鉄分たっぷりミステリー・ベスト5(執筆者:駒月雅子)
『アンストッパブル』公開記念! 魅惑の鉄分たっぷり翻訳ミステリー
皆様、こんにちは。鉄子です。乗り鉄です。鉄道は、摩訶不思議な方向感覚を持つ(つまり Houkou-Onchi)わたしにとって一番確実な移動手段であるばかりか、読んだり寝たり眺めたりと有意義な時間を過ごせますし、旅行のときは食べたり飲んだり語らったりもできて、本当に心強くありがたい存在です。老後は国内外を問わず列車で移動生活を送ろうかなと考えています。題して、「暮らすように乗る」……おしゃれかどうかは別として、座席(と気力と体力と記憶力と思考力)さえあれば翻訳の仕事だって続けられますし、疲れたら途中下車して、温泉に浸かるもよし、ごちそうに舌鼓を打つもよし。まさに極楽ですね。
さてさて、2001年にオハイオ州で起こった実際の事故を題材にしたという、危険物を積んで暴走する重量貨物列車と普通の男たちの勇姿を描いたトニー・スコット監督の『アンストッパブル』、早くも評判は上々のようです。これからご覧になる方もいらっしゃるでしょうから、内容にはなるべく触れないようにして率直な感想を書きますと、
◆デンゼル・ワシントンがいつの間にか渋い熟年男性になってた!
◆〈フーターズ〉に行きたい!
◆スタントン大曲(急カーブ)は作り物っぽいけど胸が躍るのなんのって!
お台場を走る「ゆりかもめ」のループ線からレインボーブリッジにかけての部分とか、那覇の「ゆいレール」の奥武山公園〜壺川間に似てなくない?
機関車や操車場や鉄橋のシーンがてんこもりの、鉄道愛あふれる映画です。そして、運転台と運転指令所の緊迫したやりとりに、あの日本映画を思い浮かべずにはいられませんでした。
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
- 発売日: 2002/07/21
- メディア: DVD
- 購入: 1人 クリック: 40回
- この商品を含むブログ (80件) を見る
ということで、拙訳でなんなんですが、鉄分たっぷり翻訳ミステリーのトップバッターには、この作品を挙げたいと思います。
- 作者: ジョゼフランス,加藤阿礼,Joseph Rance,駒月雅子
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
- クリック: 14回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
二番手は、鉄道技師から転身したイギリス人作家によるフレンチ警部シリーズから。
- 作者: F・W・クロフツ,中山善之
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1983/11/25
- メディア: 文庫
- クリック: 2回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
お次はイギリスから、『ジキル博士とハイド氏』や『宝島』を書いた文豪が継子と合作した、探偵小説をちょっぴり揶揄する独創的で面白おかしい探偵小説を。
- 作者: ロバート・ルイススティーヴンスン,ロイドオズボーン,Robert Louis Stevenson,Lloyd Osbourne,千葉康樹
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2000/09/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
最後は、オーストラリア大陸横断鉄道を舞台にしたコージー風サスペンスです。
- 作者: コニスリトル,Conyth Little,三橋智子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/08
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (17件) を見る
この真相は知らなきゃ損。残酷なのや怖いのが苦手な方も安心して読めますし、軌間(ゲージ)のちがいについて登場人物がぶつくさ言う場面に鉄心をくすぐられます。イギリスが口を酸っぱくして注意したにもかかわらず、十九世紀のオーストラリアは軌間を統一しないまま路線の敷設を進め、国内の標準軌化が遅れました。シドニーとメルボルンのあいだをオルバリーでの乗り換えなしで移動できるようになったのは一九六二年のことですから、作品が書かれた当時(一九四四年)はいささか不便だったんですね。
鉄道とミステリは相性抜群ですので、ほかにも新訳が出たエラリー・クイーンの『Xの悲劇』、ディック・フランシスの『横断』、哀愁がじわりと効いてくるアーサー・メイリングの『ラインゴルト特急の男』など、傑作が目白押しです。上に挙げたクロフツはもちろん、アガサ・クリスティも鉄道を舞台にした作品をいろいろ書いていますし、あのシャーロック・ホームズだって、郊外や田舎へ汽車でしょっちゅう出かけていきますよね。車室でホームズとワトスンが語り合うシーンや、ホームズが車窓を眺めながらふと洩らす言葉に、いつも息づかいが荒くなる鉄子です。
今回は完全に個人的な好みで突っ走ってしまいましたが、鉄道系翻訳ミステリーの基本を押さえたい、またはもっと深く探求したいという方は、「ミステリマガジン」2006年6月号をお手に取ってみてはいかがでしょうか。「鉄道ミステリの旅」と題した特集には、映画と小説、両サイドからの情報が盛りだくさんですよ!
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
それではさようなら。ピーーーーーッ!!!(遠ざかっていく警笛のつもり)
駒月 雅子(こまつき まさこ)1962年生まれ。慶応義塾大学文学部卒、英米文学翻訳家。マクロイ『幽霊の2/3』、スティーヴンスン『難破船』、ドラモンド『あなたに不利な証拠として』、リッチー『カーデュラ探偵社』、キイス『預言』ほか多数。 |
●AmazonJPで駒月雅子さんの訳書をさがす●
アンストッパブル ブルーレイ&DVDセット〔初回生産限定〕 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
- 発売日: 2011/04/27
- メディア: Blu-ray
- 購入: 3人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (42件) を見る
- 作者: エラリー・クイーン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/01/24
- メディア: 文庫
- 購入: 4人 クリック: 19回
- この商品を含むブログ (45件) を見る
- 作者: ディックフランシス,Dick Francis,菊池光
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1994/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る
- 作者: アーサーメイリング,Arthur Maling,井坂清
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1994/10
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/04/25
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: コナン・ドイル,えすとえむ,駒月 雅子
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2010/12/25
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (15件) を見る