・山口貴由『シグルイ』/南條範夫『駿河城御前試合』
※浅井ラボ氏コメント:南條範夫氏の「人間の感情が極端にはしるところに残酷はうまれる。問題が無く、日常生活が平穏に営まれているところには残酷はあらわれない。しかし、ひとたび問題が起こり、社会や世間、とりまく人間関係がその問題を和らげることができず、その状況の中で人間の感情が極端にはしる時、あらわれてくるのは残酷だ」という言葉に、ノワールはだいたいまとめられるのではないでしょうか。
■Ustreamのアーカイブ
【LiveWire 41】「アンダーワールドUSA」発刊記念 ジェイムズ・エルロイ酒場 1
【LiveWire 41】「アンダーワールドUSA」発刊記念 ジェイムズ・エルロイ酒場 2
■エルロイ酒場に浅井ラボとデイヴィッド・ピースがきたー(下條アトムの声で)/「ジェイムズ・エルロイ酒場」のTwitterでの実況・感想まとめ(Togetter)■
●おまけ:Live Wire#41「ジェイムズ・エルロイ酒場」プロモーションビデオ
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■特報!! 8/31(水)ミステリ酒場番外編「納涼!夏のゾンビ祭り」!!
おまたせしました! 5月の「スティーブン・キング酒場」で予告されておきながら、ずっと実施が遅れていた「納涼!夏のゾンビ祭り」が、8月最終日ついに実現します。
出版不況が言われて久しい中、世にはどういうわけかゾンビ関係の出版物がどんどん増殖中。昨年の「WORLD WAR Z」や「高慢と偏見とゾンビ」のヒットに刺激されたのか、今年も日本未公開ゾンビ映画をも網羅した300本超を総解説した「ゾンビ映画大マガジン」(映画秘宝)やTVドラマシリーズ「ウォーキング・デッド」の原作アメコミ本(飛鳥書房新社)など映像絡みの出版が相次ぎ、小説も「ぼくのゾンビライフ」(太田出版)「憎鬼」(武田ランダムハウスジャパン)などが引きも切らない勢い。食品業界でもゾンビテーマの商品が売り出される始末。なぜ今日本はここまでゾンビに埋め尽くされようとしているのか? その答えは簡単。そこにはゾンビを愛するフリークたちがいるから!
ならば夏の一夜にそのフリークたちを集めて、あまり普段親兄弟友人には明かせない“ゾンビ愛”をとことん語り合ってみようではないですか。この夜の発売を目指して、ゾンビTシャツデザインコンテストも開催。出版各社も在庫を持ち寄ってゾンビ商品屋台を出す予定。ならば、いっそゾンビコスプレコンテストもやってみたい。どこまで続くかゾンビ企画の数々。 君もゾンビになり切って、8月最後の「Night Of The Dead」をワルノリで埋め尽くすのだ!
イベント概要はこちら↓
http://www.go-livewire.com/archive0045.html
前売情報はこちら↓
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2011年8月31日 Live Wire #25 「納涼ゾンビ祭り」予告ビデオ
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