TVを消して本を読め!第二十一回(執筆者・堺三保/挿絵・水玉螢之丞)

 

第21回「女スパイのハードアクション『NIKITAニキータ』、なんと3度目のリメイク!」

 
 なんか、こないだもスパイものを取り上げたような気がしますが、今回もスパイものです。てか、やっぱ、スパイものは今、また何度目かのブームが来ようとしているのかもしれません。
 
 そんなわけで今回取り上げるのは、かつて、リュック・ベッソン監督が、当時としては珍しいフランス製アクション映画として大ヒットさせたニキータの、なんと3度目となるリメイク版NIKITAニキータです。
ニキータ」といえば、その後アメリカで「アサシン 暗・殺・者」としてリメイクされたあと、さらにカナダでテレビドラマニキータ1997」となって4シーズンも放送されたという、人気作品です。
 
 今回の「ニキータ」のどこがおもしろいかというと、完全なヒーローものに物語の基本構造を変更したこと。
 これまでの「ニキータ」は3作とも、自らの意志と関係なく否応なしにスパイ組織の殺し屋に仕立て上げられた主人公が、組織内にあって、自分の境遇に悩むという筋立てだったわけですよ。
 ところが、今回のテレビ化は、そこのところは「もうすでに終わった話」としてばっさりカット、組織から脱走した主人公が、組織壊滅をめざして戦いを挑む、という、ストレートなヒーローものになってるんですね。
 悪の秘密組織にむりやり殺し屋にされたものの、組織を脱走、たった一人で戦いを挑む……って、それじゃほとんど仮面ライダー1号こと本郷猛でしょ。
 かつてのニキータを彷彿とさせる組織の新人お嬢ちゃんも登場するんですけど、彼女あたりはさしずめ2号ライダー、一文字隼人になっていくのかも……。
 ともあれ、そんなわけで、毎回、組織とニキータとが丁々発止とやり合う、シンプルかつパワフルなアクション・ヒーローものになっているところが、今回のドラマ化の最大の特徴なのです。
 

 このシンプルな設定をがっちり成立させているのが、なんといっても主役に抜擢されたマギー・Qの魅力でしょう。M:i:IIIダイ・ハード4.0で見せたアクション女優としてのスタイリッシュな演技を今回も存分に見せてくれます。やっぱ、アクションものの主役は、銃持った姿がさまになってないとね。
 ニキータ役って、オリジナル版のアンヌ・パリロー(黒髪)から、リメイク版のブリジット・フォンダ(栗毛)、そしてカナダのテレビドラマ版のペータ・ウィルソン(ブロンド)と、今までリメイクされるたびに印象バラバラだったんですが、さらにここへきて、まったく違うキャラになってしまったわけです。なんたって、マギー・Qですからね。黒髪のところはオリジナル版のアンヌ・パリローと同じですが、見た目はすっかりアジア系だもんなあ。
 もっともこの人、高校卒業後、日本、台湾、香港など、アジア圏でモデルをしていたとかで、中国系と思われがちですが、実は本名をマーガレット・デニス・クイグリーという、ハワイ出身のアメリカ人なんですけどね。アジア系に見えるのは、お母さんがベトナム人だからだとか。
 
 基本的な設定はそのまま引き継ぎつつも、お話の構造も、主人公のイメージも、今までの作品から一新してみせたあたり、リメイクものとしてはなかなかよく考えた作りになっているのではないでしょうか。
 日本でもすでにCSでの放送やDVD化が始まってるので、スパイアクションが好きな方はぜひともチェックしてみてください。
 
 ちなみに、スパイものと言えば、映画でも気になる作品が待機中です。
 一本は、あのスパイ小説の巨匠ジョン・ル・カレの代表作であるスマイリー三部作の開幕編を、「ぼくのエリ 200歳の少女」トーマス・アルフレッドソン監督で映画化した「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」です。
 ゲイリー・オールドマンコリン・ファーストム・ハーディマーク・ストロングベネディクト・カンバーバッチと、渋い原作に合った渋い配役が魅力です……って、まさかオールドマンがジョージ・スマイリーを演じる日が来るとは!
 東西冷戦のさなか、イギリス情報部の中枢深く入り込んだソ連側のモールと、それをあぶり出そうとするスマイリーの頭脳戦を描いた本作、79年にイギリスでテレビドラマ化された際には、アレック・ギネスがスマイリーを演じて、原作者にも「スマイリーにぴったり」と太鼓判を押させたほどでしたが、さて、今回のゲイリー・オールドマンはどんなスマイリー像を見せてくれるんでしょう?
 
 もう一本は、トム・クルーズ主演の大ヒット・スパイ・アクションミッション:インポッシブルシリーズの第4弾ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
 1作目をブライアン・デ・パルマ、2作目をジョン・ウー、3作目をJ・J・エイブラムスと、毎回監督が替わり、それもどんどん大物起用から俊英登用に移りつつあるこのシリーズ、なんと今回はアイアン・ジャイアント」「Mr.インクレディブル」「レミーのおいしいレストラン」のアニメ監督、ブラッド・バードが実写初監督に挑んでいます。
 映画そのものは、もはやオリジナル版である「スパイ大作戦」の影も形もない、トム・クルーズのオレ様映画になっちゃってますが、ブラッド・バードの実写初挑戦とあっては、観ないわけにはまいりますまい。
 
 そういえば、ロバート・ラドラム原作の大ヒットスパイアクション「ボーン」シリーズも、新作の製作がスタートしたって言うし(ただし、残念ながら主役はマット・デイモンじゃないんだとか)、MGMの経営難騒動で企画が止まっていた「007」シリーズの最新作も、アメリカン・ビューティーサム・メンデス監督でようやく再起動したし、やっぱりスパイ映画の時代が再び来てるのかも!
 
 ところで、007といえば、ジェフリー・ディーヴァーCarte Blanche が海外ではとうとう発売されましたよね。邦訳が出るのはいつかなあ? わくわくしちゃいますよね。
 あ、でも、その前に、リンカーン・ライムものの The Burning Wire 、それに非シリーズ作の The Bodies Left BehindEdge がまだ未訳で残ってるのか。ディーヴァー、仕事しすぎ(苦笑)。
 
 うお、今回は映像関係の話を書きすぎて、もはや小説の紹介をするスペースがない!
 とりあえず、最近出たスパイものとしては、『犬の力』ドン・ウィンズロウが、トレヴェニアンの『シブミ』の前日譚に挑戦した『サトリ』と、『嘆きの橋』(シリーズの残り3作の翻訳は?!)のオレン・スタインハウアーが、21世紀のスパイ像を描きだそうとした『ツーリスト 沈みゆく帝国のスパイ』の2作を要チェックつうことで、よろしく!

〔挿絵:水玉螢之丞  
 
AXNの「NIKITAニキータ」公式サイト
 http://nikita-tv.jp/
 
NIKITAニキータ」予告編

 
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」予告編

 
ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」予告編

 
〔筆者紹介〕堺三保(さかい みつやす)

1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。今年の仕事は、『ウルフマン』(早川書房)のノベライズと『ヘルボーイ 壱』、『ヘルボーイ 弐』(小学館集英社プロダクション)の翻訳。

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