翻訳ミステリー長屋かわら版・第10号
田口俊樹
寄付をしました。たぶん生まれて初めて。競馬、パチンコにおける回収不能な額を考えると、あまりにちょびっとなんですが。それでも、なんかいい人になった気分でした。それまた額に見合ってちょびっとながら。
ただ、赤十字のHPを見て、ネットで振り込もうとしたんですが、HPに載っている情報だけではそれができない。で、電話で直接問い合わせたら、ネットバンキングの場合には、HPに載っているものとは異なるゆうちょ銀行の口座番号に振り込むことが判明。だったら、そういうことをHPに書いておけばいいじゃん、って言ったら、ネットバンキングだと領収証が出ないので、なんぞという意味不明の説明。だったら、そういうこともHPに書いておけばいいじゃん、って言っておきました。
今、赤十字のHPを見たら、ネットバンキングの振込先もちゃんと載っていますね。私の提案に即応してくれたんだと思います。気のせいですが。
いい人になった気分で二週間ぶりに駅前のパチンコ屋に行きました。計画停電が実施されている中、まっさきに節電が求められそうな場所なわけで、ちょっとは自粛してたんですけど。
非国民がいっぱい来てました。私もです、はい。ただ、店内が暗かったです。やっぱそれぐらいしないとね。
でも、国際派ギャンブラーの私としては、これがラス・ヴェガスのカジノっぽい照明に思えてなかなか悪くない。ずっとこの暗さでいいんじゃないかと思いました。
落ち着かない毎日がここしばらくは続きそうです。被災者の方々の生活環境が改善され、原発事故が収束する日の一日も早いこと、祈っています。
(たぐちとしき:ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズ、バーニイ・ローデンバー・シリーズを手がける。趣味は競馬とパチンコ)
たいへんなことになっちまった。絶句。言葉を失った。ここでこうして無事に生きているおれはどうしたらいい? もちろん、募金はするよ。手を貸してくれといわれたら、飛んでいく。でも、被災した方々の苦しみを身をもって知ることはできない。じゃ、どうする? 目の前の仕事に精を出すしかない。日常をつづけていくことが大切なんじゃないかな。物語を訳すこと。物語って心に寄り添うものだから、きっと役に立ってくれると信じている。
だから、ジム・トンプスン祭りはよほどのことがない限り(放射能やら交通機関、電源の問題)、中止にはしません。お楽しみに!
(よこやまひろあき:AB型のふたご座。音楽を聴きながらのジョギングが日課。主な訳書:ペレケーノス『夜は終わらない』、ダニング『愛書家の死』ゾウハー『ベルリン・コンスピラシー』アントニィ『ベヴァリー・クラブ』ラフ『バッド・モンキーズ』など。ツイッターアカウント@maddisco)
鈴木恵
ジェラルディン・ブルックスの『古書の来歴』を読んでいるところ。500年前につくられたユダヤ教の写本「サラエボ・ハガダー」のたどった数奇な運命を描いた作品で、まったくのフィクションだと思っていたら、この写本、実在するんですね。グーグルで検索すると、写本に描かれている鮮やかな細密画がたくさん見られる(☞こちら)。ただ、19世紀の職人の手になるという装幀のほうは、残念ながら見つからない。というか、どれなのかわからない。この装幀がひとつのエピソードの主題になっているので、ぜひとも見たかったんだけど。
(すずきめぐみ:文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@FukigenM)
前回の「かわら版」でもお伝えしましたが、スティーヴン・キングの『アンダー・ザ・ドーム』はただいま4月末の刊行にむけて、関係各方面の多大な努力とともに製作の最終段階にはいっています。個人の力ではどうにもならない巨大な現実を前に、それでも物語の力を信じている作家であるキングの思いを届けるべく、翻訳者として微力を尽くすだけです。
(しらいしろう:1959年の亥年生まれ。進行する老眼に鞭打って、いまなおワープロソフト「松」でキング、グリシャム、デミル等の作品を翻訳。最近刊はマルティニ『策謀の法廷』。ツイッターアカウント@R_SRIS)
越前敏弥
自分に何ができるのか、あれこれ考えるけれど、結局のところ、平時と同じように仕事をして、おもしろい本を日本じゅうに届ける作業の一端を担うことぐらいしか考えつかない。きのう、長らく連絡がとれなかった被災地の友人から電話がかかってきて、7歳のお嬢さんとも少しだけ話せたのだが、まだ電気が復旧しないなかで、わたしがかつて訳した児童書を何度も繰り返し読んでくれているのだとわかり、この仕事をしていてほんとうによかったと思った。
いま自分が最優先すべき仕事のひとつ――ドルリー・レーン4部作の新訳第3弾『Zの悲劇』が本日刊行されます(流通事情でまだ入荷しない書店もあるかもしれません)。本編もさることながら、法月綸太郎さんのすばらしい解説をぜひお読みください。
(えちぜんとしや:1961年生。おもな訳書に『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり。ツイッターアカウント@t_echizen )
加賀山卓朗
毎日祈りながら、スペンサー・シリーズ最終作を訳している。自分だけが「いつもの彼ら」から慰めを得ていて、申しわけなく思う。本の季節も春。一刻も早く、この国に暖かい春が来ることを願っています。
(かがやまたくろう:ロバート・B・パーカー、デニス・ルヘイン、ジェイムズ・カルロス・ブレイク、ジョン・ル・カレなどを翻訳。運動は山歩きとテニス)
上條ひろみ
まずは、このたびの未曾有の天災の被害にあわれました方々に、心よりお見舞いを申し上げます。
こんなとき、自分にできることは何だろう、と考えました。
募金、寄付、節電。
翻訳も日本の役に立つかもしれない。読書の楽しみが心を豊かにし、明日に立ち向かう力をくれるかもしれない。それにはせっせと仕事をするしかない。そう信じて机に向かう日々です。こじつけかもしれませんが。
ところで、最近読んだ本でおもしろかったのは、アッティカ・ロックの『黒き水のうねり』(高山真由美訳/ハヤカワ文庫HM)。訳者あとがきにもあるように、最初は主人公のどんくささにイライラしたけど、読んでいくうちに「お、やるな」と思える箇所が増えていって……でもいちばん意外だったのは、著者が女性だったこと。なんとなく男性だと思いこんでました。
(かみじょうひろみ:神奈川県生まれ。ジョアン・フルークの〈お菓子探偵ハンナ・シリーズ〉(ヴィレッジブックス)、カレン・マキナニーの〈朝食のおいしいB&Bシリーズ〉(武田ランダムハウスジャパン)などを翻訳。趣味は読書とお菓子作り)
■翻訳ミステリー長屋かわら版・バックナンバー■
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