第4回『ハートの刺青』
87分署シリーズ第四作『ハートの刺青』です。結論を先取りしてしまうと、作品としては決して悪くないのですが、色々と問題のある作品でした。何がどう問題なのかはおいおい書いていくとして、まずはあらすじをまとめてしまいたいと思います。
- 作者: エド・マクベイン,高橋泰邦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1976
- メディア: 文庫
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今回もまた、新キャラクターが投入されています。黒人(ヒスパニック系かも?)刑事のアーサー・ブラウンは、名字と顔の色が同じというので昔から随分とからかわれたという設定。しかし、変わった名前ネタでは先輩格のマイヤー・マイヤーには到底かなわない感じだし、容姿が取り立てて特徴的でもない。いかにもな地味キャラです。発表の1957年には、有色人種の刑事が少なかった可能性はありますから、そこが売りなのかもしれません。しかし人種差別を乗り越えて懸命の捜査とか、そういう要素がないので、今回はテコ入れ失敗の感が強いです。
捜査は女性の手に施された「ハートの刺青」を中心に進んでいきます。この刺青に込められた意味を読み取ることが出来ず、ゆえに捜査が延々空回りするというのがプロットの主軸となります。猪突猛進というか、どうにもワンパターンなので、読者としてはもはやお約束感のあるストーリーに、「詐欺」というキーワードをに上手く絡めていくところはなかなか面白い。また、かなりいいところまで迫りながら(読者同様)毎回気付けないクリングにはハラハラさせられっぱなしで、ワンパターンながらマクベインの巧さには驚かされます。
さて、本作の見逃すことのできない問題点、それは裏表紙のあらすじとそれから登場人物紹介にあります。今回レビューを書くにあたって、あらすじを確認した私はびっくりしました。「その日ハーヴ側に打ち上げられた水死体の女は○○○○に……」と、さりげなくとてつもないネタバレが。このことが分かるのは話が相当進んでからで、そもそもこれが分かると作品の根幹的な仕掛け(というほど複雑でもないですが)が台無しになってしまうんですけど……。また、登場人物紹介を読むと、「このどちらかが犯人です」とマクベインが読者を挑発するシーンが台無しになってしまいます。何しろ犯人の名前しか書いていないので……。気付いた時は衝撃でした。なので、もしこれから『ハートの刺青』を読むという人がいましたら、あらすじと人物紹介は見ないように気をつけて下さい。
私自身、このレビューのあらすじで致命的なネタばらしをしないように気をつけなければいけないな、と身も引き締まる想いです。
ということで、この作品についてまとめますと、新キャラテコ入れは失敗、ストーリーは連続殺人ものが続いてマンネリ気味、「詐欺」というキーワードの絡め方は面白いが、編集周りでポカが続発している問題作……と言ったところでしょうか。次作『被害者の顔』こそ、そろそろ新機軸の作品を期待したいところですが……。
三門優祐
えり好みなしの気まぐれ読者。読みたい本を読みたい時に。