TVを消して本を読め!第十三回(執筆者・堺三保)
第十三回 迫真の警察ドラマ「サウスランド」
前にも何かで書いたような気がしますが、アメリカの地上波放送における視聴率争いの激しさは、日本の比ではありません。視聴率が悪ければ、シーズン途中であろうと、あっというまに打ち切りが待っているのです。特に厳しいのが新番組で、ドラマだろうが何だろうが、最初の数話で視聴率が悪ければ、最悪4話目で放送打ち切りという末路が待ち構えています。
そこまでひどくはなくても、シーズン終了後に、製作会社側は続行を考えてたのに、テレビ局側が打ち切りを決定した場合、お話が尻切れトンボになってしまうことは多々あります。一話完結型のドラマならともかく、ストーリーが途中でぶった切られちゃってる連ドラがアメリカに多いのは、こういう理由によるわけです。
まあ、昔は日本のアニメでも打ち切りはよくあったわけで、「ヤマト」と「ガンダム」は話数短縮、「イデオン」も「バルディオス」はもろに打ち切りな最終回を迎えてたわけですが、って閑話休題。
そんなアメリカのテレビドラマですが、最近、地上波で打ち切られた番組が、ケーブル局で継続されるような例が増えてきているのです。
要は「批評家の評判が良く、一部に熱烈なファンがいる」ドラマを、お客さんの総数が少なく、テレビ好き、ドラマ好きがそろっているケーブル局に移して放送することで、良質のコンテンツを生き延びさせようということなのです。
すでに、「ロー&オーダー」シリーズの中でもミステリ色の濃い異色作「ロー&オーダー:クリミナル・インテント」や、田舎の高校のアメフト部を巡る苦い青春ドラマ「サタデー・ナイト・ライツ」といった作品が、地上波からケーブルに移って、そのまま放送されています。
そんな中で、昨年あっというまに地上波では打ち切られてしまったものの、今年からケーブル局に移って放送が続いている警官ドラマが、「ER」や「ザ・ホワイトハウス」などで知られるジョン・ウェルズがプロデューサーを務める「サウスランド」です。
リアルな警察ドラマといえば「ポリス・ストーリー」、「ヒル・ストリート・ブルース」に始まり、「ホミサイド」、「NYPDブルー」などへと連なる連綿たる系譜があり(ジョン・ウェルズもすでに一度、警察・救急・消防の三者が出てくる「サード・ウォッチ」というドラマを作ってますね)、今期も「Blue Bloods」や「Detroit 187」といった新作警察ドラマが始まっています(詳しくは連載第8回にて)。
「サウスランド」も、そういった警察ドラマの一本です。
舞台となるのはロサンゼルス市。「サウスセントラル」と呼ばれる、もっとも危険な犯罪発生地域を担当地区とする警察官たちの日常を、ベテランと新人の制服警官コンビを中心に描いた、今もっともリアルな警察ドラマなのです。
制服警官たちの日常業務が物語の大半を占めるため、いくつもの小さな事件が平行して語られ、事件ごとの「謎解き」の要素はあまり存在しません。あくまでもリアルな「犯罪とそれへの警察の対応」が描かれていきます。このあたりの作劇は「ヒル・ストリート・ブルース」を彷彿とさせるものがあります。
そういえば、「ヒル・ストリート・ブルース」も放映当時は低視聴率に苦しんだそうですが、「サウスランド」はそのあまりにも重苦しい雰囲気(解決しない、もしくは悲惨な結末を迎える事件が多いことや、夜の場面が多くて画面が暗いこと等々)が、視聴者に避けられることとなり、あっというまに打ち切られてしまったのでした。
ところが、批評家や一部のファンからは、この作品の持つリアリティに熱烈な支持が集まり、見事にケーブル局での放送続行が決定したというわけです。
警察ドラマファンには見逃せない一本、日本でも放送されるといいのですが、……なんせ話が暗いからなあ(苦笑)。
さて、ロサンゼルス市警を舞台にしたリアルな警察ものというと、以前にも紹介したジョゼフ・ウォンボーの小説がまず頭に浮かぶわけですが、今回は趣向を変えてイギリスの警察小説を二つほど紹介したいと思います。
まずは、複数の事件が平行して起こる、いわゆるモジュラー型警察小説の元祖、J・J・マリックの〈ギデオン警視〉シリーズです。あのエド・マクベインの〈八七分署〉シリーズの開始よりも一年早く、一九五五年に『ギデオンの一日』でスタート、約二〇年間にわたって書き続けられた作品で、第七作『ギデオンと放火魔』ではアメリカ推理作家協会賞を受賞しています。
かつては八作ほどが翻訳されていましたが、今でも入手できる作品は少なく、未訳の作品も多いこのシリーズ、ぜひともどこかで再紹介してもらいたいものです。
ギデオン警視がモジュラー型警察小説の嚆矢だとしたら、R.D.ウィングフィールドの〈フロスト警部〉シリーズは、その現代版と言っていいでしょう。
フロストがおもしろいのは、なんといっても本人のキャラクター。
一見すると、ヘボ探偵として知られるドーヴァー警部(ジョイス・ポーター作)やクルーソー警部(映画「ピンクパンサー」シリーズの主役)に近い、あくの強さとダメダメっぷりに見えちゃうのに、その実、直感と粘り強さで事件をちゃんと解決してしまうところでしょう。
作者が寡作だったため、『クリスマスのフロスト』、『フロスト日和』、『夜のフロスト』、『フロスト気質』を含む六作しかないのが残念です(残り二作の翻訳が早く読みたい〜!)。
でも、フロスト警部は、イギリス本国でテレビシリーズ化していて、テレビオリジナルのストーリーがけっこうおもしろいんですよね。しかも全四二話!
こちらもおすすめです。
●ドラマ「サウスランド」公式サイト→ http://www.tnt.tv/series/southland/
●AXNミステリー「フロスト警部」紹介ページ→ http://mystery.co.jp/program/frost/
〔筆者紹介〕堺三保(さかい みつやす)
1963年大阪生まれ。関西大学工学部卒(工学修士)。南カリフォルニア大学映画芸術学部卒(M.F.A.)。主に英米のSF/ミステリ/コミックについて原稿を書いたり、翻訳をしたり。もしくは、テレビアニメのシナリオを書いたり、SF設定を担当したり。さらには、たまに小説も書いたり。最近はアマチュア・フィルムメイカーでもあり(プロの映画監督兼プロデューサーを目指して未だ修行中)。今年の仕事は、『ウルフマン』(早川書房)のノベライズと『ヘルボーイ 壱』、『ヘルボーイ 弐』(小学館集英社プロダクション)の翻訳。
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